昔はコロリ病とも言われたパルボウイルス感染症は伝染力が非常に高く、特に仔犬や仔猫では死亡率が極めて高い。
 犬や猫、アライグマのパルボウイルスにタミフルが効果的だとか、そうでないとか・・・

はぐれ獣医 純情派~異論!ワン論!Objection!~-tami■タミフルとは
タミフル(成分名:リン酸オセルタミビル)は人用のインフルエンザ(A型、B型)治療薬で、ノイラミニダーゼ阻害薬に分類される。

■インフルエンザウイルスにタミフルが効く理由
ノイラミニダーゼ(NA)は、細菌とウイルスが作り出す酵素である。難しい話はよくわからないが、インフルエンザウイルスが増えるためにはノイラミニダーゼという酵素が必要となる。タミフルは、このノイラミニダーゼを邪魔するから、インフルエンザウイルスが増殖できなくなる。

■犬や猫のパルボウイルスにタミフルが効く理由
パルボウイルスが増えるためにもノイラミニダーゼが必要だが、残念ながらパルボウイルスはノイラミニダーゼを持っていない。そこでパルボウイルスは、腸管内の細菌が作るノイラミニダーゼを奪って増殖する作戦(多重感染:Super Infection)をとる。だから犬や猫のパルボウイルスにもタミフルが効くってわけだ。ちなみにタミフルはジステンパーウイルスや他の胃腸炎を引き起こすウイルスには効かない。

はぐれ獣医 純情派~異論!ワン論!Objection!~-0909■タミフルと暴走族検挙
タミフルが増殖するインフルエンザウイルスを抑えることを、暴走族の取締りに置き換えて説明してみると、爆音で走り回るインフルエンザ暴走族を直接検挙するというより、若者たちの家に隠してあるバイクを押収する作戦に相当する。リーダーから集会の連絡が入り、夜中に活動しようと思っても、バイクがないのでメンバーはそれぞれ自宅待機となり、暴走行為が出来ない状態になる。
一方、パルボウイルスも同じように説明するなら、パルボ暴走族は自分のバイクを持っていないので、一度友達の家へ向かい、バイクを借りて暴走行為を繰り返しているが、同じようにバイクが押収されるので暴走行為が出来ない状態になる。

■タミフルの投与量
人と犬/猫では推奨投与量が違う。
犬:2.2mg/kg(1mg/lb) 1日2回 5日間(オフラベルユース)
 (注)効果がなかったら4.4mg/kg(2mg/lb) 1日2回
猫:2.2mg/kg(1mg/lb) 1日2回 5日間(オフラベルユース)
実際には、1カプセル(75mg)を17mlの水に溶解した液体を作っておき、体重100g当たり0.05mlを飲ませればよいという算数となる。

■投与タイミングと投与期間
タミフルは体内でインフルエンザウイルスを増やさないようする薬なので、インフルエンザのウイルスが増えていく時期に飲まないと意味がない。人ではインフルエンザの症状が出てから2日以内に飲むことが推奨されており、通常5日間内服する。
犬や猫でも、うんちの検査でパルボウイルスを現行犯逮捕した瞬間から5日連続で内服する。

■副作用
現時点ではよくわかっていない。

■他の薬との相性
現時点ではよくわかっていない

■治療のゴール
爆音でパラリラパラリラ走り回る若者を摘発するのではなく、直管マフラーのバイクやシャコタンなどの違法改造車を押収することで暴走族を最小化すること。

■注意事項
基本的にタミフルは人用の抗インフルエンザ治療薬であり、犬や猫に承認が得られていないため、動物病院での治療はオフラベルユース (適応外使用)となる。パルボウイルスに対する多くの治療データやエビデンスがある訳ではなく、獣医師の裁量と責任で独自に行われているのが現状である。

はぐれ獣医 純情派~異論!ワン論!Objection!~-poloce■最後に
ドキドキしながらの飲酒運転。100m先には警察官が振る赤い誘導灯と、「飲酒検問」の電光掲示というまさに絶体絶命のピンチ。直進すれば100%検挙される状況において、手前の路地でのまさかの右折のように、タミフルは致死的なパルボウイルスからペットの命を救うための“ラストチャンス(Last chance to escape)”かもしれない…

<参考文献>
A New Treatment For Parvoenteritis
犬と猫のパルボウィルス感染症に対するリン酸オセルタミビルの効果はぐれ獣医 純情派~異論!ワン論!Objection!~-jhh