去年の春くらいに

彼と本気で別れて

別の人と一緒にいようと決めたことがあった。

その時、はじめて彼に自分から

「もう別れる、Tくんのほうをわたしは選ぶ」

と言った。


彼は、そういう状況になると

「それでもいいから、俺とも一緒にいてほしい」

「もう離婚するから一緒にいてほしい」

と言い出して

結局、わたしはその言葉に期待してしまって

Tくんと付き合うことをやめてしまった。


だけど、わたしはずるいので

「わたしの気持ちが整理できるまで待って」と言った。

(Tくんにはわたしが不倫していたことや彼を忘れられないことを話していた)

Tくんが、「待ってるから」と言ってくれたのをいいことに

Tくんともまた会うようになった。


「離婚する」と言ったのに、

わたしが彼のところに戻ってくるとわかったとたん

「手続きはおいおいするから…」と言い出した彼に

やっぱり裏切られたという思いと不信感でいっぱいだったから。


Tくんといたときは、安心感でいっぱいで

居心地がよかった。

ほんとにこのまま彼のことなんか捨てて

Tくんと結婚しようと思った。

Tくんも結婚しようと言ってくれたから。

一緒に部屋を探したりして本当に楽しかった。


だけど、やっぱりわたしは彼が忘れられなくて

彼との約束はほかの何よりも優先事項だった。

彼と会えない時間を埋めるために

Tくんに会っていたと言われても仕方なかった。


その後、わたしは彼の子供を妊娠した。

産みたかった。

Tくんの子供じゃなくてよかった、と思った。思ってしまった。

でも、彼は堕ろせ、と言った。


Tくんにも妊娠したことは言った。

ほんとのことを言おうと思った。

本当のことを言うより前に

Tくんがすごくうれしそうな顔をした。

・・・言い出せなかった。

わたしは、今は産んで育てる自信がない、と言った。

Tくんとも、このまま一緒にいていいかわからない

結婚したいのかも、今はわからない、と言った。

本当にわたしは混乱していた。


Tくんは、わたしの気持ちがわからない、と言って泣いた。

わたしはこの人を泣かせるのは2回目だ、と思った。

彼のことがあきられめられない、とTくんに言ったとき

「離れたくない」と言ってTくんは泣いた。

わたしは、自分が、

せっかく自分のことを好きだと言ってくれている人を

傷つけていることを、とても後悔した。


結局、わたしは中絶した。

お金は彼に出してもらった。術後のお迎えも彼に来てもらった。

Tくんにうそはつけないから。

自分にもうそはつけないから。


手術から2日後、

Tくんと一緒に近くの神社に行った。

ごめんね、と一緒にお祈りした。

Tくんは、「次は産もうね」とやさしく言ってくれた。

わたしはほんとにうれしいな、と思ったけど

子供はやっぱり彼の子供がほしいと思った。


Tくんは、一緒に日常を過ごすには

本当に最適な相手だった。

わたしとTくんは、生まれた日が6日違いで血液型も一緒。

感覚も似ていたから

最初からお互いすごく居心地がよかった。

ドキドキしたりはあまりないけど

そんな雰囲気を作るのはとても照れくさいくらい

最初から落ち着いた関係だった。



Tくんと歩いていた時に、

子供をだっこした彼にばったり出くわした。

わたしはTくんをおいて彼の後をおった。


ショックのあまり、わたしはTくんにひどいことをたくさん言った。

Tくんをたくさん、たくさん傷つけてしまった。


それがわかったから

わたしももう連絡をしなかった。

さみしかった。


しばらくたって、

精神的に本当にどん底だったわたしは

思わず、Tくんに連絡してしまった。

Tくんは、その後の私の様子を聞いて心配してくれたのか

「いつでも、電話してきていいよ」

と、言ってくれた。


わたしは、またそれにどっぷり甘えてしまった。


一度、Tくんとドライブに行った。

気分が沈んで仕方ないから、気晴らしがしたい、と言ったら

付き合ってくれた。

そのあとも、一度会ったけど

わたしはまたも彼とのいざこざ中で、精神的に参っていた。


わたしはTくんに甘えきっていたから

女友達に話すように、彼とのいざこざの話をしてしまった。

Tくんがどう思うかは、想像できたけれど

許してくれると、思ってしまっていた。


Tくんと話すと

本当に気持ちが落ち着いた。

「どうにかなるさ」という気持ちになった。

Tくんと一緒に眠っていた頃は

夜、眠れなくなることはなかった。


また、Tくんと一緒にいられる日が来たらいいな

そう思っていた。

Tくんは、一度決めたらそうするから

わたしと関係を戻すことはない、って言っていたけれど

いつか、時間が解決してくれないかな、と

甘ったれていた。

そうしたら、本当に彼と別れられると思った。


きっと、Tくんは

いつまでもわたしの気晴らしの相手として都合よく使われてる、と

感じたのかもしれない。

そう思ってほしくなくて

「Tくんと一緒に行きたいから、またどこかへ行こう」と言ったけれど

もう、「うん」と言ってくれることはなかった。



昨日、ひさしぶりに夜の街をたくさん歩いた。

家の周りもたくさん歩いた。

Tくんともそうやって、たくさん歩いた。

いろんなことを話しながらたくさん歩いた。

Tくんに会いたかった。

電話でまた、「どこかに行こうよ、夏休みだよ」と言ってしまった。

「もう、○○とは行かないよ」とTくんは言った。

そっか、と思って

いつもみたいに今日の出来事を話して電話を切った。


30分くらいしてTくんからメールが来た。

「今、付き合ってる人がいるから○○とはもう遊びに行けないよ。ごめんね」


悲しかった。

悲しいなんて、わたしが思ってはいけないのもよくわかってる。

もう、全然連絡もできず、会えずだけど、まだ彼との関係も完全に切れていない今

Tくんと一緒にいたいと言うのも間違ってる。

わたしが間違ってるのもわかってる。


だけど、

この1年半くらいはずっと

Tくんの存在があったから、わたしは前みたいに

さびしくて死んでしまいそうな気持ちにならないですんでいたんだ。

だけど、それはTくんにとってはすごく嫌な気持ちの日々だったかもしれない。


Tくんに彼女ができたことは

嘘か本当かわからない。

もう、わたしとは一緒にいられないし、関係を戻す気はないっていうことを

彼なりに言ってくれただけかもしれない。

そうであったらいいな、とも思う。

まだまだ、期待を捨てられない、馬鹿なわたしだから。



気晴らしなんかじゃない


彼とも会いながら

それでも

Tくんといたのは

さみしさを埋めたかったからじゃない

さみさを埋めるためにだれでもよかったわけじゃない


Tくんと一緒にいる時間が楽しかったから。

一緒に、未来の話ができる相手の存在が幸せだったから。

幻みたいな未来じゃなくて

すぐそこにある未来。

そこにあったのに

壊したのはわたしだ。


もう、たぶん電話もできない。

しちゃいけないと思う。


わたしはいつも

失くさないとわからない。