サル園で農薬の害について「催奇形性がある」と指摘し、アメリカのフォスター上院議員をやっつけた山岡君ですが、そのおかしさは前回否定しました。
 が、山岡君本人はそのおかしさには全然気づかず、ますます絶好調で、次は日本国内の農薬使用について攻撃し始めます。対象は、元JA幹部で米作りをしている土田さん。


(以下引用)


山岡 : 土田さん、あなたは以前農協の幹部だったそうですね。ご自分でも農業をしていましたか?

土田 : もちろん。

山岡 : それでは多分、自分の家で食べる作物と、農協を通じて売る作物は、別の畑で作っていませんでしたか?
 自家用の作物には農薬を使わず、売りに出す作物にはたっぷり農薬を使う。そうでしょう?

土田 : (うっ)
 し、しかしそれは、例えばキャベツに穴が開いてたりしたら、値段はうんと安くなるし、・・・


(以上引用・台詞はまだ続きますが次回に回します)


 これは酷い欺瞞です。ここでは農家として土田にこんな言い訳をさせていますが、実際の農業の現状は全く異なるからです。土田はマンガの作者にとって恐ろしく都合よく設定された架空の人物であって、実際の農家が「うっ」などと言って困ることは無いからです。
 ただ、農家は自家消費の農産物には農薬をかけない(だから卑怯だ)、というお話はよく耳にします。おそらく作者も、どこからかそんなお話を聞いて、マンガに反映させたのでしょう。ところがこれは、「赤ちゃんはコウノトリが運んでくる」などと同様の都市伝説です。


 まずそもそも、農家は本当に自家消費の農産物に農薬をかけないのか。その答えは、そういうこともあるし、そうでないこともある、です。
 そういうことを言うと山岡あたりは、「ほら農家は自分が食べる分には・・・」などと鬼の首を取ったように主張しだすのでしょうが、そもそも前提が間違っています
 山岡の主張の前提条件は、「農薬をかけないほうが安全な作物が出来る」と言うことです。あるいは、「農薬を使わないほうが高品質な農産物が作れる」。そもそも、農薬を使おうが使うまいが結果が大して変わらないのであれば、農家が自家消費用のものに農薬を使わないことは問題にはなりえません。
 ただ、これが間違いです。農産物は一般的に、農薬を使った方がはるかに安全に作れて、しかも品質も向上するのです。


 山岡や、日本子孫基金の小若順一など、嫌農薬の人たちは農薬の害を非常に過大に宣伝しますが、その効果に関しては恐ろしく過小に評価するか、あるいは全く検討もしません。ポスト・ハーベスト農薬に関して山岡はまさにそうだったのですが、普通の農薬も同じことです。

 農産物の虫食いや病気、あるいは雑草などについて、山岡たちはどう捉えているのでしょうか。農家がちょっと汗を流せば克服できるものとか?全くそんなことはありません。田の草取りを人力でまともにやるのは時間的にも体力的にもおそろしい重労働です。除草剤が使われているのを嫌がる方はぜひ連絡を下さい。いつでも田の草取りをやらせてあげます。
 虫食いは、このマンガではよく、キャベツに小さく穴が開く程度だと紹介されますが本当の虫食いはあんな可愛いものではありません。もっとはるかに徹底的で、無残です。「多少の虫食いは我慢」なんて、そんなレベルではありません。絶対に売り物には出来ません。また、虫毒の問題もあります。虫自体も非常に小さいヤツ数千数万と言う桁ですので、手で取るなど不可能です。
 病気に関していえば、襲われた際に出来る対処は、農薬以外となるとほとんどありません。「運を天に任せる」程度です。植物は、しかも現在の栽培作物は特に、病気に対して弱いので、何も対策を採らなければ全滅もありえます。勝手に治ることはほとんどないし、わずかに生き延びても品質は無残なものです。ほとんどゴミ同様になります。


 さて、では何故農家は自家消費の農産物に農薬を使わないか?そんなもの、多少虫に食われても構わないからです。売り物にしないんだから。多少の傷は、自家消費のものにとってどうでもいいのです。
 つまり、農薬をやらないということは、手抜きなのです。また、酷い虫害や病害に襲われてもそれでも農薬をかけない農家はいないでしょう。
 だいたい、農薬のコストって高いんですよ。使わなくてすむなら、誰も使いません。自家消費の農産物に農薬を使わないのは、そういう理由もあります。というかこれが大半です。農薬自体も高いし、かけるのも面倒です。
 作物の安全性のことなど、誰も考えていません。考えるまでも無く、当然のように安全だからです。


 レストランのシェフは、レストランでは美味しい料理を作るために食材を吟味し、厨房の衛生状態に気を配り、清潔な衣服を身に着け、その料理の味付けや盛り付けに細心の注意を払っていますがプライベートでも同じでしょうか?安売りの食材で、盛り付けの美しさなど考えず適当な調理をする事だってあるのではないでしょうか。農家にとって、出荷用の作物と自家消費用のそれの違いはこのようなものです。


 またこの話は、農家が自家消費用と出荷用を分けて作っている場合での話ですが、多くの農家はそうではありません。農薬を使って生産した作物の、その中でも出荷できなかったようなものを自家消費しているにすぎません。
 稲作農家の場合、自分で食べているのは、屑米の中から割合にいいものを選別した中米などがメインです。普通の消費者が食べているものより数段落ちるものを食べています。考えてみれば当たり前で、農家が売り物よりもいいものを食べているのであれば経営的に成り立ちません


 だいたい、農家だってほとんどの食べ物はスーパーなどで買っているのです。山岡は農家がまるで無責任な態度を取っているかのように発言していますが、製造者責任はそれほど軽いものではありません。


 この場合山岡は、農薬を使わなくても農業は出来ると考えています。実際、家庭菜園のレベルなら無農薬でも野菜を作ることは出来ます。しかし、農業とは産業です。我々農家は、農産物を作って、それを販売し、利益を上げて生活していかなくてはなりません。
 100㎡の畑で野菜を無農薬で作れても、2haの面積で同じ事ができるはずだと言う主張は通りません。両者は全く違うものです。また、家庭菜園の野菜が全滅したところで特に懐に関係はありませんが、産業として農業に従事している人の収穫が全滅したならばそれは冗談抜きで生き死にの問題になります。
 農薬反対を掲げる彼らは、全部がそうだとは言いませんが多くの場合、農業の現状を全く知らずに無責任な発言をします。センセーショナルな言動を以ってする人たちは特にそうです。
 彼らはそもそも、農薬のリスクに関して全くわかっていません。一般消費者(非農業者)は農薬リスクにさらされているのか?当たり前ですが、一般消費者の農薬リスクなど、農薬を実際に使用している農家から見れば屁のようなものです。農産物の残留農薬は、実際に使用される農薬の軽く1万分の1以下です。農産物の残留農薬のリスクが本当に高いのであれば、農家自身が生きていないんですよ。


 農薬反対は非常に簡単に主張できますが、その事の重さはわかっているのでしょうか?ちょっと調べればすぐ間違いとわかるようなこともろくに調べず、やれ農薬はナチスドイツ軍が開発した毒ガスの副産物だなどというホラ話(こういうことを主張する人が本当にいる)のせいで、いったいいくらの損害が出ているのか、考えるだけで恐ろしい。サカタのタネの農薬使用違反の余波で、4億円近い「安全な」メロンが廃棄されたと言うニュースに触れたとき、私は本当に悲しかった。雁屋哲や日本子孫基金は、サカタのタネや各農家に損害賠償するべきです。


koume