マクロビオティック(以下マクロビ)は以前から怪しげだと感じることが多々ありましたが、それほど深く知ろうとまでは思っていませんでした。が、先日twitterで下記のツイートを私のタイムライン上で見かけ、ここに書かれた内容に強く疑問を感じたことから改めて調べてみようと思いました。
マクロビオティックのルーツは、健康とか野菜食以前に、第二次戦争後の人間の凶暴性の研究から、野菜食への転換がはかられて来たのは、知る人ぞ知るお話。。肉食生活や近代食が、現代の病気の一因とは、わかりやすい現実…。美味しく食べる食の安全も考えて行きたいなぁ。無農薬栽培玄米の美味しお米。

健康や生命、人間性にも影響を与える効果があると謳うのであれば、その科学的根拠を明示する必要があると考えます。「知る人ぞ知るお話」として伝えられているのは、世の中の科学的な評価に耐えうるものではないと見られ批判されても仕方ないんじゃないかな。
なんてことを考えつつ、上述のツイートに書かれてるようなことを掲げているのが、マクロビの大家の一人・久司道夫氏という方であることを知人から教えて頂き(その他マクロビの系譜は*1参照)、彼のウィキペディア記事にもリンクが張ってある彼の講演録をまずは見てみました。

マクロビオティック講演会録「健康的な生活と食事~マクロビオティックの可能性」-久司道夫(静岡県主催・2005年)※PDF

これをザッと見ただけでも、宇宙波動、マクロビで心臓疾患・癌が治る、エイズも良くなる、人間の凶暴性・殺人・反社会行動は食べ物のせいだがマクロビで改善した、等の根拠・真偽が疑わしい記述が多数見られました。確かな典拠もないので、さらに彼の著作を見てみる事に。そこで紐解いたのが以下の著作です。

・『マクロビオティックをやさしくはじめる』(久司道夫)

冒頭に挙げたツイートでまず疑問に感じた「人間の凶暴性の研究」とやらが具体的にどのような内容なのかを最初に調べるつもりでしたが、前掲の講演会録同様あまりにも根拠や真偽が疑問・不明な点が多過ぎて、どこからツッコんだら良いのかわからないほどの内容。
ただそれらの中でも、個人的に特に際立って「これはダメだろう」と思った記述があったので、本エントリではそれを引用し私が感じたことを記してみたいと思います。そこでは、最も熱心なマクロビ信奉者・実践者の一人でもあった著者のご夫人が癌にかかり他界したことを述べていますが、ご夫人が癌になったのは彼女のマクロビが著者の方法と異なるものだったから、癌が進行し夫人の命を奪ったのは医学的(反マクロビ的)な治療を「うかつにも」受けてしまったからだと主張しています。

