最近はやや落ち着いている感がありますが、去年あたりのニュースではしょっちゅう「最近、食の安全・安心への関心が高まっていますが・・・」などと言われていました。が、それはたぶん不正確です。
 食について高まっている関心とは、次はどんな企業が問題を起こすのかな?と言う、ほかの事柄で言えば芸能人の恋愛や結婚に一喜一憂するヤジウマ根性のようなものであって、もし本当に食の安全・安心への関心が高いのであればこの不況下で家計の何を一番節約しますか?という問いへの返答の第1位が「食費」になるはずがありません。


 で、なぜ食に関する議論はまだ始まってすらいないと考えているのかと言えば、その「食の安全に関する議論」とやらで使われている言葉がまだまるで定義されていない、非常にあいまいなものばかりだからです。


 例えば「食の安全」にしてからがそうですが、いったいどのような状態になれば食は安全であると言えるのかと言う、ほとんど最大の前提のようなものすらすっ飛ばされています。そんな視点から見ると、例えば「食の安全のために有機農業を進める」なんて意見のあまりの空疎さにすぐ気づくわけで、つまり有機農業を進めることで食卓はいったいどれほど安全になるのかが全く示されていないのです。


 単純に言うと、日本国内で、食における最大のリスク要素は喫煙と飲酒を別にすると肥満です。肥満は確実に、健康に対して悪影響があり、カロリーを控えた健康的な食生活を心がけることは無農薬・有機栽培の野菜にこだわるのに比べて10万倍くらい(おおげさにあらず)健康維持に効果があります。
 日本以外の全世界も含めると、食における最大のリスク要素はなんといっても飢餓です。日本では餓死はほぼ無いも同然なので特に考える必要はないかもしれませんが、たまに思い出すとよろしいです。

 なので、例えば肥満を防止すれば損失余命がいくら減少するから、全体として寿命が何年延びるので、目標をどこどこに置いて取り組むことにして、ではそのためにはどうすれば言いか・・・などなどと具体的な話をすることは可能で、もちろんやっている所もあります。


 さてそれらを踏まえて、昨今からの「食の安全にかかわる事件」を見ると不思議に共通しているのは、中国製ギョーザ事件を除くとどれにも健康被害が出ていない点です。経済的な被害はほうぼうに出ていますが。
 ところで私はしつこいんで、白いんげんダイエットや納豆ダイエットなどでは健康被害が出ているぞと言いたいところなのですが、それらは各マスコミからたいした問題ではないと思われているようなので、悪い意味で「食の安全にかかわる事件」から除外されます。


 話を元に戻すと、健康被害が出ていないと言うことは、三笠フーズや雪印などの問題を理想的に処理しても「食の安全」には何ら寄与しないと言うことです。「食の安心」には関係するかもしれませんが、と言うことは行わなければならないのは「安心対策」です。それはおそらく、一般的に行われている「安全対策」とは異なるものが必要です。


 流行りの事件や、農薬やら食品添加物をテーマにした、食の安全についての議論を始めるならばまず前提となるデータを整えないとダメです。わかりやすいものでは、野菜の残留農薬で年間何人の人が死亡しているかです。で、例えばその死者を30%減らすことを目標として、ではどんな農薬がどれだけ人を殺しているか調べて、だからこの農薬の使用を規制するとか使用量を減らして残留をなくすとかすれば死者30%減が見込める、なんて話ができれば文句は言えません。
 ところが困ったことに、野菜の残留農薬を原因として亡くなった方は、日本国内ではまだいません。直接殺す急性毒性ではなく、例えばガンを作ってゆっくり殺す慢性毒性で見ても、農薬による損失余命など話にならない小ささで、それを改善するなどと言ってもとても具体的な目標を設定できるものではありません。
 まっ要するに、農薬批判において具体的な目標なんか、設定した瞬間に矛盾が発生するんで、したくても出来ないってあたりが真相なんですよね。


 とにかく、危険な食ってやつがどこにあるのかすらサッパリ分からないのに食の安全を声高に主張されて、農水省や厚労省あたりがなんか意味不明な対策を取り出すのが本当に無駄で嫌なんです。


koume