ネット社会が発展するにつれて、今までは表出しにくかった病気が明らかになっています。代表的なのがいわゆる「ネトウヨ」です。近年、ネット以外の場では表現できなかった異常な言動をネットで行う人たちが増えています。当初はただのストレス発散と見られていましたが、ネット上で形成した人格がネット外での人格にまで影響を及ぼす事例も増えており最近では「ネトウヨ」は精神病の一種であるとの考えが主流を占めつつあります。
今回は、この「ネトウヨ」を精神病として捉え適切な治療の必要性を訴えている全国ネトウヨ患者社会復帰支援協会(全ネ協)会長の醒寺魔拳先生に「ネトウヨ」について伺ってみたいと思います。


-醒寺先生、よろしくお願いします。

よろしくお願いします。


-まず、ネトウヨとは何でしょうか?

元は「ネット右翼」の省略形として表現されたスラングですが、現在ではいくつかの精神障害を包含する症状名のひとつとして使用されています。「ネット右翼」とはインターネット上で右翼的な言動を行う人たちのことを指していましたが、研究が進むにつれて本来の右翼とは全く違うことが明らかになったため、最近では「右翼」と混同しないように「ネトウヨ」と呼ぶことが増えています。


-正式名称は?

自己愛性人格障害とも言われますが、確立した正式名称はまだ存在しません。南京事件や従軍慰安婦を捏造と決め付け極端な排外的言動をとるようなごく狭い症状のみを指して「ネトウヨ」とすることもありますが、私たちはより広い症状を包含すべきと考えています。

-どのような症状が?

特徴的な症状としては、相対的強者との自己同一化、相対的弱者に対する攻撃衝動、自我分化障害などですね。
「相対的強者との自己同一化」とは、一言で言えば「寄らば大樹の陰」です。自身のおかれている環境で最も強いと考えている対象におもねることで、自分と強者の同一化をはかります。これは防衛本能としては普通に見られますが、健常人であれば一般常識というかモラルがその強者に対して倫理性を求めます。例えば、自国政府に対してある程度の信頼感、いきなり市民を虐殺したりはしないだろう、という程度の信頼感を持っているのは普通のことですよね。


-もちろん、今の日本政府が突然虐殺を行うとはさすがに思えません。

ですが、日本政府が国民の不利益になることを意図的に放置・隠蔽している可能性などはありますよね。昔で言えば、公害問題とか、今なら核密約とか。健常人なら自国政府を信じつつも、政府が倫理性を欠いた行動をしないように監視し、その徴候を見つけたら批判したりします。


-なるほど当然のことと思えますが、「ネトウヨ」は違うのでしょうか?

はい。今の例で言うと、「ネトウヨ」患者は自国政府と強く同一化しすぎるため、自国政府への批判が自身への人格非難と受け取るのです。もちろん同一化する対象は自国政府とは限りません。自民党であったり、自衛隊であったり、極右政党であったりすることが多いようですが。今後は民主党と同一化する「ネトウヨ」患者も増えるのではないかと考えてます。


-同一化が強すぎるのが問題ということですか?

そうです。自己に対する批判ではなく、同一化対象に対する批判なのに、それを冷静に受け取ることが出来なくなります。このため、批判内容を捏造だと決め付けたり、批判する人を敵対者とみなして敵味方の枠組みを作りたがるのです。


-「反日」とか「自虐史観」とか?

それらは典型的な症状ですね。


-相対的弱者に対する攻撃衝動とは?

相対的強者との自己同一化に深く関連するのですが、「ネトウヨ」患者は強者とみなした相手と同一化したいと強く望みますが、実際には別個の存在に過ぎません。同一化していることを実感するためには、敵味方という枠が必要なんです。
例えば、自国政府と自分は味方同士、政府批判者や諸外国は敵、といった枠です。こういった対立構造を強調することによってより強い同一化の実感が得られるわけです。これが同一化対象と対立する相対的弱者に対する激しい攻撃衝動の原因となります。


-相対的弱者に同一化するということは?

それはありません。「ネトウヨ」患者は単純な同一化ではなく、強者と同一化し勝利のおこぼれを得たいんです。

-なるほど、そのため「ネトウヨ」患者は、外国人や人権団体、反戦団体を差別・中傷するのですね。
面白いのは、外国人差別と言っても、中国人・朝鮮人に対する差別が多く、欧米人には差別しない傾向が強いんです。これは中国人・朝鮮人対日本人・欧米人という擬似的対立を構築して、少しでも自分の陣営の方が強力であってほしいという願望によるものです。


-自我分化障害については?

これまで、「ネトウヨ」患者は強者と同一化し弱者を排斥する傾向があると言ってきましたが、実際の世の中では強弱関係は固定していないことも多いですよね。例えば、自民党は一時期を除いてほぼ半世紀政権政党でしたが、去年民主党に政権交代してしまいました。民主党政権でも問題は多いですが、自民党の低迷状況を見ると1年や2年で自民党政権が復活することはないでしょう。
単純に自己の精神安定を目的として同一化をはかるなら、自民党から民主党へ鞍替えした方が良いんです。ネット上なら過去の意見との連続性などほとんど求められませんし、ハンドルを変えれば済む話です。でも、それが出来ない。


-それが自我分化障害?

はい。同一化が強すぎて、切り離すことが出来ないんです。他にも南京事件に対する態度などが例として挙げられますね。調べれば調べるほど南京事件の否定などは出来ないにも関わらず、一度否定派に与してしまうと容易に態度を改められない。
その意味では「ネトウヨ」患者は純粋と言えますが、最近では別の傾向もあります。同じく南京事件を例とすると、様々な証拠からもう南京事件は否定できないとなると、南京事件での論争を避け、中国人は信用できないなどと言った主張から南京事件の否定を暗示するようになります。
この場合、相対的強者との自己同一化や相対的弱者に対する攻撃衝動については治っていません。相対的な強者・弱者の選択が巧みになり、自己への批判回避欲求の面で悪化しているとさえ言えます。自分に都合の悪い対象は容易に切り離すという点では自我分化障害は改善しているとも言えますが、別の指摘では自我そのものが劣化しているに過ぎないとも言われています。
具体的には、自衛隊や軍事などに自己同一化している患者たちが、「ネトウヨ」症状の色濃く見られる論文を発表した田母神氏を切り離した事例が知られています。


-その人たちも「ネトウヨ」患者ですか?

俗に「自称中立」と呼ばれ、狭義の「ネトウヨ」定義からは外れますが、広義では「ネトウヨ」に含めてよいと思います。他の「ネトウヨ」患者を否定しているからと言って、「ネトウヨ」に罹患していない証拠にはなりません。現に「ネトウヨ」患者自身は自分のことを「ネトウヨ」と呼ばれることを非常に嫌う傾向があり、「自称中立」患者にも同様の傾向が見られます。


-「ネトウヨ」を治すことは可能ですか?

現在の医療技術では完治は難しいですね。「ネトウヨ」についてはまだメカニズムの研究が始まったばかりです。完治した事例もありますが、「ネトウヨ」から「自称中立」に変質している事例も少なくありません。
ただ、完治させるには相対的強者との自己同一化、相対的弱者に対する攻撃衝動、自我分化障害の三つの症状をバランスよく改善させていくことが必要とは言われています。自我分化障害のみ改善させると「自称中立」になり、完治はより困難になるとも報告されています。


-これからの研究が大切だということですね。ありがとうございました。

ありがとうございました。


カプラン臨床精神医学テキストDSM‐IV‐TR診断基準の臨床への展開
公定患者数19,950人