第三章 二ートの僕が子育てをしたら (28) | ニートの僕が子育てをしたら

ニートの僕が子育てをしたら

ブログの説明を入力します。

第三章 二ートの僕が子育てをしたら 二十八話

大切なこと

「ガチャ」

ダイゴ先生だ。

「どうだ。少しは自分自身のことを振り返る作業には慣れたか?」

僕達三人はニッコリしている。

「その顔を見ると、少しは進歩しているようだな。今の世の中は忙しいからな。ビジネスの世界では、その瞬間に決断を求められるから振り返る暇を中々持つことが難しい。だからといって、過去を蔑ろにすると道を踏み誤ってしまう。決断を瞬時に行うことはとても大切なことだが、その決断を下す為には過去の積み重ねが無いと難しい。明日を見据えて、今を真剣に生きることが、有能なビジネスマンになる為には必要だということだ」

ダイゴ先生の言葉に僕達は頷いた。

「これまで、様々なマーケティングノウハウやビジネスの世界に働きかえるパワーについて、色々と初歩的なことを話してきた。今日は、もっと大事なことについて話をしてみたいと思う。ノートとペンを用意して」

僕はノートを開き、ペンを手に取った。

「書店に行くと、様々なビジネス書が並んでいるだろ?あれだけ情報があるのに、ビジネスで成功する人と成功できない人に分かれてしまうことに不思議さを感じることがないか。今の世の中は、まぁ基本的な部分に関する情報を入手することは、それほど難しいことではない。でも、やはり大事なことはコンサルタントの誰もが話したがら無い。当たり前だよな。その大事なことを得るために、どれだけ時間を費やし、どれだけの犠牲を払ってきたのか。その体験こそが富を産む装置だからだ。あくまでもビジネス書はヒントを与えるにものに過ぎないものなんだよ。その先を知りたいと本当に思うならば、著者と直接関わり信頼してもらうなどの関係性を密にしなければならない。俺の言っていることがわかるか?」

ダイゴ先生の問い掛けに、

「はい。当たり前のことだと思います。自分が苦労して手にしたものを安売りする人はたいした知識や情報を持っていないのではないでしょうか。もしかしたら、苦労さえしていないのかもしれませんね。人は大抵、苦労して手にしたものは大切にするはずです。その苦労を理解することが、教えてもらう人間には必要なことではないかと思います」

と三上さんが答えた。

「そうだな。まぁ、あまり自分の苦労を他人に押し付けるのは暑苦しくて、どうかと思うが。やはり教える人間に誠実さを求めるのであれば、教えられる側にも誠実さが必要だろうな。ここを履き違えてしまうと、結局お互いにつまらないものしか手にすることはできないだろう。つまり良い情報や素晴しい知識を心から求めるのであれば、それを手にするだけの資格も求められるということだ。だから言っただろう?自分を振り返ることも大切なことだと。求めてばかりでは、駄目なんだな。明日のことばかりを考えて、今の自分をちゃんと見ないことは、とてもおそろしいことなんだよ」

すると今野君が、

「先生の言うとおりですね。僕はいつも何か良いことが無いかと探し回っていました。自分の都合の良いことばかり考えて。でも、自分を振り返ることでそういう考えを持っている自分が少し恥ずかしくなりました。何かを手にするときは何かを手放す必要もありますね。それは過去であったりすることも」

そんな今野君の話に、

「おう!今野は少しは大人になったな。奥の深い話ができるようになった。そうだな。過去を見つめることは大事だが、過去に縛られると身動きが取れなくなる。自分を縛り付けている過去は捨てた方が良いな。人は自由を根底で求めている。この自由を阻害する縛りはできるだけ少ない方が良い。ただ勘違いしてならないのは、前にも話をした通り不自由があるからこそ、自由があるということ。好きなことばかりを求めていても、現実は甘くない。好きなことをやる為には、地道な作業も必要だ。この地道な作業から逃げていては、好きなことを好きで居続けることは難しい。本当に好きという気持ちを感じるには、ある一定の時間が必要な場合もある。様々な障害を乗り越える体験が、その<好き>という感情はより一層高めて行くことがあるからだ。よく世間で言われる言葉があるだろう。<苦労して手にしたモノほど大切にする>という言葉。かけがえのないものだと感じるのは、そこに様々な苦悩や達成感などの体験という思い出が詰まっているからだ」

ダイゴ先生の話に対して三上さんが、

「好きという感情はとても深いものですね。私は女性だから感覚的に捉えてしまいますが、好きという感情にも様々な意味のものがあるということに今気づきました。」

と言うと、

「まぁ、女性は本質を捉えているから感覚的でも構わないと思うがな。ただ、これは女性の誰にでも当てはまることではない。何も考えずに感覚だけで動いてばかりいると、結局最後は何も手にしないでフラフラした人生を歩む可能性もあるからな。じっくりと向き合い、肌感覚で好きだと感じたら、それは信じても良いと思うぞ」

というダイゴ先生のアドバイスに三上さんは納得するように頷いている。

「苦労は誰もが避けたいことではあるが、人生を光り輝くものにするには、とても必要なことだということを、これからの人生で学んで欲しい。知恵や表面的なことだけでは、本当に欲しいものは手に入らない。と言うことだ。これはお前らだけに話をする俺の人生極意だが、聞きたいか?」

とダイゴ先生がいたずら顔で僕達に聞いた。
僕達は唾を飲み込みながら頷くと、

「誰にも言うなよ。これは俺がとても大事にしていることだからな。もしお前らが、本当に欲しいものを手にしたければ苦労や苦難を恐れるな。実は苦労や苦難があるからこそ、人はそれを本当に欲しいものだと思うようになるんだよ。それらの体験が濃いものほどな。だから、本当に欲しいものが見つかるまで苦労をしなさい。簡単に何かを得ようと考えるな。大切に思う気持ちは苦労や苦難から生まれるものなんだから」

とダイゴ先生がヒソヒソ話をするように極意を教えてくれた。

大切なもの

僕にとって大切なものって何なのだろうか。
岬や山田君との思い出、そして三上さんや今野君。


いつの間にか僕は大切なものを手にしている。

どうして、この大切なものを僕は手にすることができたのか?

僕は僕なりに苦難を乗り越えてきたからだと思う。

その苦難を共に乗り越えることができた仲間だからこそ大切に想う気持ちが芽生えたのだろう。

ダイゴ先生の言うとおりだ。

大切なものは、そう簡単に手に入らない。
だからこそ、大切なものなんだ。

僕ははじめて、大切という言葉の意味を知ることが出来た。

(つづく)