科学コミュニケーションやサイエンスコミュニケーションと言われるものの重要性が説かれているのを、私が目にするようになり興味を持ち始めてから数年が経ちます。そして今回の東日本大震災および原発事故による混乱や不安の中、科学や医療に携わる専門家をはじめとする多くの方々が情報やメッセージを発しておられるのを見て、私自身改めて科学コミュニケーションの必要性を強く感じています。

一方で、専門家らの言動が必ずしも思い通りに成果を挙げているわけではなく、科学コミュニケーションに関して色々な議論が大震災以降なされているようです。(※1)

私は自分自身のキャリアにおける経験から、「生活者(※)とのコミュニケーション」が重要な要素でもあるマーケティングの視点で、科学コミュニケーションというものを考えることが多くあります。そしてその視点は、現在行われている科学コミュニケーションの議論の中ではやや特異なのかもしれないと、漠然と思いつつあります。そこで、これまでに考えたことをいったんここで書き記し、自分なりに整理してみます。

※このエントリでは「消費者」ではなく「生活者」という言葉を用います。(※2)

なお一企業に属する身である私自身は、企業にとってもマーケティング視点から科学コミュニケーションを企画・実践することが必要になると考えています。社会に対する企業の責任や貢献がますます求められる状況下では、自社の製品やサービスを生活者に提供する上で、それらを構築する科学・技術への理解と支持を得ることも重要になると考えるからです。


それでは、以下のような項目立てで順番に私の考えを述べていきます。

1.改めて、科学コミュニケーションの目的は何か。
2.科学コミュニケーションにおけるマーケティングとは何か。
3.誰を対象にするのか、提供する価値の特徴は何かを明確にする。
4.マーケティングの成否の指標、「マインドシェア」と「ハートシェア」。
5.マインドシェアとハートシェアを獲得するための「傾聴」と「共感」。



1.改めて、科学コミュニケーションの目的は何か。

「現代科学の知見や技術などに基づく価値を生活者に提供する」ことだと、私は捉えています。
生活者とコミュニケーションを行うこと自体が目的なのではなく、それは手段であると考えます。その上で、この目的を達成するためには一方的な発信や啓蒙よりも、双方向のコミュニケーションの有効性が高い場合が少なくないと考えています。それは、最後に述べる傾聴と共感において必要な手段となるからです。

コミュニケーションを実行する際には、必ずしも全ての科学者や研究者が自ら行う必要はないかもしれません。上記の目的を達成するために最適な人選・体制で行うのが良いでしょう。ただし、科学者・研究者自らがコミュニケーションを行うことが最適な場合もありえるかもしれないため、そのような状況でのコミュニケーションの在り方を想定し人材を育成することは有益だろうと考えます。

なおここで言う「価値」とは、物質的あるいは経済的に生活へ役立つということに限定しません。それを得ることで生活者が精神的な充足や刺激を得たりするなど、何かしら良い変化をもたらす物事を幅広く含めます。


2.科学コミュニケーションにおけるマーケティングとは何か。

ここでは先述の目的を踏まえ、「自らが提供する価値を支持・採用する生活者を最大化し、生活者との良好かつ長期的な関係を築くこと」とします。

一般的にはマーケティングは組織や人の営利活動に用いられ、最終的に経済的な利益を得ることを目的として定義されることが多いものです(※3)。しかしマーケティングが扱いうる領域はとても広く、直接的には経済的な利益に繋がらない活動へも応用しうるものです。
現代マーケティングの大家であるフィリップ・コトラーは、『マーケティング・マネジメントを「ターゲッ卜市場を選択し、優れた顧客価値を創造し、提供し、伝達することによって、顧客を獲得し、維持し、育てていく技術および科学」と考える』としています(※4)。この定義を土台にして、科学コミュニケーションの目的に合わせて、先のように言い換えを行いました。


3.誰を対象にするのか、提供する価値の特徴は何かを明確にする。

科学コミュニケーションを行う人や組織の経済的・時間的な制約や、精神的・労力的な負担などを踏まえた上で、できるだけ効率的に効果を最大化することを考えるのが現実的である場合が少なくないでしょう。そのために、コミュニケーションを行う上でのセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング(STP)を検討・決定することが有用だと考えます。

・セグメンテーション;市場における顧客のニーズごとにグループ化する、市場をセグメントする。
・ターゲティング;自社の参入すべきセグメントを選定する、ターゲットを明確にする。
・ポジショニング;顧客に対するベネフィット(利益)を検討する。自らのポジションを確立する。
(Wikipedia;『STPマーケティング』より抜粋。)

