ミーハー学者
この私 のことである。
写真の女性は、メアリー・ローチ(Mary Roach)さん。
2003年に書いた、"Stiff(死体)"(日本語訳は『死体はみんな生きている』NHK出版)
という本がベストセラーになって注目された、カリフォルニア在住の科学ジャーナリストである。
(日本でいえば、『絶対音感』で有名になった最相葉月さんのような存在、といえば
一番近いだろうか・・・)
この本は、アメリカで人間の死体というものがどのように利用されているかについて、
さまざまな現場に乗り込んでレポートしたもの。
つまり、これまでは普通の人の目にはふれることがなかった(半ばタブー視されていた)
ような現場に自ら踏み込んでいったのである。彼女が女性であるという理由で取材や
立ち入りを拒否されたり(but なんとか粘ってそこを突破!)したこともしばしばで、
彼女が「その現場に入った初めての女性」というケースも多かったらしい。
今日は、水曜日恒例のMedical Center Hourに、そのローチさんがやってきて、
インタビューが行われた(ヴァージニア・ブック・フェスティバルとの共同企画)。
やはり、「ベストセラーの著者(おまけにきれいな女性)」という威力はすごいものだ。
こんなに会場が満員なのは、ついぞ見たことがない。。。
インタビュー開始前から、壇上の彼女のもとには、本(上左)を持ってサインをもらいに
行く人があとを絶たない。
ちなみに、インタビュアーであったマーシャ・デイ・チルドレス(私のボスのチルドレス先生の
奥さん)が会場の聴衆に「みなさんのなかで、『Stiff』を読んだ人は?」と尋ねたところ、
(私を含めて)5分の4ぐらいの人が手を挙げた。
インタビュー終了後にいたってはもう、サインを求める人たちの長蛇の列 である。。。
しかし、ローチさんがサインする時に一番喜んだのは、この私 の時である。
私が一番男前だった・・・・・・・からではない。
私が持っていたのが、英語の原書ではなく、日本語の訳書(上右)だったからである。
「あなたの本の日本語訳です!」「私は日本からUVAに客員研究員として来ているところです」
「ワオーーッ!! ワンダフル!!」「いい翻訳でしたか?」
「ええ、とっても!」「すっごく面白かったです!」
「今日はあなたに会えてすっごく嬉しい!」
本当に嬉しそうにサインしてくれました。
この本の訳書が出たのは一昨年(2005年)。
出てすぐに本屋で目にして購入、あまりに面白かったので一気に読んでしまった
のを覚えている。
(ご興味をお持ちの方はぜひ読んでみられることをオススメします!)
もちろん、この本をわざわざアメリカまで持ってきたのには、わけがある。
この本に書かれている、アメリカでの死体のさまざまな利用法を読んで、
文字通りビックリしてしまったのだ。
その中には、日本では到底受け入れられないであろうような(遺族が了解
しないであろうような)ものがかなりあったからである。
たとえば、自動車の衝突実験において、たとえば助手席にこういう体格の人が
こういう角度で座っていた場合に、こういう角度からこういうスピードで車が衝突
した場合、身体のどの部分にどのような怪我を負うか、というようなことをダミー
人形ではなく、実際の死体を使ってやってみる、といったようなことだ。
かねてから日本では、臓器移植についての国民感情の違いにおける一つの
要素として、「遺体観」とでも言うべきもの、つまり、たとえ死体であれ、それを
傷つけたり、その一部を取り去ったりすることに対する感情が文化によって異なる、
ということが指摘されてきた。
それはたとえば、
・飛行機事故などで遺体がバラバラになった際、日本人の遺族の多くは、
単にその人が亡くなったという確認だけでは満足せず、遺体のすべての
部分がそろうことを重視し、現場を探し回ったりする。
・戦争中に海外で戦死した日本兵についても、遺骨を日本に持ち帰って
供養するということに、(何十年後の今になっても)こだわり続けている。
・墓参りの際も、食べ物やお酒など(特に故人の好物だったもの)を供える、
など、先祖や故人が単なる「霊的な存在」ではなく、ある種の肉体をもった
存在であるかのようにイメージしているフシがある。
といったような現象が、西洋人にはほとんど見られないことに表れている。
というわけで、こちらで臓器移植の文化比較などの話になったときに
備えて、私はこの本をアメリカに持ってきていたのであった。
ラッキー!!
もっとも、
今日、ローチさんのインタビューを 聞いていて改めて感じたことがいくつかあるのだが、
それを書くとちょっと長くなりそうなので、続きは明日にでも。