わにままのブログ

わにままのブログ

私は10年ほど、お葬式の担当者のしごとをしてきました。
そこでのエピソードをご紹介します。
お葬式では、意外と面白いことも起きています。
「生きること」と「死にゆくこと」は、つながっています。
いろんなことを感じて見てください。

Amebaでブログを始めよう!



  花屋さんの店先で、われもこうのアレンジを見つけました。

毎年、この季節になると、必ず思い出すことがあります。


 「主人は、われもこうが、好きなんです。」


 喪主さまは、祭壇に、われもこうのアレンジを、リクエストされました。

珍しいアレンジでしたが、すごく素敵な祭壇でした。


 サーファーだったご主人のために、ご自宅からお連れする時に、

海に立ち寄ったのも、奥さまのリクエストでした。



 その奥さまは、(友人とはいかないまでも)、知人でした。


お式を担当していた先輩は、その頃、まだ何もできない新人の私に、

それでも、彼女のそばに付いているように、と言ってくれたんです。



 ひどく痩せてしまった、ご主人のお顔を、半分バンダナで隠して、

参列者の、ご主人へのイメージを、壊さないようにしたり、


 通夜の挨拶は、だった一言、「今日は、ありがとうございます!」

これが精一杯です、と頭を下げた姿は、それだけで、心を打ちました。



 そして、翌日――

 「主人は、私と母を、大事にしてくれました。

とても、大事にしてもらって、私はとても幸せでした。」

ご挨拶を終えて、出棺となりました。


 先輩はまた、私を降りていくエレベーターに、一緒に乗せてくれました。


 「お互いに、大事に思いあっていらしたんですね、

感動しました。ご一緒できて、感謝です。」


 「こちらこそ、2日間、そばにいてくれてありがとう。

あなたがいてくれて、安心でした。  …いいお仕事ね。」



 わずかな時間の中の、短いやり取りでも、

その後の支えになる、大切な宝物になりました。

 「6年前に、音楽葬で、妻を送っていただきました。」

という方と、お電話で話す機会がありました。


 お名前をお聞きして (けっして、珍しいお名前ではありませんが)

すぐに、ああ、あの時の…、と、はっきり思い出されました。



 「たしか、バッハの無伴奏でしたね。」

 「えっ、覚えててくださったんですか。」

 「はい、とても素敵だったので、よく覚えております。」

 「ああ、それは嬉しいなあ。」


 いや、こちらこそ! 6年も経っても、忘れられない、

素敵なお式を担当できたこと、感謝しています。



 「妻は、この曲を聞きながら、病気と闘っていました。

ですから、最後もこの曲で、送ってあげたいのです。」


 バッハの無伴奏―― チェロの曲です。


 参列された方たちと一緒に、静かに聞き入りながら、

生前、自身の死と向き合っていた、奥さまの内面は、


きっと、この曲で、勇気づけられただろう、

遺された日々を、心豊かに過ごしたに違いない、


そう感じさせられる、ほんとに素敵な曲でした。



 奥さまが、最後に身につけたお召し物は、

清楚な、白い綿のドレスでした。


 そして、「このスカーフだけ、一緒に入れたい」と、

小さな花柄の、薄いスカーフを、奥さまの首に、

そっとかけていた、ご主人の姿を覚えています。


 そうした、ご主人の御心の深さに、

手を合わせた、お式でした。

 突然、事故で息子さんを亡くしたご両親――


 本当は、この子の葬儀にふさわしい規模で、

寂しくないように、送ってあげたいが…、そうおっしゃいながら、


でも、あえて、ごく近い親族だけのご葬儀を選択されました。



 余計な気を使うこともなく、時間の制限もなく、


ずーっと、息子さんのそばに寄り添って、

2日間を過ごされました。 私は、それを有り難いと思いました。



 「私は、長男も亡くしているんですよ、赤ちゃんの時でした。

また…。 30数年、一緒に過ごせば、その分苦しみも深いですね。」


 お母さまが、柩の中の息子さんのお顔を見つめながら、

静かに、いろいろな想いを話して下さいました。


 「安らかな、いい顔をしてるでしょう。この子は、悔いはないんでしょうね。」


 こんなにつらい現実を、懸命に、受け止めようとされていました。


 誰かのせいにしたり、恨んだり、怒りをぶつけたり、

取り乱しても、ぜんぜん不思議ではない状況で…



 いよいよ、最後のお別れの、お花入れの時、


 「泣いちゃいけないね、泣いたら、お前が安心して行けないね。」

お母さまが、そうつぶやいたのが聞こえました。


 私は耳元で、「泣きたい時は、泣いちゃった方が、楽になれますよ。」


 その声が届いたのか、お母さまは、一瞬… 号泣されました。



 すぐに、ご親戚の方の励ましで、平静さを取り戻して、

静かに、お別れをすまされました。


 でも、一瞬の号泣で、私は少し安心しました。


 お母さまの強さ、というか、その哲学に敬意を表します。


 でも、一人になってからでいいです。

思いっきり泣いてくださいね。


――きっと、私の思いは届いていると思います。