科学コミュニケーションでは、「市場」を「自分が扱う科学・技術の領域」と置き換えて考えることもできるでしょう。つまりセグメンテーションは、その領域において生活者の知識や行動や思想などの特性を切り口にした適切な分類を行うことだと言えるでしょう。そしてその上で、自分がコミュニケーションを行う対象を明確にします。ポジショニングの設定では、コミュニケーションの機会や次に述べるシェアを争う「競合」を想定し、それらとの差異を明確にすることが、わかりやすい方法だと考えます。

なお双方向のコミュニケーションでは、それを通じて自らの価値を修正することが生じるのも珍しくありません。コミュニケーションはマーケティングを達成するための手段であるとともに、自らが提供しうる価値を見極めるリサーチでもあります。後述する「傾聴」が後者の要素を含むものですが、生活者との直接の接点が少ない科学・技術の領域では、この視点を意識することも大切だと考えます。


4.マーケティングの成否の指標、「マインドシェア」と「ハートシェア」。

マーケティングの効果を測定するための指標として「シェア」という言葉がよく用いられ、営利企業では最終的には経済的なシェア(市場占有率)が目標とされます。そして、市場シェアを高めるための要素として、生活者の心理における自社(製品)の占める割合を表す「マインドシェア(認知度)」や「ハートシェア(好感度・信頼度)」という概念も用いられます(※5)。これは、生活者が製品やサービスを購入する意思決定を行う際に、マインドシェアの高いものを想起しやすく、ハートシェアの高いものを選択する可能性が高いと考えられるからです。また、多くのマーケティング行為者は一時的な利益だけでなく長期的な成長を得ることも目的としており、それを実現するための生活者との良好な関係を構築する目安としても、マインドシェアやハートシェアが重要になると考えられます。
科学コミュニケーションでは、生活者が自らの言動や思考の土台や基準として、科学的な知見や技術を採用する可能性を高めることがマーケティング上の目的だと定義しました。これらを実現するためにはマインドシェアとハートシェアの拡大を目標とし、生活者が保有する時間や労力、意識や興味などを費やす対象をできるだけ科学に向けるようにする、と考えるのが良いのではないでしょうか。

なお、これらシェアを目標とする際には、何を母数にするかが重要になります。つまり、先に述べたSTPの設定が鍵になります。逆に言うと、シェアを高めやすいようSTPを設定するという発想もできます。対象を幅広く想定し過ぎて、労多くして成果を感じられず疲弊してしまうのではなく、マインドシェアやハートシェアを得やすい人たちをまずは対象として着実に成果を挙げていき、徐々に対象を拡大する。そういう考えを持つことも、非営利的で個人主体の活動が多い現在の科学コミュニケーションでは有用かもしれません。


5.マインドシェアとハートシェアを獲得するための「傾聴」と「共感」。

マインドシェアやハートシェアを高めるために重要なこととして、マーケティングを行う側が生活者に対して「傾聴」することと、生活者の「共感」を得ることが挙げられます(※6、7、8)。そしてそのための行為として、科学コミュニケーションという対話手段を用いるというのが、このエントリで述べてきたマーケティング視点の考えです。
対象とする生活者が何を感じ何を求めているのか、深く耳を傾けてできるだけ把握する。また傾聴することは、生活者に自分の存在を認知してもらうこと、そして信頼や好感を得ることにも繋がるでしょう。その上で、生活者に最適な内容や形態やタイミングで価値を提示して共感を得る。これにより、さらにマインドシェアやハートシェアを高めることに繋がっていくと考えられます。

なお対象からの共感を得るには、合理的なアプローチだけでなく、相手の感情を動かすことも重要になる場合が少なくないと考えます。そのためには、自分も相手に共感すること、あるいは共感しようと努めることが大切なのではないかと、個人的には思っています(※9)。どれだけ「正しいこと」を伝えようとしても、それを受け入れない・受け入れられない人や状況は少なくありません。そのような場合には、まず相手に耳を傾け、さらに相手の感情に寄り添い共感する。そして相手の感情を自分自身のものとして理解し、伝え方を模索する。そうすることが相手との信頼関係を構築することにも繋がり、相手もこちらのメッセージを受け入れる可能性が高くなるのではないかと考えています。(※10)


