ヘンテコ音楽人生(その4) | ヴァージニア日記 ~初体験オジサンの日常~

ヘンテコ音楽人生(その4)

さて、ヘンテコ音楽人生の続きです。

今日は、私が本当の意味で「音楽」に出会った高校時代について書きます。


高校に入ってから私の音楽との関わりはぐっと多面化し、かつ深くなった。


・1年生に入学してすぐ、吹奏楽部に入部し、ホルンを吹き始めた。


・2年生になると、吹奏楽部で 指揮 をするようになった。


ためである。


中学時代にオーケストラに興味を持ち出したということを前に書いたが、

進学したS高校に吹奏楽部(ブラバン)があるということを知った私は

何かの管楽器をそこでやってみよう、と思うようになった。


楽器の候補として頭にあったのは次の3つ。

クラリネットとオーボエとホルンである。

(TVでオーケストラを聞いていて、音色が好きだったし、格好よかったため)


とはいえ、楽器の選択に悩むということはなかった。

オーボエはS高校の吹奏楽部には奏者がおらず楽器もなかったということ、

クラリネットは女子生徒ばかりであった、ということもあるが、

ちょっとした偶然も手伝って、すぐに楽器はホルンに決まった。


中学の時に2年間同じクラスだったY君という友人がいたのだが、

このY君、中学時代は音楽部で、「リコーダーの虫」と呼ばれており、

休憩時間はもっぱら一人でリコーダーを練習しているという変わった奴だった。

(いわゆる、音楽の授業など吹かされるアルト・リコーダーである。

この原型はバロック時代の縦笛なので、バッハやヘンデルのフルートソナタ

などは、リコーダーで吹く人もいる)


同じS高校に進学したY君は、はじめから「吹奏楽部に入ってホルンを吹く」と

言っていた(ちょうど3年上にY君のお兄さんがおり、彼が在校時代に吹奏楽部

の指揮をしていた、という影響もあったのだろう)。

入学式の日、さっそくY君と一緒に吹奏楽部の部室を見学に行った私は、何かの

拍子に彼と同じ「ホルン志望」と勘違いされてしまったのだ。

まあ、もともと候補の一つではあったので、それでいいか、というわけで

私は早々に入部を決め、ホルンを練習し始めることになった。


ホルン

ご存じの方もいると思うが、このホルンという楽器、ブラスバンドはもとよりオーケストラでも

演奏するのが最も難しい楽器であると言われており、中学生や高校生の吹奏楽でまともに

吹きこなせている人はきわめて稀である。

(なぜ難しいかはいくつか理由があるのだが、文章で書くと長くなるので、ここでは省略する)


はじめてこの楽器に触れてから1年の間、

私は、ほとんど一日も欠かさずにホルンを猛練習 した。


朝は8時前に部室に行って始業時まで練習、昼は3時間目と4時間目の間の休憩時間に

いわゆる「早弁」をして、昼休憩のあいだ中、ずっと練習。

放課後は一目散に部室に行って練習、合奏などが終わった後も定時制の授業がはじまる

まで残って練習。

日曜日や、試験期間中、夏休みのコンクール終了後、といった部活のない日は、

楽器を家に持ち帰って、家で練習した。


私の場合、


・ピアノをやっていたので、楽譜を読むことには何の問題もなかった

・絶対音感もあったので、自分や他人が何の音を吹いているのかは、

 音を聴くだけでわかった

・中学時代から少しずつクラシックのオーケストラ曲を聴いていたりして、

 高校になるとますますそれにノメリ込んでいった


というような、楽器演奏の技術以外の利点というのもあったと思うが、

以上のような猛練習のかいもあって、1年経ったころには、

「始めてから1年しか経っていない、などとはとても思えない」という程度

には上達することができた。



私のその後の音楽生活にとって、ホルンを始めた、というのは、

単に「できる楽器が(ピアノ以外に)一つ増えた」という以上に

決定的なこと だった、と思う。


まず、ホルンを吹き始めたことで、これまでピアノ曲やピアノ協奏曲以外には

ほとんど聴いたことがなかったクラシック音楽の曲(特にオーケストラの曲)を、

片っ端から大量に聴き出したことである。


ちょうど1学年上(当時2年生)に、吹奏楽部の指揮をしていたTさんという

先輩がいたのだが、この人は私と小学校も中学校も同じであり、中学の時

はいっしょに委員会のメンバーなどもしていたので、高校に入る前からの

顔見知りであった。

このTさんがクラシックのレコードを聴きまくっており、彼の影響も大きかった

と思う。「お前、こんな曲も聴いたことないのか!」とバカにされるのが

いやで、とにかくあらゆる曲を聴きまくった。


実際、クラシック音楽というのはいろいろ聴き出していくと、

自分の知らないいい曲がこんなにもあるのか(!)、

ということに驚き、ますますハマッテいくものである。

(当時のレコードは今のCDよりも高く、高校生にはたくさん買うのは難しかった

ので、FM放送のクラシック番組などをこまめにカセットに録音したものだ)


また、同じクラシックのオーケストラ曲を聴く、といっても自分で楽器をやる人と

そうでない人とでは、やはり「聴き方」が違ってくる。

私の場合、ホルンという楽器をやっていた、というのはかなり大きかったと思う。

ホルンはオーケストラやブラスバンドの中で、高音・中音・低音ということで言うと

「中音」(真ん中あたりの音域)を担当する楽器である。

しかも、たまにソロとかはあるものの、大抵は(高音部に現れることが多い)主旋律

ではなく、それと対になって音楽を立体化する対旋律や、和音の一部などを吹いて

いることが多い。


そうすると、いろんな楽器が同時に鳴っている中で「ホルンがその時、何を吹いている

か」ということを耳で探り当てながら聴いていく、という習慣がついてくる。

そうすると、一般には旋律に埋もれてしまいがちな、目立たない音を聞き分ける能力

もついてくるし、そういう目立たない音が実はその音楽の中でどれほど大切な働きを

しているか、ということもだんだんわかってくるのである。


しかし、そうやって、たとえばレコードでオーケストラの曲を聴きながら、耳でホルンの音を

とらえようとしても、どうしてもできない、という場合がある。。。


そういう時はどうするか?


その曲のスコア(総譜)を見てみるのである。


そうすると、ホルンが実際にどのような音を吹いているか、それが全体にどのような

音響的効果を生み出しているか、作曲家というものがいかにうまく個々の楽器の

音色を使い分けているか、などということがだんだんわかってくるのだ。


こうして、私は、


1、指揮 をしてみたい、と思うようになる。


2、小学校時代に一度まね事をしてみた作曲を、もう一度ちゃんとやってみたい、

  と思うようになる。


3、ピアノを弾く際にも、今まで旋律にばかり気をとられて十分に注意していなかった

  中音部の動きや、和音の際のそれぞれの音のバランスに注意が向くようになり、

  音楽(曲)を表現するということがどういうことか、ということに気がつき出す。


というようになっていった。


つまり、ホルンを吹くようになることで、

音楽というものがどのように作られていて、どのようにしたらそれがきちんと表現

できるのか、という(少なくともクラシック)音楽の面白さの根本にあることがら

に目覚めることができたのである。


幸運にも、高校2年生になると、指揮も作曲もする機会が与えられた。

(続きは次回)