先日取り上げたNATROM先生のブログエントリhttp://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090718 にて、コメント欄に化学物質・食品添加物大嫌いなよくあるパターンの主張をする人がいてらっしゃってて、少しコメントもつけてみたんですが、いつものパターン通りやはりと言うかなんと言うか人の話が聞こえない方のようです。しかし考えてみりゃ不思議ですが、農薬については何にも言わないんですね。ある意味珍しい・・・というか逆に言うと、ステロタイプでないのはその点のみですが。


 ああいう主張は様々な意味で典型的といえるものですが、そのパターンの一つに、添加物や化学物質を何かひとつの物質とでも捉える傾向があります。そして食品添加物はまだしも、特に化学物質のほうは完全に本来の定義を逸脱した独自の解釈のもとで話が進みます。
 もっとも、独自と言っても化学物質嫌いの人たちの中ではそれなりに通った解釈であり、要するに簡単に言うと「気に食わない物質」のことを化学物質としています。添加物や化学物質の中でも、「どの」添加物や化学物質が問題なのか聞けることはまずありません。あるとしたら「人工の添加物/化学物質」と言う答えが返ってくるのみで、ガッカリすること請け合いです。まだチクロとかサッカリンとか個別のものを言い出すならわかる話もあるんですが。


 添加物がどうこうという話をするときに、人工かどうかで区別し、そして人工添加物を悪いものとして扱う論はこれもしばしばある典型的なものですが、ほとんど必ず間違っています。何が間違っているかというと人工かどうかの区分がまあ出来ていません。典型的な例では、味噌や醤油を「自然」とし、いわゆる化学調味料を「人工」であるとする区分です。


 件の、NATROM先生のエントリで一番暴れている人はアミノ酸を「人工の化学物質」と言ってしまうほどに低レベルな方なのでもう問題外なのですが、中に人工甘味料を問題視する方がおられました。
 人工甘味料と対比する物質と言えばおそらく砂糖なんでしょうが、ふつう砂糖の事を人工甘味料とは言わないとしても、それでも砂糖って人工の物質ではないんでしょうか。砂糖は粉末や塊の状態でどこかから採取されるわけではありません。サトウキビなどに人工的な操作を施して得られるものです。


 まあ砂糖はけっこう微妙ですが、味噌や醤油なんかは完全に人工の物質です。発酵と言う化学反応を経ないと得ることが出来ないので、化学調味料を人工化学物質というのと同じ程度には味噌も人工化学物質といえます。もっともこういう意味で化学物質なんて言葉を使うのは間違いですが。
 ・・・とか言ってもそれでもまだ、大メーカーが工場で作る味噌と田舎のおばあちゃんが作る自家製田舎味噌を区別して、前者のみを人工化学物質という人もいます。両者が同じものだとは言いませんが(味噌の品質は各メーカーごとに違う、と言う程度には違うでしょう)、おばあちゃんの田舎味噌だって化学反応が介在してできることに変わりはありません。


 このように化学物質がどうこう、添加物がどうこうと言う区別をするのはたいてい間違いの元なのですが、ではどんな弊害があるかと言うと、多くの場合は「自然」と判断された物質のリスク評価をしないか、または大幅に甘く見積もってしまう点です。


 例えば人工甘味料のリスクは「おそらくあるだろう」と思われています。実際に個々の物質について分かっているリスクはあり、例えばチクロが有名です。情報の古い人はサッカリンも発ガン性があると言うかもしれません。過激な人はきっとアスバルテームも危ないはずだと言うでしょう。ただし悲しいかな、ほとんどの添加物批判はこのような個別の物質について何も語りません。
 そしてそれに比べて、砂糖や蜂蜜などの「天然甘味料」にはリスクなど存在しないかのように考えられています。


 実際には当然、そんなことはなく、ちゃんと調べてみれば砂糖が意外と危ない物質なのだとわかって驚くほどです。むしろ多くの人工甘味料より危ないくらいでしょう。蜂蜜など、乳幼児には禁忌の物質となっていることはちょっと知っている人間にとっては常識です。
 余談ですが、農薬ポジティブリスト制度が始まる前、新しい残留農薬基準でのオーバーがもっとも危惧された食品が蜂蜜でした。ふつうの栽培作物と違ってミツバチがそこらの植物から所構わず蜜を集めてくるという性質上、どういう農薬がどれほど蓄積されるのか把握することが不可能で、天然のものであればあるほどちょっと偏った条件が揃った時に一律暫定基準(0.01ppm)を超えるサンプルが出来てしまうのではないかと恐れられていました。


 実は、いわゆる人工化学物質ほどその中身がよくわかっている/天然物質ほど未だに中身がわかられていない、と言う現実があり一般的に知られているイメージとは逆に天然物ほど危ないなんてことも言えなくはないのですが(そう言っちゃうのも極端すぎるのでほとんど誰も言いませんが)、少なくとも天然・人工などという大きすぎる括りでは具体的な議論などまるでできないことくらいは把握してもらいたいものです。食に関する議論は一般的に大ざっぱ過ぎます。