以上、科学コミュニケーションについて、マーケティングの視点から私が考えていることを述べてきました。
ここでは科学コミュニケーション、マーケティングそれぞれの基本的あるいは部分的な要素や側面をいくつか取り上げるにとどまっています。また、具体的な方法には全く言及していません。さらには私の理解が不足している点もあるかもしれません。まだまだ不十分な考えではあると思いますが、私自身はこういう考え方を持つ人が一人くらいいるのも何かの役に立つのではないかと考え、今回まとめてみることにしました。科学コミュニケーションについて検討し実践する際に、何か一助になれば幸いです。


<参照リンク・書籍、余談>

※1;『伝えるということ:科学リテラシーや科学コミュニケーションに関するあれこれ』 - PSJ渋谷研究所X(臨時避難所)

※2;『マーケティングがわかる辞典 オンライン版』 - 日本リサーチセンター

※3;『マーケティング定義集』 - マーケティングis.jp

※4;『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』(フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー)、p7

※5;『マーケティングにおける「シェア」いろいろ』 - マーケティングis.jp

※6;『語るための傾聴(戦略)』 - マーケティングis.jp

※7;『マーケティング再考:"Likenomics"な時代』 - Don't be lame

※8;『電通「サトナオ・オープン・ラボ」、ソーシャルメディアに対応した消費行動モデル「SIPS」発表』 - MarkeZine(マーケジン)

※9;『すべてのチームビルディングは「共感」から始まる』 - @IT自分戦略研究所

※10;余談かつ想像ですが、「相手の感情に寄り添う」という姿勢を見せることで支持を集めるのは、一部のトンデモ組織などが得意とするところではないかと思ったりもします。それらと競争し勝利するには、彼ら以上に生活者の感情に共感するよう努めることが必要になるのかもしれません。
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えらく久々なエントリ。個人的に今注目しているトピックスを時々まとめるためにブログを使ってみようかと思い立ち。
その1つめとして今回は、ユーザーインターフェイスの進化、特に家庭用のモーション・位置センサー等としても使えるKinect関連の話題を、私がブックマークしていた記事からまとめてみました。掲載順は何となくの流れですが、それほど意味はありません。

・Kinectの売り上げ、60日間で800万台に - ITmedia News
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1101/06/news063.html
顔認識技術を使って、プレイヤーの体の動きだけでなく、顔の表情も画面上のアバターに反映させることができるという。

・[CES2011]Kinectの技術がPCや家電にも波及,ASUSの「WAVI Xtion」やHaier製テレビに採用:ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110105/355832/
PCやデジタル家電などのジェスチャー認識・操作が広がる兆しを見せ始めている。

・【連載リレーコラム】買い物山脈 Kinectがゴトウ家にもたらした大きな変化とは - PC Watch
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kaimono/20101227_416493.html
「マシンが知覚を持っているのが当然で、自分を認識してくれるのが当たり前」という層が登場しているとの報告も。タッチパネルを当然として受容した層とのiPad境界線に続き、Kinect境界線も生じているとのこと。

・マイクロソフト:Kinect のオープン利用は容認 -Engadget
http://japanese.engadget.com/2010/11/20/kinect/
「センサーの塊である Kinect は 非公式のPCドライバを通じて3Dカメラ化 や タッチレスマルチタッチ入力といった「ハック」でも人気/手軽に入手できる民生機器として前例のない高度な3Dセンサー」であるが、Microsoftもオープン利用を公認したことで動きが加速。

・コードが公開されたKinectにハッキングの秀作が続々登場 - TechCrunch
http://jp.techcrunch.com/archives/20101207videos-the-best-kinect-hacks-and-mods-one-month-in/
ハッキングによって様々な新しい・面白い使用方法を見出すこともトレンドに。

・暇人\(^o^)/速報 : 【動画あり】神フリー3Dソフト、MMDがついにモーションキャプチャー対応! - ライブドアブログ
http://blog.livedoor.jp/himasoku123/archives/51579098.html
日本でも様々なアイディアが披露され、初音ミクでも有名な3DCGアニメーションソフト・MMDとの連携も生まれる。

・GoogleがエイプリルフールについたウソをKinectを使って実現してしまったムービー - GIGAZINE
http://gigazine.net/news/20110405_gmail_motion_realize/
海外では、Googleがエイプリルフールに出した「Gmailにジェスチャー操作できる機能を実装」というネタを、Kinectで実現する人も登場。

