朝、いつも通りきぃちゃんと登校すると生徒昇降口の廊下を橋本先生が通りかかり、他の生徒達に挨拶をしてく。



今日は白衣を着ていて、理科の先生なんだと改めて思うのと同時にその姿がとても似合ってる。



「齋藤さんと北野さんおはよう。」



「「おはようございます。」」



挨拶をして行ってしまった。



やっぱ、綺麗だな。



そんな事を思いながら渡り廊下を歩いていると、



ん?


窓の外にすばしっこい何かが走り去るのが見えた。




小さい茶色い何か...

なんだろう、あれ?


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化学めっちゃ難しかったやん。


橋本先生が手加減してないのは充分分かるんやけど、それにしても難しすぎるやろ。


この間のテストを返却されて点数は良くないけど、平均点も悪い。



高得点は取らせたくないんやな。



「かずみん何点やった?」



「ん~、89点。」



え、凄っ。



「でも、1番は いくちゃんみたいだよ。」





「生田さん凄いね。はい、どうぞ。」



橋本先生からテスト用紙を返される いくちゃんの顔がニコニコしてる。



みんな凄すぎ。



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「確か朝はこっちの方向に行ったはずなんだけどな~。」




飛鳥は今朝見た、すばしっこい物が気になっていた。


そう探しているうちに庭園の方に来ていた。

放課後の庭園は生徒がちらほらといる。



すると、遠くの方に明らかに生徒ではない人が1人いた。



近づいて行くと、花壇に水をくれている橋本先生。飛鳥が近づくと先生も気づいた。



「あ、飛鳥さん。どうしたの?」



え、名前呼びになってる。

朝とは呼び方が変わっていて驚く。




そして、先生に今朝の出来事を話した。



「庭園の方に行ったんだよね?...なんか面白そう。私も一緒に探してもいい?」



「あ、はい。」




広い庭園を二人で探索することに。




「そういえば、七瀬さんって飛鳥さんのお姉ちゃんなんだってね。この間、白石さんから聞いたよ。」


「あ、姉のこと知ってるんですね。」



「その時に七瀬さんも居合わせたの。」



そう会話をしていると、奥の小池からバシャバシャと水しぶきを上げる音が。




行ってみると、そこには子犬が池に溺れて足をバタつかせていた。




どうしようっ



すると、隣にいた先生が、よしっ と言ってズボンの裾を捲って池に入って行く。



池の中央で溺れていた犬を両手で捕まえて、

もう大丈夫だからね と言いながら池から出て来た。



かっこいい...。



濡れた子犬を先生がハンカチで拭いてあげる。その犬は茶色い小型犬だった。



あ、もしかして今朝のってこれ?



「お前はどっから迷い込んだの~?」



わしゃわしゃ拭きながら犬に話しかけている先生が楽しそうで、そこらへんのいまどきの学生となんら変わりない。




「どうして泥が付いてるの?そこの池も泥水みたいになってるし。...まぁ、いっか。とりあえず研究室に連れて行こうか。」



「はい。」



子犬を抱きかかえて校舎に向かっていると白石さんとお姉ちゃんが花壇に水をあげていた。



すると、白石さんが目を見開いて




「え、先生、そのわんちゃんどうしたんですか?!」



「池で溺れてたから助けたの。どっから来たかも全然分からないんだけど...わっ!」



子犬がいきなり抜け出して、勢いよく花壇に突っ込んだ。



「あ、ちょっと!」




慌てて七瀬が捕まえて、花壇も無事。



すると今度は何も植えていない花壇に向かって駆け出し、幸せそうに土の上にゴロゴロ寝転ぶ。




これじゃあ、土だらけにもなるよ。




「こんなに泥だらけになってー。また花壇が荒らされちゃうところだったよ〜。... あ、もしかしてこないだの花壇の犯人ってこの子犬?」



「多分そうやと思う。」



「なるほどね。...まぁ、それなら仕方ない。ホースで洗い流してあげよう。」




本日2度目のずぶ濡れ犬を拭いてあげ、橋本先生が少しの間なら内緒で研究室で飼ってくれることに。




これで一件落着...