選挙前、民主党としてはFTA締結しても重要品目は対象から外すと言い、しかし小沢一郎はんなもん知るかとばかり「農産物も自由貿易対象とする。戸別保証前提だからだいじょぶ」と豪語しました。ところで西松問題はどうなった。


 私の理解では、FTAがどうたらこうたらと言っても結局簡単に言うと、アメリカからもっとたくさんの穀物を買うことです。で、日本の農産物の価格が下落した分を補償する、だから大丈夫という理屈ですが、石破農相は「そんなの、誰が、どうやってやるのかサッパリわからない」と言っていました。民主党のマニフェストを見てみると、


http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/txt/manifesto2009.txt
31.戸別所得補償制度で農山漁村を再生する
【政策目的】
○農山漁村を6次産業化(生産・加工・流通までを一体的に担う)し、活性化する。
○主要穀物等では完全自給をめざす。
○小規模経営の農家を含めて農業の継続を可能とし、農村環境を維持する。
○国土保全、水源かん養、水質浄化、温暖化ガス吸収など多面的な機能を有する農山漁村を再生する。
【具体策】
○農畜産物の販売価格と生産費の差額を基本とする「戸別所得補償制度」を販売農家に実施する。
○所得補償制度では規模、品質、環境保全、主食用米からの転作等に応じた加算を行う。
○畜産・酪農業、漁業に対しても、農業の仕組みを基本として、所得補償制度を導入する。
○間伐等の森林整備を実施するために必要な費用を森林所有者に交付する「森林管理・環境保全直接支払制度」を導入する。
【所要額】
1.4兆円程度


 私もよくわかりません(^^;


○農畜産物の販売価格と生産費の差額を基本とする「戸別所得補償制度」を販売農家に実施する。
 ですが、「販売価格と生産費の差額」ってなんでしょうか。販売価格が店頭での小売価格だとしたら流通・販売にかかってるマージンとしか読めませんが、それでいいんでしょうか?それとも農家からの売り渡し価格かな。それって農家側に価格決定の権限が無いことがほとんどなのですが。販売価格をうまく動かせば、所得保障なんかほんのちょっとですみそうですね。
 ・・・あ、もしかして前提として、販売価格を大幅確実に、生産費を割り込む激安価格にするよ、って意味でしょうか。要するに差額とは、販売額>生産費ではなく、販売額<生産費を想定してのものだと。てことは農家は、最高でも生産価格しかもらえないってことでしょうか?その生産価格を算出するのも大変そうですが(農家側の都合とか反映されないであろうことが容易に予想できるのもまた嫌ですが)、儲けとか、絶対生まれないんですね。なんか絶望してきた。

 「販売農家」とわざわざ書いているのもよくわからない。というか直接販売している農家こそ、この戸別補償にはなじまないでしょう。「販売価格」に全国一律の基準など作れないでしょうし、直販農家なら好きな価格で販売しますから、それでも補償が貰えるとしたら貰い放題です。まさか直販農家は販売農家に含まないとか?わけわかんね。


 ・・・こんな基準を聞いたのは初めてで、どう理解していいのかよくわかりません。で、加算とか何とか・・・ずいぶん曖昧な話です。


 んでやっぱり気になるのが「農畜産物の販売価格と生産費の差額」なんですけど、例えば問題の麦、大豆、トウモロコシなんかは米国産のものが安すぎて、日本での販売価格と穀物生産価格との差額を出すととんでもないことになりそうなんですよね。
 穀物を輸入すると価格が下落しそうというのは、海外産の穀物が安いからそっちの価格にひきずられるので、だけではありません。問題は最初のほうに書いたとおり、「もっとたくさん穀物を買うこと」です。何がいいたいかというと、別に国内では穀物の供給に困ってるわけじゃないんですね。少なくとも量に関しては。
 つまりもっとたくさん買い、日本でも生産量を上げるなら、すぐに供給過剰になるわけです。当然、価格は暴落するでしょう。


 ことに民主党マニフェストでは、主要穀物で完全自給を目指すとあります。絶対夢物語ですが、万万が一達成できたらそれこそ米国産穀物の出番など無くなります。本来は。
 しかし価格面では圧倒的に米国産のほうが優勢です。つまり大量生産した国内産穀物は大量に売れ残り、倉庫の肥やしになります。モノが農産物だけに適当な倉庫に常温で長期間放っておける品物でもなく、なおかつ翌年はまたさらに生産され、輸入されます。過剰在庫はますます膨れ上がります。当然売れない在庫にも補償は必要でしょうから、民主党案では倉庫の肥やしに腐るほどのお金を投入することになります。じゃあ食べ物に困る発展途上国に輸出しよう!・・・海外から大量の激安穀物を輸入しときながら、国内産の高価な穀物を発展途上国に輸出するなんて、こんな本末転倒前代未聞です。


 農産物輸入自由化がどうたらというのは別にいいんですが、その輸入したものをどうやって消費するかって事に関して、具体的な案をまだ見たことがありません。まさか、国民全員もっと食えともいえますまい。

 それこそバイオエタノールにでも使うならまだわかる話もあるんですが、一時期話題になったMA米なんかは「食用に限る」なんて条件がついていたりしたので、工業用には使えなかったりします(糊とかに使ってたのは事故米だったからOK)。国内モノを工業用に回したら・・・販売価格の暴落はますます進み、補償額は大きく、しかも生産費しかもらえない農家だって満足できるわけではありません。


 日本は、食料輸入が無いと困る国ですが、これ以上の輸入も困る国です。そこにもってきて国内自給力を高めるのはいいとしても、それと同時に海外からの輸入も増やすのはあからさまに矛盾なんですね。要するに小沢一郎のおつむの出来がどうかしているわけですが、いちいち考えなくてもそれは当然でしたね。

 もっとも逆に、「米国FTA締結で輸入が増える分、国内農家を潰してパイを増やせばよい」という考え方もあり、総合すればこちらのほうがよほどありそうです。マニフェストなんか周知の通り、守らなければ成らないことではとうてい、ありませんから。