これは92歳でも現役で「アンパンマン」描き続けていた、やなせたかし先生のお話です。

行軍したり、泥だらけになってはい回ったりするのは、一晩寝ればなんとかなる。


ところが、飢えはどうしても我慢できない。


食べられないというのは、ものすごくきついですよ。


飢えれば人肉だって食べようという気持ちになるんだから。

仕方がないんで、その辺の野草を煮て食べたりしたんです。

まずいのもあるんだけど、大体は酸っぱいんです。


内地に残っていた銃後の国民のほうがよほどつらい目を見ている。

たとえ、戦火に逢わなかったとしても飢えに苦しんでいる。

正義のための戦いなんてどこにもないのだ。

正義は或る日突然逆転する。

正義は信じがたい。

逆転しない正義とは献身と愛だ。




それも決して大げさなことではなく、眼の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えること。

自分はまったく傷つかないままで、正義を行うことは非常に難しい。

正しいことをする場合、必ず報いられるかというと、そんなことはなくて、逆に傷ついてしまうこともあるんです。

ぼくらも非常に弱い。


強い人間じゃない。


でも、なにかのときには、やっぱりやってしまう。


ヒーローというのは、そういうものだと思います。


困っている人、飢えている人に食べ物を差し出す行為は、立場が変わっても国が違っても「正しいこと」には変わりません。

絶対的な正義なのです。



なんのために生まれて何をして生きるのか?

これはアンパンマンのテーマソングであり、ぼくの人生のテーマソングである。

生きていることが大切なんです。

今日まで生きてこられたなら、少しくらいつらくても明日もまた生きられる。

そうやっているうちに次が開けてくるのです。

震災も永遠に続くことはありません。

アンパンマンは“世界最弱”のヒーロー。

ちょっと汚れたり、雨にぬれただけでも、ジャムおじさんに助けを求める。

でも、いざというときには、自分の顔をちぎって食べてもらう。

そして戦います。

それは私たちも同じ。

みんな弱いけれど、そうせずにはいられないときもあるのです。

アンパンマンのテーマソングは 「なんのために生まれて、  なんのために生きるのか」というのですが、 実はぼくはずいぶん長い間、自分がなんのために 生まれたのかよくわからなくて、闇夜の迷路をさまよっていました。

もっと若い時に世に出たかった。

ただし遅く出てきた人というのは、いきなりはダメにならない。

こんなことしてていいのかと思っていたことが、 今みんな役に立ってる。

無駄なことは一つもないですね。

ぼくら夫婦には子供がなかった。

妻は病床にアンパンマンのタオルを積みあげて、看護婦さんや見舞い客に配っていた。

アンパンマンがぼくらの子供だ。

人生の楽しみの中で最高のものは、やはり人を喜ばせることでしょう!