(※使う画像は顔や雰囲気だけ見て、背景や服装が違うのは大目にみて下さいませ~。)



約束の日が来た。

仕事が早く終わるようにと朝から頑張っていたのに、

もうすぐ帰れるという時にタイミング悪くトラブルが起きた。

その処理に追われ、最寄り駅に着いた時には5時半を過ぎていた。

(こんなことになるなら、教授の連絡先聞いておけば良かった。)

タクシーを捕まえたいのに駅前に停まってもなければ、1台も横切らない。

ツイてない日はとことんツイてないものだ。

半分泣きそうになりながら走ったり歩いたりを繰り返し、喫茶店へと急ぐ。


やっとお店が見えて来た時には約束の時間から1時間半が過ぎていた。

息が上がっているのも構わずに喫茶店へと駆け込む。

「いらっしゃいませ。」店主の声に軽く会釈しながら、店内を見回すと

一昨日座った席と同じ場所に座り、読書する教授がいた。


「教授。すみません!お待たせして・・・。」


肩で息をしながら頭を下げた私に、制止するように手を出し


「どうぞ。」


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そう言って席に座るよう促してくれる。

見れば教授のコーヒーカップにはもうコーヒーは残っていない。

(あ・・・そりゃそうだよね・・・。)


「本当にすみません。もう一杯何か飲まれますか?」

「・・・そうだな。じゃあこれと同じものをもらおう。」

「ブレンドですね?」

「ああ。」


店主にブレンドを2つ頼み、上がった息を整える。

その様子を上目遣いで見ていた教授がおもむろに本を閉じた。


「仕事忙しかったみたいだね?」

「あ、はい・・・。出る前にトラブルが起きて・・・。お待たせしてしまい、本当にすみません。」

「いや、その間に1冊読めたし、特に問題ない。」


そっけない言い方ながらも、どことなく教授の優しさを感じた。

まだ少し呼吸が乱れる私を、じっと真っ直ぐに見る教授


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こうやって教授に見られていると、心の中を覗かれている気がして恥ずかしくなる。


「あ、あの、教授?」

「うん?」

「教授はここに、結構な頻度で来られるんですか?」


黙ったまま教授と一緒に居られるほど強固な心を持ち合わせていない私は、必死で話題を探す。


「うん・・・少なくても週に1度は来てる。」

「学生の頃からだと思うと、何だか凄いですよね。第二の家みたい(笑)」

「まぁ、第二とまでは言わなくても、第三の家くらいではあるかな。」

「第三の家主から一つ言わせてもらうと、今日は特別珍しい日かもしれないよ。」

「え?」


トレイにコーヒー2つ乗せた店主が、笑顔で話しながらやって来る。


「以前南雲君が人と待ち合わせしていた時に相手が遅れて来てね、その時はコーヒー1杯分しか待たないと言って、その人が来る前に帰ってしまったんだよ。」

「え・・・?」


私は驚いて教授と空いたコーヒーカップを交互に見る。

教授は何ともバツ悪そうな表情を浮かべて


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「ちょうど・・・飲み終えたばかりだったんだよ。」

「そうそう、2杯目をね。」

「・・・2杯目?」


すぐには意味が分からずに首を傾げる私から目を逸らし、眉を寄せる教授

店主は空になったカップを下げ、淹れたてのコーヒーをテーブルに置く。

そしてなんとも意味深な笑みを浮かべて、私にウインクして戻って行った。

(ええっと・・・教授には珍しく、コーヒー2杯飲み干しても待っててくれたって事だよね。)

それがどういう意味なのか、答えを求めるように教授を見るが

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知らん顔をして黙っている。

(ここはあえて話題を変えた方がいいのかな。)


「そういえば教授、私今でも覚えてるんですけど、6年くらい前に教授の講演会に行ったことがあるんですね。」

「僕の講演会?」

「はい。近年の凶悪犯罪への心理学的アプローチとかっていう内容だったと思うんですけど。」

「うん。」

「そこにどっかの大学だか何だかの心理学博士も来ていて、最後に意地悪い質問をしてきたじゃないですか。」

「・・・そんな事あった?」

「ありましたよ~、その博士の言った内容はよく覚えてませんけど、まだ研究段階で心理学的にもハッキリしていない事なのに、急にそれを南雲教授にどう考えているか答えてもらいたいとか言い出しちゃって。」

