ABS について。(一般の人向け)
通常のブレーキではなく、『急ブレーキ、フルブレーキの時』 に、どういうブレーキ操作をすればいいか解説します。
まあ、答は簡単ですけどね。ペダルを思いっきり踏み込みましょう。ABS が作動して『ガガガガガ』とか『ブブブブブ』とか聞こえますね。それがABS の作動音です。足に振動も感じるでしょう。そして、このとき更にもっと強くペダルを踏み込みましょう。そうすれば、「その車の持っている最大の制動力」 を発揮できます。これが正しいABS の使い方です。が、ほとんどの人が知りません。あるいは間違って覚えています。
ネットでも何でも、ちょっと知識を得た人が 『ABS は制動距離が長くなる。ABS は無い方が短い距離で止まれる』 と言いますが、普通は逆です。ABS の方が短く止まれます。
http://www.youtube.com/watch?v=nORxcIGpAF8&feature=related
↑かなり古いABS でもこの効果です。
自動車メーカー(三菱)のサイトを見てみましょう。
グラフがあります↓
http://www.mitsubishi-motors.co.jp/special/safety/01_safety/abs/abs03.html
砂利道だけABS が負けてますが、それ以外のグラフはABS の勝ち。これが事実です。
誤解が広まってしまったのは、ABS 登場の頃からメーカーの説明が変わっていないのも原因だと思います。上にリンクした三菱のサイトでも、説明が 『スピードや路面状況によっては・・・・・制動距離が伸びることがあります』 に始まって、終始その状況の説明です。大半の条件下でABS の方が優秀なのですから、まずはしっかりとそれを伝えるべきでしょう。
実際ABS の性能はかなりの物で、10年以上前から0.1秒以下の制御は当たり前です。新型は0.02秒の世界です(機械的な作動も0.05秒レベルで可能)。人間にはこんな動きは無理ですね。
しかも4輪それぞれにコントロールします。ドライバーがどれだけ素早く足を動かせる人間だったとしても、ペダル1本では、構造上4輪を個別に操作できません。なので、どうやってもABS には勝てないんです。
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雪道の運転では、ABS が作動すると全然止まらないという感想を持つ人がいるようです。でも、逆なんですね。ABS が作動したから滑ったのではなく、滑ったから作動したんです。現代のABS でも全然止まらないと感じるような路面に遭遇したというだけなんです。ABS のおかげでハンドル操作が出来ただけマシだったと考えてください。むしろABS に助けられているんです。
それからもうひとつ、ABS 作動と同時にブレーキペダルを緩めてしまう人も多いようです。特に雪道に慣れたドライバーほどその傾向。ABS が作動した瞬間、タイヤがロック(回転の停止)するほどペダルを踏み込んでいると感じ、反射的に “体に染みついたABS 無しのテクニック” を発動します。しかし、ブレーキを緩めてしまえば制動距離が伸びるのは当たり前。悪いのは操作です。ABS 無しの運転技術(それはそれで立派ですが)はABS には通用しないと認識する必要があります。こういうベテランドライバーは、ABS に合わせた運転・操作に慣れるしかありません。機械が変われば操作法は変わります。
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ご存知のように、通常、タイヤはロックすると制御を失い滑るのみです。
この摩擦係数のグラフが示す通り、タイヤというのは、回転を保ちつつ 「10~20%ほど滑っている」 時に最も摩擦が大きくなります。タイヤ1回転で本来なら2m 進むはずのところ、2.2m 進むような時ですね。歩行者から見たら、滑っているようには見えません。そのくらい微妙です。ABS というのはこの最大摩擦係数を発生する領域のスリップ率を維持しようとする(=それ以上右側の領域へ行かないようにする)装置であり、ABS 作動で制動距離が延びるという解釈は矛盾します。
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自動車レースの世界でも、レギュレーションによってABS が禁止されていなければ、大半のチームはABS を使います。よほどの理由がない限り、使わなきゃ損ですからね。プロのレーサーですらABS には及ばないというのが現実です。