【引用開始】
がんで亡くなった妻のこと
さて、次章では主な病気・症状ごとに、マクロビオティックの取り組みを紹介していきたいと思いますが、その前に私は忸怩たる思いで記さねばならないことがあります。それは妻の死についてです。私はマクロビオティック運動の最良のパートナーであった妻を、二〇〇一年七月三日、子宮頚がんによって亡くしたのです。
いうまでもなく、妻はマクロビオティックの実践者です。食事の内容に問題があったわけではありません。その妻がなぜがんに冒されてしまったか。それは「食べ方」に問題があったからです。
彼女の好物にコンブとサワド・ブレッドがありました。サワド・ブレッドとはマクロビオティックの原則を踏まえてつくられた黒パンの一種で、私たちが普及させたものです。ですから、それらを食べることにはまったく問題はありません。ところが妻は、その二つをいつも油で炒め、しかも毎日のように食べていたのです。
私は「いくら植物油でも、脂肪の摂りすぎはよくない」と諭しましたが、五黄のイノシシ生まれの彼女はなかなか頑固で、私の忠告を聞き入れません。「大丈夫よ。これは身体にいいものなんだから。逆に生野菜なんかを一緒に食べると、むしろ陰性のものの摂りすぎになるでしょ」と反論するわけです。マクロビオティック食に関して、妻は妻なりの考え方がありました。
しかし、いくら「いいもの」でも、やはり脂肪分の摂りすぎがいいはずありません。やがてその積み重ねによって、子宮からの出血が起こるようになったのです。
私は病院での検査をすすめましたが、ここでも頑固で思いこみの強い妻は、「いいものを食べているから、月経が再発したのかしら」などといって、検査にいきませんでした。ついに痛みが伴うようになってはじめて、妻はしぶしぶ病院に足を運びましたが、検査の結果は子宮頚がんだったのです。しかも第四期にまで進んでいました。
主治医の主張と妻の意向もあって、とりあえず患部だけは放射線治療で除去しましたが、退院後は私自身が処方したマクロビオティック食に改めさせました。すると数カ月で、がんはきれいに治ったのです。
こうして妻は国外への出張旅行に同行できるまで回復し、ひと安心した私は、それまで控えていた単独での講演旅行に出るようになりました。
その留守中のこと、ハーバード大学の医学部教授が、「子宮頚がんは再発しやすいから」と、再発予防のために内部からの放射線治療を妻にすすめたのでした。「万が一の予防」という言葉に気持ちを動かされたのでしょう、彼女はうかつにもそんな治療を受けてしまったのです。
講演先のフロリダからボストンに帰り、私が慌てて病院に駆けつけたときは、すでに放射線治療は終わったあとでした。その二週間後、背中を走る経絡(エネルギーの通路)に沿って、激しい痛みが襲うようになったのです。
医師は末期がんに特有の転移で、治療自体は正しかったと主張を譲りません。しかし、放射線を内部にあてるという暴力的な治療法が原因であることは、私の目にはあきらかでした。(p200-202)
【引用終了】

この記述からは、著者を最も信じマクロビを実践してきたであろうご夫人の死すらも、自説やビジネスに都合良く曲解しているのではないかと強く感じました。なぜそのように感じたのか、本書内の他の記述とすら矛盾を感じたからです。それらを以下具体的に取り上げていきます。

<疑問1>
ご夫人は著者のマクロビ啓蒙運動において、マクロビ食実習の担当だったそうです。その夫人の調理法やマクロビの考え方に「がんに冒されてしまった」ほど問題があったのなら(それが要因だったという根拠も全く明示されていませんが)、ご夫人が担当し多くの人達に伝わったマクロビ食も問題があったということではないか。
【引用開始】
各スタディーハウスでのマクロビオティック食の実習は家内の担当です。(p35)

家内が日本からいろんな食材を取り寄せておいしいマクロビオティック料理をつくると、彼らは喜んで食べてくれます。しかも、それを継続的に食べる者たちの心と身体が、目に見えて変わってきたのです。(p36)

当初は月三○○○ドルにも満たない規模でしたが、一〇年後には一六〇〇万ドルものビジネスに発展しました。ただし、私がこうしたビジネスを拡大したわけではありません。私の弟子たち、つまりボストンのスタディーハウスに集まったヒッピーの学生たちが、アメリカ各地に自然食の食材店やレストランを出店し、同時に啓蒙活動をするようになり、それぞれの地域で住民たちの圧倒的な支持を得た結果でした。(p38)
【引用終了】

他にもマクロビ普及活動にご夫人が積極的に関わられた記述が出てきます。が、「マクロビオティック食に関して、妻は妻なりの考え方」があって、それがご夫人の癌に繋がったと述べるのであれば、ご夫人が大きく影響したマクロビ普及そのものが危ういものになるのではないでしょうか。

思いつく反論としては、「ご夫人は自分の食べる者は独自のマクロビを通してたが、他人に広める際には著者の方法を厳守した」ということでしょうか。もしくはコンブとサワド・ブレッドを毎日油で炒めて食べるのが元凶の全てでありそれ以外は全く問題なかったというのでしょうか。

