農家こうめのワイン-苗  苗を並べているところです


 まず田植え時期のお話をするに当たってですが、日本は縦に長い国ですから、地域によって時期が全然違うわけです。例えば稲は沖縄や九州でもつくられていますが、3月や4月にはもう植えて、うちがまだ田植え完了していない6月には刈り取るところもあるという始末です(超早場米といわれ、夏なのに新米として出荷されるものです)。なので全国的にはどうこうという話は正直よくわからないので、まあ私の周囲では、ということにして進めます。
 ところで地域によっての話ですが、南のほうで早く、北上するに従ってだんだん遅くなりますから、では東北や北海道ではよっぽど遅いのかな?というとそんなことはなく、意外と中部より早かったりもします。理由は、稲の生育期間中に日光と気温が必要なためで、東北の場合はあまり遅い田植えになると肝心の時期にすでに寒くなっている(暖かい時期が短い)ためです。


 さて稲は生き物ですから、出来れば稲の生理的特性に最も見合う時期に植えてあげたいものです。田植えの適期は大体5月中旬とされていますが、しかし人間側の都合でなかなかそうは行きません。そしてこれがまた、大規模農家と小規模農家で都合の中身が違っていたりします。それを少しご紹介。


 小規模農家が植えるのはGW前後が多いです。なぜそうなるかは、まず苗の入手時期の問題があります。専業の大規模農家なら苗も自分で作りますが、小規模な農家なら苗を買ってきて植えます。で、どこから買うかというと専業農家に委託してつくってもらったり、地域の農家同士で何件かまとまって共同でつくったりもありますが、JAから買うのもよくあります。
 で、このJAの苗が曲者で、いつ出荷するかは主にJAの都合だったりします。苗を買ってきた後に長期間保管して置ける場所はありませんから、すぐ植える必要があり、要するにJA苗出荷時期=田植え時期になってしまいます。もちろん各JAによって違いはあり、ちゃんと米の品質に力を入れているJAならわりと遅い時期に合わせて出してたりしますが、いいかげんなところは4月中にさっさと出してしまうので、早植えになってしまいます。


 それと人手の問題です。特に田舎の小規模農家にとって田植え・稲刈りは今でも一族挙げてのイベントであることがあり、子供(孫)や親戚一堂集まってわいわい楽しくやっています。そういうふうに、たくさんの人の都合が合いやすいのがGWというわけです。


 大規模農家の都合ですが、まずなにより小規模農家とは作業の絶対量が違います。
 小規模農家は田んぼの枚数にして3枚とか、せいぜい5枚くらいのところが多く、その程度ならば田植えも、その前段階の粗起こしも代掻きもそれぞれ1日ずつで済みます。が、大規模農家は面積で最低10倍以上は違いますから、1日ずつではとても終わりません。田植えだけで2週間かかるとして、単純に最初に植えた田んぼに比べて最後に植えた田んぼは2週間の遅植えになります。もちろん田植えの前作業もいちいち長期間ずつかかりますから、仕事は押して行きます。


 また、田植えにそれだけかかるということは、ここにも苗の問題があります。また単純に田植えを2週間とすると、仮に苗を全部一度に作るとすると、最初に植える苗と最後に植える苗とはその生育具合に2週間分の差が出来ているということです。苗は短すぎるのもダメですが、長すぎても植えにくく、案外面倒くさいものです。なので、苗作り(種まき)を2回以上に分けて、作業に区切りをつけることがあります。


 もう一つ苗がらみで言うと、うちもそうなのですが、先ほど説明した小規模農家向けに苗を作っている専業農家はその他人向けの苗が完了するまで自家用の苗を作ることが出来ません。
 苗の育成はビニールハウスで行うのですが、面積にそれほど余裕が無い場合は、他人向けの苗が出払ってスペースが空かないと自家用の育成をすることが出来ないのです。仮に面積の余裕を作っても(ビニールハウスをバンバカ建てても)、そういうところはふつう春先の苗仕事の時期以外は単なるデッドスペースですから、無駄な投資となります。


 うちの仕事はよその田植えが全て終了した後から苗作りとなり、おかげで毎年6月いっぱい植えています。その理由は、遅植えでの品質へのこだわりが30%、上で書いたような理由が30%、残り40%は・・・まあ不精です(^^;