フラジャイル~こわれもの(完)
これまでの人生、といってもたった二十八年だけれど、ぼくは完璧に生きようと思ってきた。
そうしなければ気がすまなかった。
小さい頃からどんなこともシミュレーションして、生意気にも、人生で遭遇する可能性のあることは解決してしまったかのように思っていた。
少なくとも大学に入るまでは。
しかし、それはもろくも崩れ落ちてしまった。
もし二十歳をピークとした放物線をグラフに描いたとすれば、現在のぼくは、曲線の頂点の右側を落下している最中だ。
加速度を増しながら、急速に地面に接近しつつある。
いや、すでに着地してしまったかもしれない。
エミちゃんのお母さんの『大丈夫かしら』ということばと、大川さんちのおばさんの『しっかりしないとね』という二つのことばが、何度もぼくの頭の中でこだました。
エミちゃんのいたずらっぽい笑顔と、職探しをはじめた武藤さんのしかめっつらが目に浮かぶ。
幸せそうな真知子さん夫婦が路地から出て行く後ろ姿も見える。
今、ぼくに残された選択肢はたったひとつしかない。
この着地点から再出発することだ。
白地図に自分の手で線を引き、色を塗りながら自分の足で歩いていくほかない。
道しるべはどこにもない。
このまま袋小路の一角に潜むように生きていても、何の解決にもならない。
もう一度ふりだしに戻って、やり直してみようか。
(了)
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