<疑問2>
本書では繰り返し反・非マクロビ的な食事が人間性を凶暴で犯罪や戦争を犯しやすく家庭や社会を崩壊させる悪しき方向に向かわせると警告し、「病気」の最終段階として「傲慢さ」を発症すると言い、マクロビによって素晴らしい人間性が得られると説いています。ですが、この「傲慢さ」に関する記述が、前掲のご夫人の「頑固」な性質と似ているように感じました。
【引用開始】
傲慢さこそ、私たちが自然や宇宙の秩序から自分自身を切り離してしまったときに発症する最悪の病気なのです。この傲慢さは、次の二通りの方向のいずれかで生じます。
一つは陽性の傲慢さです。これは、自分の利益や欲望に固執し、それを満足させるために、他の人を押しのけたり、支配したり、征服したりする性格や行動となってあらわれます。
もう一つは陰性、または陰性寄りの傲慢さです。これは、排他的であったり、自分の殻に閉じこもり、他人との関係を絶ち、ひいては他人を排除するといった閉鎖的な性格や行動となってあらわれます。
概してこの陰性の傲慢さをもつ人は、他人からの意見や提言、あるいは親切な助言さえも聞き入れようとはしません。多くの高齢者がこの種の問題をもっており、自分は信仰深いと考えている人の多くも同様といえます。(p134)
【引用終了】

この引用部の後半は、「頑固で思いこみの強い」ご夫人の傾向に符合するように思えます。マクロビの最終目的は「傲慢さをその根源から治すこと」(p134)にほかならないとしていますが、マクロビ実践者のご夫人がそうなったとはとても思えない。
もしくは、ご夫人が著者とは異なる自分なりの考え方に基づいた独自のマクロビをした結果、著者の目的である「傲慢さを根源から治す」ことができなかったのかもしれません。とすると、先の疑問と併せて考えると、ご夫人が大きく関わったマクロビ普及には、癌になる可能性があるだけでなく、マクロビでいう病気の最終段階にすらなってしまう危険があることになるのではないでしょうか。

<疑問3>
ご夫人が一時的に癌の病状から逃れられたのは、著者によるマクロビ食のおかげではなく、医学的な治療の成果である可能性も高いのではないか?ということ。

<疑問4>
治療にあたった医師の説明の正当性をきちんと検証せず、著者は「傲慢さ」を生じているのではないか。

この2つの疑問は本書だけでは解決できません。ただ著者の記述を見る限り、著者の自説への強い思い込みが事実を歪めて捉えている可能性があるように思えます。そして著者自身が「自分は信仰深いと考えている人の多くも同様」と言っているような、自説への強い信仰(執着と言ってもいいかもしれません)が「傲慢さ」を生み出してしまっているように感じました。(*2)


私はマクロビが掲げる方針や手法の全てを否定するわけではなく、中には共感できるものや理にかなっているものもあると思っています。この辺りは以下のエントリに書かれていることに同感です。

・「ニセ科学ツアー_マクロビオティック(追記あり)」-あぶすとらくつ

ただ先にも述べた通り、本書は他にも率直に言って疑わしい記述を極めて多く含んでおり、それらが主体となっていると言って過言ではありません。特に人の健康・生命を損なう・奪う危険性を持っていたり、差別や偏見を生む可能性を持った内容がある場合、厳重に警戒し注意を払う必要があると考えます。
そのような点から言っても、今回取り上げた久司氏の著作におけるご夫人の癌死に関する記述は、問題を含んだものだと感じました。

本エントリでは、科学的な根拠や真偽が疑問・不明な事柄について他の文献等を調べて検証するというところまでは至りませんでした。あまりに「ホントかよ?」と思う点が多かったからですが、また改めて機会を設けて、少しずつ調べてみるかもしれません。


*1;参考
・「健康食と危険食」-とらねこ日誌

*2;twitterで久司氏自身も癌を患い治療手術を受けたことを教えて頂きました。
・「Letter: A message On behalf of Michio Kushi (about his health)」-Macrobiotic Guide
興味深いのは、このレターの日付が04年10月12日で、『マクロビオティックをやさしくはじめる』の初版第1刷が04年12月15日。執筆期間にもよるでしょうが、なかなか微妙なタイミング。久司氏はご夫人の癌について前掲のようなことを書いていましたが、本人の癌発症や手術についてどのように解釈し説明したのでしょうね。
AD