「そうだっけ?」

「はい!その時に教授は・・・」



(6年前)

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「現段階でそれは学術的に研究過程にあり、講演会というこのような公の場で我々のような専門家がそれを論議するのは間違っています。

ここが居酒屋のような所なら個人の意見として議論も交わせるでしょうが、講演をしているこの立場でハッキリしない事を述べるのは、今日講演を聞きに来ている方々に先入観を与えることになり、繊細な問題であるだけに軽々しく発言すべきではないでしょう。

それくらい○○博士にもお分かりになることかと思いますが。

それでもこの質問に答える必要がありますか?」



「そう答えた教授に、その博士何も言い返せなくって、黙ってしまいましたよねぇ。」

「ああ・・・そんな事もあったかなぁ。」


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「その後に追い打ちをかけるように、どうしても僕の見解がお知りになりたいのでしたら、僕の研究室までいらして下さい。その時は○○博士のお気のすむまでお話しましょう。って」


私の話を聞きながら、教授は何食わぬ顔でコーヒーをすする。


「あの時はスッキリしました!あの博士、明らかに悪意のある質問でしたもん。」

「まぁ僕みたいに優秀な人間は、少なからずそういった嫉妬による攻撃を受けるものだ。」

「ふふふ・・・あれはほんとかっこよかったなぁ。」


思わず本音を呟いてしまい、慌てて口をつぐみ、コーヒーカップに口をつける。

けれどそれを気にする素振りもなく、3杯目のコーヒーを飲む教授

(コーヒー飲むだけでも様になるなぁ・・・。)




お店を出た時には、もうとっくに日が暮れていた。

前回と同様、他愛もない話をしながら大学の裏門に辿り着いた。


「このあとも研究室ですか?」

「ああ。やらなければならない事が残ってるんだ。」


それを聞いて、遅れてしまった事を思い出し申し訳なく思う。


「すみません、私が遅くなってしまったばかりに・・・。」

「いや、それは僕の意志で待っていただけだ。君が気にすることじゃない。」

「・・・あの、教授?」

「うん?」

「どうして待っていてくれたんですか?」

「・・・うん・・・。」


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淡い期待を込めて、勇気を出して言ってみる。


「普段はコーヒー1杯分しか待ってくれないんですよね?」

「・・・君は・・・。」

「はい。」


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「面白い。」

「・・・・・・・・・・・は?」

「君の反応は非常に分かりやすい。けれど時々予想もしない反応をする。それが面白い。」

「・・・はぁ。」

「その興味深さはコーヒー3杯分に値する。」

「・・・・・・それは光栄です。」


わざと棒読みで返す。


「なに・・・不満?」

「不満ていうか何て言うか・・・。まぁ教授らしいです。」

「そう?」

「はい。」


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そう言うと何故か満足そうな顔をする教授

(ほんと掴みどころがないっていうか何て言うか・・・よく分からない人だなぁ。)

そう思いながらも、教授に興味を持たれたという事が何だか嬉しい。


「次はいつにしようか?」

「え?」

「コーヒー。」

「コーヒー?」

「気に入ったんじゃないの?あそこのコーヒー。」

「あ・・・はい。美味しいから気に入ってます。」

「だーかーら、次はいつにする?」

「あっ。・・・じゃあ来週の月曜日はどうですか?」

「月曜か・・・。時間は同じでいい?」


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「あ・・・今日みたいな事もあるので、5時でお願いできますか?」

「分かった。次は2杯目が終わる前までには来てくれ。」

「・・・努力します。」

「じゃっ、また。」


そう言ってまた軽く手を挙げて去って行く。

その後ろ姿を見送ってから駅へと向かう。


「期待通り、とは・・・いかないかぁ。」


けれどこうして教授と過ごす時間を持てることが、素直に嬉しい。


「ああ、私・・・教授が好きなんだ・・・。」


いつの間にか芽生えていた確かな恋心に、胸が熱くなる。

この恋がどう決着をつけるのか今は分からないけれど。


「コーヒー以上ジャムパン未満くらいにはなりたいな。」


そう口にして、1人笑った。

この恋は、まだ始まったばかりだ。



おわり。


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