「日本に帰りたい」。そのひと言から北朝鮮の強制収容所に送られ、劣悪な環境の中、人知れず死んでいった日本人が何人もいたという。在日朝鮮人の夫らとともに北朝鮮に渡った日本人妻たちだ。収容所を体験した脱北者が12日、北朝鮮の強制収容所問題に取り組むNPOが開いた集会で収容所内の日本人妻たちの実態を証言した。(桜井紀雄)

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 ≪高い死亡率≫

 「約20人の日本人妻を知っているが、生き残ったのは3、4人。日本との環境の落差と栄養失調から収容者の中でも日本人妻の死亡率は非常に高かった」

 北朝鮮の政治犯収容所のひとつ、耀徳(ヨドク)収容所に10年間収容され、脱北した姜哲煥(カン・チョルファン)氏(41)は集会でこう語った。姜氏の祖父が元在日朝鮮人で、スパイの疑いをかけられ、1977年に一家そろって収容された。

 姜氏が収容された当時、収容所内には、元在日朝鮮人と日本人妻計約5千人が暮らす集落が形成されていたという。「バラバラにすると、別の収容者に日本の生活ぶりを話すために悪い影響を与えると判断されたようだ」

 姜氏が知る日本人妻の一人は、栄養状態の悪さから歯がかけ、足腰を壊していた。食べるものがなく、ドングリばかりを食べていたため、口の中が真っ黒に変色していたが、ある日突然、看守から歯を磨くように命じられ、釈放された。

 女性の父親が膨大な遺産を残していたことが判明したため、釈放して遺産を受け取らせるためだったが、遺産の大半はその後、当局に没収されたという。

 「彼女は幸運なケース。縁故のない日本人妻は人間扱いされなかった」

 ≪嘆願運動で≫

 「日本に帰らせてほしい」と嘆願運動をしたため収容された日本人妻もいた。「彼女は運動の末端だったため、収容されたが、呼びかけた人たちは処刑されたと聞いている」と姜氏。体制に都合が悪いと、北朝鮮当局は日本人でも平然と殺していった実態が浮かび上がる。

 姜氏によると、在日朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡った日本人妻は約1千人。「当初は優遇されたが、故金日成主席を呼び捨てにしたりするため、体制を揺るがす要因とされ、多くが収容所に送られた」という。

 集会は衆院第1議員会館で開催。会場には国会議員10人も顔を見せたが、約2時間の集会の最後まで残っていた議員はいなかった。

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 ■日本人妻ら2割を収容か

 北朝鮮の強制収容所の中でも特に人権抑圧が深刻なのが、政治体制を批判したり、不満を漏らした者とその家族が収容される政治犯収容所だ。

 韓国の国家人権委員会が今年1月公表した脱北者への実態調査によると、現在6カ所あり、約20万人が収容されている。刑期を終えると釈放される耀徳収容所を除く5カ所は生きて出られない終身収容所。殴る、けるや女性への暴行が日常的に繰り返されるほか、妊産婦らの銃殺まで行われているという。収容所にはこのほか、罪を犯した者が収容される「教化所」や脱北しようとした者に強制労働させる「労働鍛錬隊」などがある。

 今回の集会を主催したNPO「NO FENCE」(北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会)は、日本から渡った元在日朝鮮人約10万人や日本人妻の2割が収容所に入れられていると推定している。

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