東大農場で禁止農薬米 97~99年栽培、一般に販売
http://www.asahi.com/national/update/1002/TKY200810020120.html


 東大大学院農学生命科学研究科付属農場(長っ)で作る稲に使う種子を消毒するのに、現在は使用が禁止されている水銀剤を使ったというニュースです。


 まずこの件を理解するのに知っておいてほしいことは、農薬取締法と食品衛生法の違いです。以前のエントリでも説明しましたが(キュウリから禁止農薬 -土佐香美農協 )、簡単に言うと、使っちゃいけない農薬を取り締まるのは農薬取締法で、農産物の残留農薬とかを取り締まるのは食品衛生法です。両者は区別されているので、つまり使っちゃいけない農薬を使った農産物を、ただそれだけの理由で回収したり廃棄したりする法的根拠は本来はありません。使っちゃいけない農薬を使うのは、使用者には罰則はありますが、それが残留していない限り農産物の方は売っても食べてもOKなのです。ただし当然、基準値以上の残留農薬が見つかれば食品衛生法ではじくことが出来ます。

 逆に、使ってもいい農薬を規定どおり使い、それでも万が一残留基準以上に残留してしまった場合は回収になります(まあ、そういうことはほぼありえないようになっていますが)。


 ですがこの件は、研究機関での出来事という点で、この一般的な農取法・食衛法の守備範囲から外れると思います。研究目的ならばという条件付で、治外法権が認められることがあるからです。例えば本邦では、一般の農家が遺伝子組み換え作物を栽培することは出来ませんが、つくばなどの試験農場でなら作っているところはあります(一般に栽培されてないのは法的根拠があっての事かどうかは知らんけど)。
 大学ならば例えば、高濃度の農薬をわざと散布してどの程度残留するのか調べたりとか、そういう実験はするのでしょう。まあ今回の水銀剤は実験目的で使用されたのではないような気がしますが、使用したことそのものは特例的に目をつぶってもいいのではないかと言う気がします。


 ただ、ではなぜ研究機関ならばそういうことが認められるのかといえば、その研究が機関の中で完結しているからであって、つまり今回の場合で言えば農産物を外に出したらそりゃあマズイでしょう。要は、農取法及び食衛法に基づくならば根拠のない、使用禁止農薬を使ったことによる食品回収は、この件に限っては行われるべきだと考えます(まあ、もう回収できないでしょうが)。
 当然、大学側の管理責任も厳しく問われるべきです。それはどちらかというと、禁止農薬を使用したことではなく、そんな収穫物を一般に販売した点です。


 ちなみに安全性についてですが、リンク先の報道記事にもあるように、水俣病などで被害をもたらしたのはメチル水銀という種類で、本邦で農薬用に使われたフェニル水銀ではほとんど被害は出ていません。水銀農薬を扱う報道にはこの両者を混同する物が多いのですが、この点でこの記事は優秀です。やれば出来るじゃないか(えらそう)。
 それと、今回の水銀剤は種子消毒を目的として使われたようですが、種子消毒剤が作物にまで残留することはまずありえません。なのでこのコメで予想される健康被害はほぼ皆無といっていいと思います。むしろこの手のものは、使用した後の処理を適切に行わないと、環境への負荷を気にした方がいいようなものですが、さすがに研究機関ならばそういうところはちゃんとしているでしょう。


koume