・カナダの医療チームが「Kinect」を外科手術の現場で採用、執刀医の作業負担を大幅に削減 - GIGAZINE
http://gigazine.net/news/20110407_xbox_kinect_hospital/
実用面での展開では、手術室という無菌状態の部屋から容易に出入りすることが困難な外科医のために、患者の情報を遠隔操作できるツールとして応用されているという。

・対面サービスという潜在ニーズ - (3LiveShop) 3 MINUTES OLDER
http://goo.gl/zxIBT
これはKinectの話題はないが、オンラインでタッチパネルを用いた対面サービスを行っているショッピングシステム。この辺も、さらにUIが進化することでバリエーションが広がるかもしれないと思っているところ。


以下はKinectを用いて制作された面白い動画の数々。

・MikuMikuDance with OpenNI(Kinect) test 2
http://www.youtube.com/watch?v=bQREhd9iT38
Kinect+MMDで好きなキャラの3DCGに反映ができるようになる、という試行。

・Kinect + HMDでバーチャルリアリティ ‐ ニコニコ動画(原宿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13083588
Kinectと小型ヘッドマウントディスプレイで、自宅でも好きなキャラになってヴァーチャルリアリティ空間に入り込むことができる環境のデモ動画。

・【謹賀新年】初音ミクでKIMONO♡PRINCESS(完全版)【MMD+KINECT】 ‐ ニコニコ動画(原宿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13174442
うp主が踊ったものをキネクトでモーションキャプチャーし、それを編集したものだとか。バーチャルアイドルの今後を感じさせる。

・YouTube - Kinectでなりきりウルトラセブン!
http://www.youtube.com/watch?v=eCbURRDUUdI
自分の姿の映像上にリアルタイムでキャラクターを重ね、そのキャラに変身したかのように。ポーズで様々な技エフェクトも。

・【V-Sido】Kinect+カメラでロボット用コクピットをつくってみた ‐ ニコニコ動画(原宿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13326942
Kinectでリアルのロボットを動かす&カメラを搭載してコクピット感まで演出。

・Kinectで光学迷彩を作ってみた - fladdict
http://fladdict.net/blog/2010/11/optical-camouflage.html
攻殻機動隊で有名な光学迷彩風の演出も。

・Kinect + HMD + WiiリモコンでバーチャルリアリティFPS ‐ ニコニコ動画(原宿)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13371937
KinectととヘッドマウントディスプレイとWiiリモコンを組み合わせてMMDで製作された、家庭用バーチャルリアリティゲーム的なもの。ニコニコ技術部では「今週の技術革新」というタグが用いられるほど、ホットな開発対象になっていたのではないかと感じた。
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化粧品業界の、特にR&Dに携わる人なら知らない人はいないのではないかと思われる業界誌に、香粧品(化粧品・トイレタリー)科学研究開発専門誌・「フレグランスジャーナル」というものがあります。この業界誌と同名の出版社・フレグランスジャーナル社は他に、アロマテラピーと自然療法の専門誌・「アロマトピア」という、主にアロマテラピーやハーブ療法に携わる業界・関係者向けの専門誌を発刊しています。

このアロマトピアが2010年7月号から、『書籍『代替医療のトリック』に各界の専門家が反論する』という連載をスタートさせたこと、その第一回が最近批判が強まっているホメオパシーの関係者からの記事だったことから、同誌におけるホメオパシーの取り扱いに興味を持ちました。そこで本エントリでは、同誌がホメオパシーをどのように取り扱ってきたか、創刊時から関連記事を振り返ってみました。

なお同連載の第一回目の記事については、主に食の安全について記事を書いてらっしゃる以下のブログのエントリで取り上げられ、ブログ主さんの見解も示されています。ぜひご一読を。

・「代替医療のトリックに対するホメオパスの反論 ~アロマテラピーと自然療法の専門誌 アロマトピア の連載記事」-食の安全情報blog


ここでホメオパシーとその問題点について。
代替医療や代替療法と言われるものの一つで、「欧州生まれの伝統ある民間療法」「害のない自然な療法」等の認知で自然派志向の人達を中心に支持も少なくはなく(「なんとなく良さそうなもの」という人達やトレンドの一つとして取り入れる人達も含め)、女性誌等でも取り上げられるのを目にします。また化粧品でも、クチコミサイト・アットコスメを見ると、「ホメオパシー」や「レメディ/レメディー」(ホメオパシーで用いる薬剤のこと)で検索にかかる商品が多数あり(※)、クチコミ件数の多いものや評価ポイントの高いものも散見されます。
しかし一方で、ホメオパシーの理論が科学的に否定されていることや、ホメオパシーを支持する人から病院で医師に診てもらうことを忌避する事態などが発生し結果として人命を失ったと考えられる事例が生じたことなどから、批判が極めて強くなってきています。

