梅雨の終わり、夏の始まり。
けたたましい夏の虫の声もまだなく、太陽が土壌に溜まった水分をじりじりと蒸発させる、蒸し風呂の様に湿度の高いある晴れた日の事である。
私は書斎の空調の効いた人工的な静寂の中、窓から外を見ていた。そのはずだったが、それと同時に私は蒸せかえる熱帯雨林の様な庭にいたとも言える。
「あなた、そんなところで何してるの」
今まで書斎にいたはずの私が、忽然と現れたことに驚いた様子で居間からこちらを見ている妻がいた。
私の思考はしっかりしていたが、言葉が出てこなかった。
「いや、なんだろうね」
またその時、私は庭に呆然と立ち尽くす妻の姿を居間から見ていたとも言えるのだった。
けたたましい夏の虫の声もまだなく、太陽が土壌に溜まった水分をじりじりと蒸発させ、蒸し風呂の様に湿度の高いある晴れた日の事である。
私は書斎の空調の効いた人工的な静寂の中、窓から外を見ていた。空は子供の頃にみたあの空と何ら変わらないのだと言うイメージがふと沸き、むなしい心持ちになった。
「あなた、お昼どうする」妻の声が家に響く。
「ちょっと午前中に済ませおきたい用事が出来たんだ。私は適当に食べるよ」
「あらそう。おそうめんでも茹でようかと思ったのだけど、仕方ないわね。私も適当に食べるわ。」
「ああ、すまないね。」
私は今どこにいるのか。妻の前か?部屋の中から妻に声をかけているのか?それすらここではあやふやだ。
私はそう妻に言うと、上着を羽織り外に出た。