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人は異性のどこに魅力を感じ、恋をするのでしょうか?

「ルックス」・「性格」・「経済力」などに対するプライオリティーが高い方もいれば、「ハプニング」・「フィーリング」・「タイミング」を重要視する方もいるかもしれません。
「なぜ恋をするのか?」という永遠の命題の回答になるかもしれないユニークな実験
Wedekind et al 1995)が報告されました。


【方法】
男子学生に同じTシャツを2夜連続で着てもらい、女子学生にそのTシャツの匂いをかいでもらって、10段階評価で好感度を判定する。つまり、男性の洗濯していないTシャツを女性にクンクンしてもらい、どの匂いが好きかをチェケラッチョするという実験です。


【結果】
女性は自分のMHC遺伝子とかけ離れた男性の匂いを強く好み、逆にMHC遺伝子の似通った男性のTシャツの匂いを嫌う傾向が見られた

これはいったいどういうことでしょうか?
まず、MHCとは細菌やウイルスなどの攻撃を体の“自衛隊”に知らせるセンサーの役目をしていると理解します。結果的に自衛隊が総動員され細菌やウイルスを攻撃するシステムになっています。つまり、体内のMHCの種類(多様性)が多ければ多いほど、感知する細菌やウイルスの種類も多くなり、病気にかかりにくいという訳です。西城秀樹のYMCAは“Young Men's Christian Association”の略ですが、
MHCは主要組織適合遺伝子複合体の略です。

赤血球にはABO型やRh型の血液型が存在することは周知の通りですが、実は白血球にも血液型が存在します。この白血球の血液型(MHC分子:ヒトではHLAと名前が付けられている)はA、B、C、DR、DQ、DPの6種類(計約100種類以上)が発見されています。おもしろいことに地球上で自分と全く同じMHC型を持つ人は一卵性の双子をのぞいて、ほとんどいないと言われています。このように、MHCは個体によってかなり違いがあり、ある病気に免疫を持っている人もいればそうでない人もいます。従って出来るだけ多くのMHCを持っていた方が幅広く病気をカバーでき、有利になります。自分のMHCと異なるMHC持っているパートナーとの間に生まれた子供達はバリエーションの多いMHCを継承することになる訳で、より多くの病原体に対応できることになります。


次に多様性という意味がよくわかりません。

例えばランチを食べに行くとします。Aというファミレスではパスタ・ハンバーグ・ステーキからメインディッシュを選択することができ、各種サラダ・スープからサイドメニューを選択し、豊富にラインナップされたスイーツの中から1種類を選ぶことが出来ると仮定します。Bというファミレスでは1種類の日替わりランチメニューしかないと仮定します。フレキシブルに対応できるという意味ではAというファミレスの方が「多様性」に富んでいるということになります。免疫システムにおいても「多様性」は非常に重要となります。


これらのことから遺伝的に異なるタイプの異性を好む傾向にあるということはなんとなく理解できましたが、なぜ匂いが影響するのかが理解不能です。



34実はMHC遺伝子が個体それぞれ特有の匂いに関与することがわかってきたのです。それを裏付けるようにマウスは自分と遺伝的に似ている相手よりも、似ていない相手
のにおいを嗅ぎ分けて交配する傾向がある(Reusch et al.2001. Nature 414, 300-302.)と言われています。つまり、指紋と同じように個体によって臭いが異なり、その匂いにはMHC遺伝子が関係しており、同じような臭いよりも異なった匂いを持つ遺伝的にタイプの異なる相手を好むということになります。もしかしたらミッキーマウスも自分と匂いの異なるミニーちゃんを選んだのかもしれません・・・


男子学生同士で同じような内容の実験を行った結果においても、同じ傾向が見られました。つまり、人間は性別に関係なく、自分と違うMHC型を持った相手に惹かれるということになります。さらにこの実験で女性が経口避妊薬を服用している場合は逆の結果となったというのです。つまり経口避妊薬を飲んでいる女性は自分の匂いと似ているほど、好む傾向が強かったのです。


実験に参加した女性にTシャツを選んだ理由を尋ねても、判断の基準となるクライテリアはなく、無意識的に選択を行なっているのです。
合コン終了後の女性同士の反省会で

EXILEのLovers Againを熱唱していた彼は生理的に受け付けない」
というコメントを科学的に推測すると、

EXILEのLovers Againを熱唱していた彼は自分とMHC型が似ているから生理的に受け付けない」
となるのでしょう。
確かに街を歩いていると「Why?」と声に出してしまいそうな理解不能な美女と野獣カップルに遭遇することがありますが、もしかしたら
MHC型が影響しているのかもしれません・・・

この実験から感じたことは、ファイナルアンサー(人生のパートナー)を選ぶ戦略は
経営の多角化・弱体部門の強化・マーケットシェアの拡大・競争力の強化などを目的とした企業戦略であるM&A(企業の合併・買収)や包括的な業務提携という概念と似ているかもしれないということです。つまり自分の免疫力と相手の免疫力の合併・買収により免疫のシナジー効果を発揮させる戦略です。

ロマンチックな恋愛にエビデンスは必要ないかもしれませんが、少なくとも科学的な研究の発達によって、恋愛に遺伝子という眼に見えないファクターが影響していることが分ったことは素晴らしいことではないでしょうか・・・


<注意>
同じような実験がいくつか報告されており、MHCに依存した配偶者選択が行なわれている可能性を示唆するWedekind らによる結果に反して、対立する結果も報告されています。

<参考文献>
MHC-dependent mate preferences in humans.
Proc Biol Sci.1995 Jun 22;260(1359):245-9.
マウスの織適合遺伝子による個体の臭い;蛋白核酸酵素 Vol. 27 No. 4 (1982)
Distinctive urinary odors governed by the major histocompatibility locus of the mouse.
Proc Natl Acad Sci U S A.1981 Sep;78(9):5817-20.
Body odour preferences in men and women: do they aim for specific MHC combinations or simply heterozygosity? Proc Biol Sci. 1997 Oct 22;264(1387):1471-9.

Paternally inherited HLA alleles are associated with women's choice of male odor.Nat Genet. 2002 Feb;30(2):175-9. Epub 2002 Jan 22.