※これらの商品の中にはホメオパシー・ジャパンという会社が販売している商品群もありますが、一方で、ホメオパシー団体等の定義するレメディを言葉通りに使っているわけではない商品もあると考えられます。あくまでも「天然成分の自然派っぽさ」や「ヨーロッパ発の伝統の民間療法のエッセンスっぽさ」というイメージを訴求するためのネーミングであるケースも多いかと思います。

この問題点については、精力的に取材している朝日新聞の記事がとても参考になります。この問題を知らなかった・まだ詳しくないという方は、以下の記事や関連記事もぜひご覧ください。

・「問われる真偽 ホメオパシー療法」-asahi.com
・「ホメオパシーを巡る問題(その1) 「ホメオパシー療法、信じる前に疑いを」」-apital(朝日新聞の医療サイト)


私のブログでホメオパシーを取り上げるのが初めてだったため、前置きが長くなりました。ここから本題です。

アロマトピアは、フレグランスジャーナル社から1992年11月に季刊誌として創刊されました(現在は隔月刊)。創刊の背景として、「アロマテラピーやハーブの関連市場が拡大する中、趣味やファッションの域にとどまるものではなく、アロマテラピーやハーブ療法・医学を原点から見直し再構築に貢献する」ということが挙げられており、その基本理念として5番目に、「アロマテラピー等の代替療法をホリスティック医学の観点から見直し、自然療法にも関心を払います」と記されています。

ホメオパシーに関する記事の初出は、目次を見て該当しそうなものを探した限りでは、1993年11月発売号(通巻第5号)の、『国際会議リポート:「AROMA '93参加と自然療法を尋ねるツアー」に参加して』だと思われます。具体的には以下のようなもの。
フレグランスジャーナル社『アロマトピア』企画、近畿日本ツーリスト旅行主催による「AROMA '93参加と自然療法を訪ねるツアー/アロマテラピー、バッチ博士の花療法、ホメオパシー」の研修旅行が、93年7月1日から9日間の日程で、23名(現地参加6名)が参加して行われました。
今回のツアーは、(1)ブライトンのサセックス大学キャンパスで開かれたAROMA '93のセミナーに出席する、(2)オクソンのドクター・バッチ・センターで花治療薬を見学する、(3)ロンドンのネルソン・ホメオパシー・クリニックを見学する、などが主な目的でした。
ホメオパシーという言葉が明記されているのは(3)で、ホメオパシーに関する説明も載せられていました。さらにホメオパシーに通じるのは(2)のドクター・バッチ・センターの花治療薬。実際、後に(96年3月発売・通巻15号から)同誌で「バッチ フラワーレメディーの実際」という連載がスタートし、ホメオパシーとの繋がりも語られます。

ドクター・バッチ・センターの花治療薬については、第5号で以下のように解説されています。
バッチ博士は、病気が心理的な原因によるものであることに気づき、これを癒すために自然の治癒力を野生の花と樹木に見出しました。つまり、花の中にひそむ、目にみえないエネルギーを水に転写してそのエッセンスで心理的な原因を治療するものです。
なお治療薬の作り方は、
ガラスボールに水を満たし、花を水面に浮かせ陽光のもとに3~4時間さらし、そのあと花を取り除いたエッセンスに保存剤として等量のブランデーを加える
等と書かれています。

第15号からの連載の著者は、バッチフラワー友の会主宰のハーミア・ブロックウエー氏。歴史や効果、使い方や様々な“実績”などを解説。また、「レメディーはプラシーボ効果とは考えにくい」との記述もあります。

なお当連載では、植物から作り精神・感情に作用する当療法の薬剤をレメディーと呼び、ハーネマンのホメオパシーの製法で作られた薬剤をノソードと呼んでいます。これは当時のバッチフラワー側の認識なのか、ホメオパシーも共通した認識だったのかはわかりません。


