読書『メキシコ美術紀行』加藤 薫 | けものみち

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日記のようなものです。

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例によって図書館の機械で検索します。
「メキシコ」

これまでに何冊かメキシコに関する本を読みました。
すべての本が「メキシコはさぞ色彩に満ちているに違いない」と
私に夢想させました。

とりわけインディオの村々の女性たちが
何ヶ月もかけて刺繍を施すという衣装。
草花、鳥、獣を色とりどりの糸で縫い表した衣装は
その村によって特色が異なるとか。
メキシコ南部の町のメルカード(市場)には
そんな衣装の女性達が周辺の村から集まります。

別のある本では、グァテマラの衣装のことが書かれていました。
メキシコのお隣の国であり、記述を読むに
衣装の性質も近いものと思われました。
市場にはやはりとりどりの衣装の女の人たち
しかも、それら衣装を日常着ている人たちが行き交うのだといいます。
それはそれは幻想的な光景です。

その本には小さな写真が載っていました。
市場なのか商店なのか、とにかく、私が夢見ていたような
鮮やかで、様々な色彩の布が幾つもかけられ
店先は覆われておりました。

これまで読んだ本で一番たくさん布を見られたのが
その小さな写真でした。

他の本では衣装のすばらしさを語ってあっても
それこそ、収集する話すら書いてあっても
肝心の写真がほとんどなかったのです。

なぜー( ;ー;)

それから、遺跡!
遺跡の写真も案外たくさんは載っていないのです。

字ばっかり‥
阿呆はそろそろ限界です。
ビジュアル本が見たくなりました。


『メキシコ美術紀行』

この字を図書館の機械で見つけて
すぐに保存庫から出してきていただきました。

で、出てきたのがこの本です。

メキシコ美術紀行‥なんて文字文字しい見た目でしょうか( ;ー;)

でも突き返すのも申し訳なく、借りてくるわけです。
そして一応読んでみる。

ざっとめくってみると結構写真が載っています。
白黒ばかりですが。
そして、建物ばっかりなんですが。

それもアステカやオルメカなどの文明関係のものではなくて
スペインによる征服後の建築物が主なのです。

どうやらこの本の最大の関心事は
植民地における教会堂などの建築様式です。
壁画や彫刻、十字架に関することも少々書かれていますが
要は植民地美術(コロニアルアート)を研究したいわけです。

世界史や宗教史と宗教建築に詳しい人なら
きっととんでもなく興味深い内容の本です。

そして私にはかなりきつい本です。

いきなり修道会組織とか在俗教会組織とかエラスムス改革とか
フランシスコ会とかドミニコ会とかアグスティヌス会とか‥

それこそ「ホール型三身廊教会堂建築」なんて言われましても( ;ー;)!

ある教会堂の独特(らしい)アーチや
珍しい設計の「屋外教会堂」に夢中になってるこの著者を
私はチンプンカンプンなまま見守り続けるほかありませんでした。


と、なんだかんだ全部読んでしまったのです。
さっぱり分からないところもあったけれど
読むのをやめられませんでした。
ちょっと大変でしたが。

でも読んだおかげでたくさん、私にも興味深いお話に会えました。

古代メキシコ人の時間の感覚についての話とか、
昼間はキリスト教のお祭りをした日の夜に
どう考えても土着の文化の怪しく激しい祭りを行う村の話。

建築の話でも幾つか私の目がしっかり覚めるものがありました。
面白いです!
著者の文章がまとまりが良すぎて
それらのお話をここに書こうとすると
片端から丸写しするしかなくて、書くことができないのでありますが。

たくさんあった、読んで良かった話の一つに
コルテスに関するものがありました。

征服の歴史についてはわりと初心者に優しく語ってくれていて
コルテスさんはよく出てきました。

私はこれまで読んだ本で「スペインによる征服」に対して
全面的に悪い気持ちしか抱いていませんでした。
時代の違いを考えてもなお、嫌だなと。
そして征服する側の一兵卒にはいい人が居たかも知れないけれど
コルテスはそれはもう、悪の親玉に違いないと。

どの本でも征服の話の時には必ず「コルテス」の名を見たし
野心家で、支配者になろうとしたと読んだので
私はこの人を完全に悪役にしておりました。

でもコルテスのその野心家ぶりは私の想像以上のものでした。

コルテスはメキシコの本当の皇帝になりたかったのです。
だから実は、インディオを大事にしたのです。
彼にとってインディオは自分の国(予定だけど本気でそう思ってる)の
大切な民、ドライに言えば納税者であったからです。

そういうわけでコルテスは
他の一部の(でも少なくなかった)入植者…植民地で小領主になって
インディオを奴隷として使い捨てるような人たちと衝突しました。

さらにメキシコから富を搾取することを期待していたスペイン本国からも
使えない、邪魔な奴扱いされてしまったのです。


コルテスは野望のため、あれこれがんばりました。
すごい大規模なサトウキビ農園を作ったり
(そしてそこには町が生まれるのです)。

あるいは征服のはじめの地、ヴェラクルスに最初の砦を建てる時には
彼は自ら土台を掘り、土砂や石を背にして運んだのであります。

そんなお話を幾つも読んで
コルテスさんが私のなかで、ちゃんと人間になりました。
いい人かどうかは分からないけれど。


他のことも、メキシコに関して幾つかのことが
自分の中で現実感を持ちました。

この本はまた読んでみたいと思います。

それにつけても‥
もっと、かしこくなりたいであります、本日、以上。

知恵熱がでそうだからもう寝ます。



追伸

この人の文章は時々急にクダケるので油断なりません。
「ポーサでボサーと休憩」とか「はらっぱのハラパ」とか言い出します。

あと、メキシコは「西洋化の波をかぶる」ことにおいて
日本よりも数世紀も先輩であるという様なことが書いてありました。
読み違いでなければ‥
現代日本の美術もまた
植民地美術であるのかも知れないとも。


ところで今、その支配者側の西洋の美術はどうなっているのでしょう?
世界の美術はどうなっていくのでしょう。

その未来は夢か悪夢か。

今夜の夢で占うのはやめておきましょう。
寝苦しい夜ですから。