北國新聞 7月3日朝刊より。



 耕作放棄地 来月から調査
 県、市町 11年度解消目指す


 県と県内全市町は来月から、県内全ての耕作放棄地の現地調査を行い、市町単位の「耕作放棄地解消計画」をまとめる。国は耕作放棄地を解消する方針を打ち出しており、県も二〇一一(平成二十三)年度中の解消を目指し、本格的な対策に乗り出す。


 調査は市町の農業委員会と連携し、耕作放棄地の実態を把握。荒れ方に応じて三段階に分類し、市町で具体策を盛り込んだ「解消計画」を策定する。


 放棄地の分類では▽草刈りなどで耕作が再開できる「緑」▽耕作再開には基盤整備が条件となる「黄」▽農地の復元が不可能な「赤」-に色分けし、地図上に表示する。「赤」については最終的に非農地への転換が迫られる場合もある。


 県内の耕作放棄地は奥能登など中山間地を中心に拡大しており、最新の〇五年統計では約三千百三十一ヘクタール。前回の二〇〇〇年の調査から百十八ヘクタール増加しており、農家の高齢化や米価下落など営農環境の悪化により、現在はさらに増えている。


 耕作放棄地の拡大防止に向け、県は棚田オーナー制度を通じた都市農村交流や、耕畜連携による和牛放牧のモデル実証、企業による農業参入の促進に取り組んでいる。県が重点的に取り組む里山保全とも密接に関わる点があり、県は「調査結果を里山保全に講じる際の基礎資料として生かしたい」(農業政策課)としている。



 これを読んで「あっトリアージだ」と思ったのは私が医療問題に興味あるとかそういうのとは関係ありますまい。赤じゃなくて黒タグにすればいいのに。


 さて農政課の役人さんは優秀ですので当然知っておられる事だと思いますが、記事にはまるで無かったので農地のことをご存じない方のために書いておきますが、農地が農地たりえる条件は雑草がどうこうだけではありません。

 もちろん長年ほったらかしにされた農地の雑草は、一般の皆さんが想像される「草ボーボー」とは桁違いで、木が生えているというくらいのレベルなのでそこまでになると鎌や除草剤程度じゃ太刀打ちできなくなり、限りなく黒タグ対象になりますが、農地にとってもう一つ超重要なポイントは水利があるかどうかです。


 その農地が川の近くにあるとか言うならまだマシですが、用水路が長年放置されて使い物にならなくなっていたらもういくら雑草が少なくとも農地としてご臨終です。特に中山間地の農地には冗談のように遠い取水場から用水を引いているところがあり、その集落に詳しい爺さんがいなければいったいどこからどう水を引っ張ってくればいいのかわからない田んぼだってあります。地図なり何なりを見れば載っているものがあるといえばありますが、実際のところ中山間部の取水はそんな甘いものではありません。信じられない方は金沢に来ていただければ案内いたしますが決死の覚悟が(ほんとに)必要です。


 先日、全くの素人から農作業を始めた人と少し話したのですが、田んぼの水回りがこんなに大変なものとは知らなかったと言っていました。
 普通の田んぼ仕事といえば、畦塗りをして田起こしをして、水を張って代掻きをして田植えして・・・となりますが、意外と知られていなくて驚いたことがあるのですが、この時田んぼに入れた水が秋までずっと残っていることはまずありえません。田植えをしたらその後はしょっちゅう、本当にしょっちゅう見回って、水がちゃんとあるかどうか確かめて減っていたら調節して・・・という作業を稲刈りまでえんえん繰り返すことになります。今日は水がなみなみあるように見えても翌日になったらカラカラって事は非常によくある話であり、田んぼに水が入れやすいか・・・つまり用水路に水が充分来るかは田んぼにとって非常に大きなチェックポイントになります。


 農地を守るということは同時に水利を守るということでもあるのです。たいていの場合用水路は田んぼ一枚一枚ごとにあるのではなく、少なくとも大元の用水に関して言えば複数の田んぼが共同で使うことになります。複数の田んぼを管理している人間が複数いればもちろんみんな共同で水路を管理します。つまり、年に数回ドブさらいや下草刈りなどをします。そうしないとあっという間に泥や落ち葉などがたまって水路が使えなくなるからです。


 なので、耕作放棄地が発生する時は集落ごとに固まって発生することがしばしばあります。例えば5件の農家で田んぼを作っている集落があったとして、そこの集落の田んぼが全滅するのは5件の農家全てが離農する時ではありません。2~3件離脱するだけで、用水路の維持管理が困難になって離農せざるをえなくなることがあります。高齢化が相当進んでいる集落だったら、たった1件の離農で全てが終わることもありえます
 そしてそんなところへ、新しい人がいきなり入っていって何かできるとはちょっと考えられません。中山間地へ農業法人が入るなんてのはもう問題外ですが(大面積によるコスト低減効果が得られないようなところへ企業が入るとしたら、そこの経営者は相当の心臓かアホです)、仮に意欲がある個人が行ったとしても延々数キロの水路を一人で管理できるとはちょっと思えませんし、そもそもどこにどう水路が走っているか自体わからないでしょう。いくら田んぼに緑タグがついたとしてもそんなものに何の意味もありません。


 断言しますが、平成23年までに耕作放棄地を全廃するなんて間違いなく絶対不可能です。もっとも、全てに黒タグつけるなら話は別ですが。


koume