ミシガン出張記(2)-外国で日本について語ること
さて翌日は、講演会の本番。
とは言え、講演会は午後4時からだったので、それまではモンゴヴェンさんに大学の中を案内
してもらったり、別の会合に出たり、キャンパスをぶらぶらしたり・・・・・
一人で発表原稿を見直していたりすると、せっかくとれた緊張がまたぶり返したりするものだが、
こうして他にすることがいっぱいあったのもよかった。
さて、まずはミシガン州立大学のキャンパス、
もう、これは 巨大・・・・・!! という以外に表現のしようがない。
(写真などでは到底伝えられない・・・)
ちょうど境界線になって、
古い伝統的な建物が集まるOld Campusと、
モダンな建物が点在するNew Campusに
分かれているのだが、
ぐるっと外側を回るだけでも車で30分は
かかりそうだ。
モンゴヴェンさんが、「これが大学の一番の名物よ!」と
教えてくれたのが、コレ。
ミシガン州立大学は、農学校から始まって
いるのだが、その農学校特製のアイスクリ
ームである。
大学で作られているということで(教育・
研究の一環だから?)、一般に市販されて
いるものと違い、法律による脂肪分の規制
を受けないのだそうだ。
体重が心配ではあったが、当然好奇心の
方が勝ったので、私も食べてみた(^^;)。
大変おいしかった!
講演会が始まる前に出た会合は二つ。
一つは、モンゴヴェンさんの勤める同大学のバイオエシックスセンターの研究者たち
との顔合わせ。
30分ほどの短い時間であったが、同センターの所長であるトム・トムリンソンさんを
はじめとする生命倫理学者たちと話ができたのは有意義だった。
もう一つは、医学部の某講座(一応名は伏せる)で公募している教授ポストの候補者
が行う公開講演。
「公開」なので誰でも入れるのだが、会場は15人も入れば一杯になるような小さな
会議室で、基本的には選考委員の人たち(モンゴヴェンさんもその1人)が中心のよう。
この日講演をした候補者の専門は、私が講演で話すテーマとも関係があるということで、
「きっとあなたも興味をもつと思う」とモンゴヴェンさんが誘ってくれたため、期待して行った
のだが、講演ははっきり言って スカ。。。。
よくもこれだけ内容のない話(方法論も杜撰ならば、なんの結論もない・・・)を
これほど自信たっぷりにプレゼンできるものだ(!)、とあきれてしまった。
(ネイティブの人の英語だけ聴いていると、なんでも自信たっぷりに調子よくしゃべって
いるように聞こえる・・・)
まわりを見渡すと、選考委員のスタッフたちもみな顔をしかめている。。。
案の定、質問では歯に衣着せぬ辛辣な批判や疑問が相次ぎ、この候補者はこの職
にはありつけなかったようだ。
モンゴヴェンさんは、「あんなにひどいとは思わなかった。。。。論文は面白かったのに
・・・・・・・変なものに誘ってしまってごめんなさいね・・・」と謝っていたが、
それはそれで私には面白かった。
さて、その後は二時間ほどキャンパス内をブラブラしてから、講演会場へ。
(下左の写真の建物の中に入っているInternational Center)
このあたりで少し緊張してきたものの、
会の冒頭で私の紹介をしてくださるウィリアム・ロンド先生(アジア研究センター副所長)
に会って、心がなごむ。
ロンド先生の専門は日本史で、研究対象は高野山の歴史(8世紀~11世紀まで)。
博士論文も高野山の宿坊にこもって書き上げたとのことで、日本にも何度もいらしており、
日本語も上手。
(やはり、こちらが期待していない場面で急に日本語で話しかけられると、ふっと緊張が
解ける)
そのため、講演でもほとんど緊張することなく、ほぼ時間通り(50分弱)に自分の話を
終え、質疑応答も何とか無事にこなせた。
聴衆は10人ちょっとと少なかったが、東洋の歴史・宗教関係と哲学・心理学関係の
教員がほとんどで、たいへん「レベルの高い」人たちばかりであった。
はっきり言って、私の講演(日本における「スピリチュアリティ」概念と宗教的伝統)
はそう単純な話ではなく、きちんと理解してもらえるかどうかが少々不安だったので
はあるが、聴衆のレベルがたいへん高く、みな本当に集中して聴いてくれている
ということは話している間にも感じとれたので、とても話しやすかった。
ロンド先生や、同じく日本史(中世)が専門のシーガル先生(後述)と話したところでは、
私の話は、外国人からみたようなステレオタイプな日本の像をそのまま自画像にした
かのような日本人の自文化紹介(日本のことを知らない外国人にはウケる)とはまったく
違って、上記のような話にウンザリしているような、日本をよく知る外国人が、これまで
うまく整理できていなかった混乱した経験に対して、「なるほど、そういうことだったのか!」
とそれを理解する枠組みを与えてくれた、とのことだった。
そもそも、私の講演内容は、たしかに「日本での現象について」語っているのだが、
実は「日本について語る」あるいは「日本を紹介する」などというのが目的ではないのだ。
つまり、「スピリチュアリティ」という現在世界的に使われている概念が、日本でどのよう
な(西洋とは違った)ニュアンスをもって語られているか、それは日本のどのような伝統や
文化的背景と関係しているのか、を語ることで、この概念がそれぞれ異なった文化的な
背景のもとでは異なった意味や働きをもっていることを示すことにあるのだ。
さすがにこのことに気づいてくれた研究者たちもいて、「あなたの話を聞いて、アメリカの
研究者は、もっとアメリカの歴史と文化的背景のなかでこの概念がどのように形成されて
きたのかについて批判的に考察する必要を感じた」と言ってくれたのには、「よくぞそれが
わかってくれた」という思いがして嬉しかった。
少し話が専門的になりすぎたが、ご勘弁ください。
さて、講演終了後は、モンゴヴェンさん宅に戻り、この夜はお宅でのディナー。
ロンド先生はご親戚の不幸があり、アナーバーまで行かなければいけないということで、
来られないのを残念がっておられたが、
イーサン・シーガル先生と奥さんのミホさん(下の写真)、彼らの娘さんでモンゴヴェン家
のケルシーちゃんと同級生のナオミちゃんがディナーに来てくれた。
驚いたのは、このシーガル先生の日本語!
先のロンド先生や、ヴァージニア大学でお世話になっているグローナー先生(このブログにも
何度か登場)も日本語は上手だが、「日本に留学されていた時にはもっと上手だったのだろ
うな・・・」とこちらに感じさせるような、いわば「最近は使っていないので少し錆び付いている」
日本語である。
それに対して、このシーガル先生の日本語は、最初の「はじめまして」からしてまったく外国人
の発音や物腰と違う。日本で育った人なのではないか、とこちらが感じるぐらいナチュラルなの
である!
実際にはシーガル先生は早稲田大学に留学はしているものの、日本での在住期間は通算でも
4年ちょっと。
奥さんが日本人なので、家の中でも日本語を話されているということもあるのだろうが、
それにしても驚異的なうまさだった。(やはり語学は才能かな・・・・・)
ここまで日本語が上手だと、「日本語がお上手ですね」などとは失礼で、とても言えたものでは
ない。
ある本に、「ネイティヴの人から「英語が上手ですね」と褒められているようでは、まだ英語修業
の序の口の段階にすぎない」と書いてあるのを読んだことがあるが、
まさにその通り ですね。