一方で同誌には、ホメオパシーにも触れた“研究成果”の報告も掲載されています。1995年5月発売(通巻11号)の『Special Report:精油希釈倍率の研究』がこれに該当。著者は薬剤師の菅野佐百合氏。
これはアロマテラピーに用いる精油の最適な希釈倍率を検討する目的の研究とのことですが、用いた機器に「磁気共鳴分析器」や「波動分析器(ACUPROⅡ(アキプロⅡ))」というものが挙げられています。それぞれ報告記事中の説明を見ると、磁気共鳴分析器については、
日本に上陸して約7年になります。この間、江本勝・益田寿男・富澤勇三諸先生をはじめ、多くの先覚者がご苦労を重ね、単行本も6冊出版されていますし、かなりの人々が利用されています。
ACUPROⅡには
人体各部位が出している固有のエネルギー波動を検知し、不具合の状態を解明致します。さらに、バランスの崩れた人体部位の異常波動を正常化するメモリーπウォーター(波動転写水)を作ることができます。
と記されています。ニセ科学のひとつとして強い批判対象となっている「水からの伝言」とも繋がりが見えます。そして同誌の「第1回ジャパン アロマテラピー フォーラム 95」特集号でも、同フォーラムの分科会で同氏が発表した同じ研究内容の記事を掲載していますが、ここではさらに研究結果を「「ホメオパシー」という理論を応用して考えてみた」という言及があります。


1996年11月発売号(通巻19号)では、『バッチ・フラワーレメディーの「癒し」について』という特集号になるに至ります。先述の連載で翻訳を務めた、日本ホリスティック医学協会会員でもある林サオダ氏による理論解説の記事をはじめ、『波動測定によるバッチ・フラワーレメディーの検索とホメオパシー療法による癒しについて』(清水英寿氏)では、波動によって薬効が水に転写・記憶されるという共通点から両者を結びつけた解説をしています。

そしてついに1997年3月発売号(通巻21号)にて、満を持して(?)、『ホメオパシーの理論と実際』という連載が、由井寅子・永松昌泰両氏によりスタートします。書かれている内容はホメオパシーの歴史(現代科学・医学主義者たちの陰謀による迫害と称する歴史も含め)や理論、治療のケースなど、概ね他の両氏の著作と同様なので割愛します。

ただひとつ、個人的に特に気になったものがあったので取り上げておきます。全6回続いた連載の最終回は『母親と幼児のためのホメオパシー』という、何とも今回の事件を彷彿させるものですが、その中で「赤ちゃんのためのレメディーとして」として、「Carbo-veg(炭)」なるレメディを紹介する以下のような記述がありました。
難産で生まれた子供の中には、チアノーゼになり泣かず、息をしていない様になって産まれる子もおりますが、ホメオパシーではその赤ちゃんを蘇生させるレメディーがあります。(中略)衰弱し元気がなくぐったり冷たい。死んでいるに近い。このレメディーを赤ちゃんの口にねじ入れてやると息を吹き返す。
これは本当に大丈夫なのでしょうか?素人目には、死んでいるに近い赤ちゃんの口にレメディをねじ込むような行為は危険に思えます。それだけでなく、難産で生まれる状況で医師が関与することを全く記しておらず、ホメオパシーのレメディを用いることしか書かれていない内容に疑問を感じました。この辺り医療に詳しい方の見解を伺いたいところです。


2000年3月発売号(通巻39号)の特集『子どもと自然療法』では『子供とホメオパシー』(楢林佳津美)という記事があり、また同号から新連載として『ホメオパシー・レメディー・ノート』が、再び永松昌泰氏によって開始されました。ここでは前回の連載とは異なり、レメディを一つ一つ取り上げて、その(波動転写の元になる)原料や、対象疾患や精神的症状、現れる好転反応の様子、用いた症例等が書かれています。ちなみに最終回は癌を治すお話でした。


この後も個々の記事や特集中にホメオパシー関連の記事が掲載されたり、前述の連載が終わるとしばらくしてまたバッチ・フラワーの連載が始まるなど、現在に至るまで断続的に取り上げられています。2005年1月号(通巻68号)以降は、同誌のバックナンバーのページから各号の目次へのリンクがあります。興味のある方は見てみてください。

以上見てきたことから、同誌とホメオパシーとの繋がりは長く深いと考えられます。最新号の2010年9月号でも、『巻頭言 ホメオパシーの危機を救うために』『植物とホメオパシー 第3回 ホメオパシーのレスキューレメディ アルプスの山に橙黄色の花を咲かせるアルニカ…黒澤今日子』という記事が掲載されている模様です。フレグランスジャーナル社はホメオパシー関連の書籍も複数出版していることもあり、今後同誌がこの問題にどう取り組んでいくのか、興味深いところです。
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