農薬を批判する報道や文章はあちこちで見受けられます。先日もいくつかのテレビ番組で、有機リン系農薬の被害とかホタルの復活がどうとか化学物質過敏症の件だとか、放送があって結構反響もあったようです。
 が、それらは全て、正確な情報を伝えると言う点で非常に拙いものだったと言わざるを得ない内容でした。もちろんそれはテレビ番組だけではなく、「美味しんぼ」にしても雑誌にしても評論にしても、納得できる農薬批判に出会うことは滅多にありません。それは論の内容がどうこうという問題ではなく、そもそも農薬そのものや成り立ち、法規制などについて何も知らないとしか思えないものばかりなのです。サッカーを一切見たことが無い、ルールも全く知らないと思えるような評論家がスコアだけを見てサッカー批評をするようなもので、有効な論になどなりえるはずがありません。
 ただ、農薬について正確な知識を持つ人が少なく、その割には誰もが農薬のことを多少は知っていると思い込んでいて、記者や評論家は何ら勉強しなくても、それに合わせたものを書いていれば雑誌が売れるという妙な循環になっています。私が知る限り、メジャーな雑誌でまともに食糧問題を取り上げたものは7月30日に発売された「週刊ダイヤモンド」第30号しかありません。


 農薬批評を見る際、注意すべき3つのポイントがあります。それはごく当たり前のことなのですが、ほとんど全ての農薬批判がそれを満たしていない。全然問題外なんです。逆に、そこさえ気をつければ正しい目を養えるし、有効な農薬批評も出来るかもしれません。そのポイントを紹介します。


1・農薬とは「総称」である
 「農薬には○○の害が・・・」などと、農薬というものそのものをひとまとめにして批判する論はよく見られますが、農薬には数百種類あり、持っている性質も効果も毒性もさまざまです。急性毒性も残留性も魚毒性も、物が違えば全然変わってくるものなのに、全てを一緒くたにして批評しているものは農薬の実態をわかっていないということです。河に流れ出る農薬が・・・と言っても魚毒性が高い農薬はあるけど全く無い剤もあるわけで、そういうものを峻別しない議論に意味はありません。
 ちなみに魚毒性の高い農薬は、水系に流亡しないような使い方をするように規制されているので、海や水棲動物に農薬の影響があるという話は間違っています。


2・農薬には、効果がある
 当たり前ですが農薬にはそれぞれ役割があり、効果があります。殺虫剤は害虫を殺し、除草剤は草を枯らす。殺菌剤で病気を抑え、防カビ剤でカビの発生を予防します。
 ところがほとんどの農薬批判は、その効果に触れる事がありません。危険性だけは大いに間違った形で取り上げられ、効果に関しては無視されます。
 そりゃあ、効果を見ずに危険性だけを喧伝すれば、怖いでしょう。けどそんなことはありえないわけで、我々農家はその効果に期待して農薬を使っているわけです。
 農薬に限らず全てのものは、その効果とリスクを秤にかけて使っています。自動車なんか、年間1万人に及ぶ死者を出しながらも毎日日本中を走り回っています。私に言わせれば、農薬を批判する人は毎日歩きか馬に乗って生活しなければいけない。
 もしも農薬を使わなければ、ということを批判者は全然考えません。農産物の、病気や害虫の害のことなど消費者は全然知らないからです。病気なんかちゃんと手入れしてればかからない、雑草や害虫なんかほっといても大した事ないだろうと考える人は結構多いけど、大間違いですよ。栽培作物なんてほんとに弱いから、対処が遅れればすぐ壊滅します。


3・毒性には量が重要である
 16世紀の錬金術師・パラケルススがその時すでに、「有害でない物質は無く、用量によって毒か薬か決まる」と言っています。毒とはその量が重要で、例えばフグ毒のテトロドトキシンも極微量しか摂取しないなら効かないし、塩を150グラムぐらい一気に食べれば人は結構簡単に死にます。
 「残留農薬があった」という話は、一見危なそうですが、実は意味のない話です。肝心な量の話が無視されているからです。ほとんど全ての「残留農薬」はごくごく微量で、影響など考える方が馬鹿馬鹿しい物でしかないのです。
 残留農薬は、それを散布した直後は当然残留しています。そしてその瞬間から、太陽光や土壌微生物など、そして何より植物自体の代謝で農薬はどんどん分解されていき、収穫するころにはほとんど無くなっています。実際、市場に流通している農産物の99%からは農薬は検出されません。そして検出されても、残留基準値を超えるものが見つかることは稀です。
 量を無視しているといえば、残留農薬のことが話題になることはあっても、残留農薬による被害者の数は全然問題になりません。それもそのはず、被害者など出ていないからです。海外に目を向ければ中国のメタミドホス、ハワイでのアルジカルブでそれぞれ死者が出たことがあるそうですがそれは世界的にも珍しい事故に相当する事例です。もちろん日本では、そんな事例は発生していません。


 この3点をクリアした農薬批判などほとんど見られません。逆に言うと、これらを誤魔化せばいくらでも批判はできるし、普通の消費者はみんなそんな馬鹿馬鹿しい物に騙されているのです。チェックは簡単です。現代の農業は、農薬問題などに構っている余裕はありません。


koume