あの日、私は一目惚れを一瞬の出来事として片付けた。
出逢うべくして出逢ったのか、2人の運命は交差し始めた。
始まりは27歳の夏だった。
もしかしたら、もっと前から交差していたのかもしれない。
あの日、当時付き合っていた彼氏と仲間たちで毎月恒例のBBQをやっていた。
そこへ彼氏が中学の同級生を呼んでいた。
その人は奥さんと一緒に参加していた。
私は彼氏の同級生を知っていた。
私の同級生の兄だったから。
顔も似ていて直ぐに分かった。
彼氏が居たにも関わらず、私はその人にキュンとしてしまった。
でも奥さんがいる、彼氏がいるという思いで抑えて一瞬の気持ちとして心にしまっておくことにした。
その日から2年後の夏、精神的に壊れゆく私に耐えきれず、別れることとなった。
その1年後、マッチングアプリを始めた。
相手の容姿を条件にしていた私が、何の写真も登録されていない人にいいねをつけて、やりとりが始まった。
2度程写真を貰ったけどそれが同級生の兄で、元カレの同級生とは気がつかなった。
でも優しそうな雰囲気や目元、芯がありそうな感じも見た目も凄くタイプの人で、やりとりをするに連れて惹かれていった。
アプリから直接LINEのやりとりに代わって、呼び名を聞いたとき、登録していた名前と違う名前を教えてくれた。
それでも私は気付かなかった。
7月27日の夜会うことになった。
「泊まって行く?」と冗談半分で言ってみたところ会ったその日に判断しようということになった。
その日、私のアパートの近くまで車に迎えに来てくれた。
その車まで向かって直接顔を見た時、色んなことが繋がった。
教えてもらった呼び名は、下の名前ではなく苗字だった。
もらった写真も確かに3年前に会った同級生の兄だった。
お店に着き、色々とお互いのことを話した。
何の仕事してるかとか、仕事で何があるとか、出身校とか。
出身中学を聞かれた時、その人の顔色が分かりやすく変わった。
私はすぐに
「通ってた?」と聞いた。
彼は動揺しながら頷いた。
私は過去に会ったことがあると伝え、その時に何の話をしたのかも伝えた。
彼は私と会ったことも話したことも覚えていなかった。
それでも私はあの時心にしまった一瞬の気持ちがこんなところで再燃した嬉しさもあり、お酒も食事もあまり喉を通らなかった。
話も盛り上がり、お互いの出身中学にいた先生の話を話しながらお店を出ることにした。
「本当にお邪魔してもいいの?」と気に掛けてくれながらも、彼をちゃっかり部屋に招くこととなり改めて部屋で飲むことにした。
シャワーを浴びてから改めて飲み始め、お互いに過去の話をし合いながら飲んでいた。
夜も更けて日付けも変わり、そろそろ寝ようと彼とベッドで並んで寝ることにした。
「彼はごめんね。狭くなっちゃうね。」と言いながら隣で横になっていた。
そこからはお互いに徐々に近寄っていった。
私の髪や頭に優しく触れる彼の手や優しいキスが気持ち良くて幸せを感じていた。
彼と流れに身を任せた。
行為が終わると彼は
「これからだね。」と囁いた。
朝起きると、彼は私を呼び捨てにした。
この瞬間は今でも忘れられない程の大切なの記憶。
7月28日、あの日出逢って交じり始めた私たちの関係がより深く交じり始めた。
私は初恋が実ったような至福を感じ、仕事中も顔がニヤけて集中できない状態が数週間程続いていた。
ただ私は、彼の『これからだね』という言葉の真相がはっきり分かっておらず、付き合っているかどうかは期待しないでおこうとしていた。
アプリの出逢いから1週間後、隣県にドライブを兼ねてランチに出掛けた。
その道中、彼とアプリのいいねの話となった。
「男はあんまりいいね来ないよ。」と言うので、
「そうなの?そんなものなの?」と聞くと、
「いいねが来ても困るでしょ?」と言われた。
私はイマイチ理解できず
「え?」と聞き返すと
「そういうことやで。」と言って頭を撫でてきた。
そこでようやく私は、あの時の『これからだね』という言葉の意味が理解できた。
この日、ようやく私は彼の下の名前を聞いた。
「今更なこと聞いていい?下の名前何?」
彼は言ったつもりでいたようだった。
ランチの後ドライブをしてホテルへ行って、覚えたての彼の名前を呼んだ。
それからは彼を名前で呼んでいる。
その後もかき氷カフェへ行ったり、まったりお家デートをしたり、居酒屋へ行ったりしている。
私が体調を崩して午後から休みをもらった日、少し心細くて彼にLINEをしたら、彼も体調を崩して休んでいた。
翌日、休むにも家に居ると親に心配かけるからうちへ来てもいいかと連絡が入っていた。
その日は私も調子が良くなく、欠勤か出勤か迷っていたこともあり、喜んで欠勤を選択した。
上司へ連絡し、週末だからゆっくりしなさいと言われ有り難くお休みを彼と過ごした。
2人とも精神的なところから体調を崩していた。
仕事を休んだ午後、2人で出掛けた。
土曜から彼は仕事に行った。
月曜日になり、彼の調子が気になった私は彼にLINEをした。
返事はなく、夜に彼から電話が入った。
初めての彼との電話だった。
「初めてじゃない?出てくれるかなって思いながらかけた。」って言っていた。
いつもなら、お風呂に入っている時間だったけど、前髪が気になって少し切り揃えていたので時間がズレて電話に出られた。
お風呂に入っていたら、初めての電話の機会を逃すところだった。
彼からの電話というだけで、私は嬉しかった。
その日の夜は落ち着いて眠れた。
ただ、まだ精神的には安定していなかったようで、翌々日から落ちていきつつあった。
夜になると寂しくなって涙が出てきた。
『今は大変な時期だと思うから、落ち着いたらデートしてくださいな』と彼にLINEを送った。
すると彼は
『頻繁に連絡できなくてごめんね』と返してくれた。
忙しい彼に甘えてしまう私がいけないのに。
1日1通のLINEでやり取りが続いている。
たった1通のLINEで私は幸せになれる。
気に掛けてくれて、時間を作ろうとしてくれて、こんなに幸せなことがあるだろうか。
過去を振り返ってみても、私には過去最高のような気がしてならない。
この先どんな未来があるか分からないけれど、このまま2人で歩を進めていけたらいいな。