さて、最初に書いたように、フルブレーキ時は 『ABS 作動後も更に強くペダルを踏み込むこと』 で最大のブレーキ力を発揮できます。更に強くというのは、"4輪とも" ABS 作動状態(=最大の摩擦領域のスリップ率)にするためです。最初の1輪でABS が作動した瞬間の踏み込みは、4輪ともABS 作動状態にするにはまだ弱い(=残る3輪はまだ最大摩擦領域の左側にある)という事です。多くのドライバーは、ABS 作動の瞬間、すなわち1輪だけABS が作動した時にブレーキ踏み込みをやめてしまいますが、他の3輪の最大摩擦を使い切っていません。全てのタイヤの能力を最大限活かすべく、どんどん踏み込みましょう。(踏み込みを緩めるのは論外、キープでも駄目、踏み込みを更に強めて残るタイヤも全て最大摩擦で使う)
ABS は、人がペダルを踏み込んだその力から、余計な力を捨てながら調整する装置です。足りない力を加えてはくれません。なので、人が踏み込みを緩めてしまえば、ABS は作動しません。
初心者ドライバーが何も考えずひたすらブレーキをぎゅうぎゅう踏みつける・・・これが、ABS 時代の最も上手な 『フルブレーキ』 です。
ヾ(*'-'*) では、安全運転を。
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(追記) しばらく前に「ブレーキアシスト」という名称の新たな装置が開発され、各メーカーから様々なタイプが登場。瞬く間に広まったかと思えば、気づいた時には国に義務化されていました。全車です。
この装置はABS とは別の物です。ブレーキアシストの登場で、もう、踏み込みが弱くても「足りない力を加えてくれる」ようになりました。要するに、この記事の「更に踏み込む」の部分を機械がやってくれるわけですね。おかげで、条件付きではありますが、キープでもOK になりました。機械が「ドライバーはフルブレーキを望んでいる」と一旦判定したら、ドライバーが "踏み込みを緩めない限り" 最大の制動力になります。
が、この判定が曲者なんですね。
フルブレーキには足りないような弱い力でブレーキペダルが踏み込まれた時、それが意味するのは1 と2 のどちらなのか。
1. ドライバーは緩くブレーキをかけたいと思っている
2. ドライバーはフルブレーキをかけたいと思っている(が、踏力が足りていない)
これを機械は間違いなく判断できるのでしょうか。
残念ながら出来ていません。簡単に間違います。ドライバーはただ速度を落としたかっただけなのに、道路の真ん中で突然のフルブレーキ!・・・なんて事が、実際に起きています。これが今どきの、ブレーキアシスト搭載車です。
判定の方法はメーカーによるのでしょうが、基本は単純で、「アクセルペダルからブレーキペダルに踏みかえる空白時間が基準値より短い」だとか「ブレーキペダルを踏み込む最初のスピードが基準値より速い(例えば最初の何cm かをどれだけ素早く押し下げたか)」だとか、要するに「作り手の考える一般的な急ブレーキ、フルブレーキ」に当てはまれば作動するようにしてあります。よって、メーカーの想定に当てはまらない一定数のドライバーは正しく判定してもらえず、誤動作が起きやすいという事になります。つまり、突然のフルブレーキがいつ起きるかわからない車という事です。
もともと「ブレーキアシスト」は、ズバリ言ってしまえば運転の下手なドライバー(=最大の制動力が欲しい時にさえ十分な力でブレーキを踏めないドライバー)のための装置なので、その基準も、当然ながらそちら寄りなわけです(そうでなければ、本当に必要とするドライバーの運転中に発動しない無意味な装置になってしまう)。ですが、これは同時に、運転の上手なドライバー(ペダルの踏み替え空白時間の短いような、あるいは適切な位置まで素早くペダルを踏み込めるようなドライバー)になればなるほど誤判定を受ける、運転の邪魔ばかりする装置でもあります。危険と言ってもいいでしょう。少なくとも現状ではそうなっています。
スポーツカーにまで標準装備されているのは悲劇ですが、国がそこまで考えていないのは予想通りだとして、メーカーも従うしかなかったのでしょうか。的確で無駄のない素早いペダル操作をするドライバーは、意図的に「のらりくらり」と運転しない限りブレーキアシストが発動しますw これではスポーツカーを買う意味がありません。いや、笑えないんですけどね。
残念。