担当:たひ


【0. NHK「連続テレビ小説」概要】 ※昨年度発表
NHK「連続テレビ小説」:1961年に放送開始したNHK(日本放送協会)の連続テレビドラマシリーズ。上半期はNHK東京放送局、下半期はNHK大阪放送局が制作。

0-1. 作風傾向
a. 逆境に負けず、たくましく生きる人間ドラマ
 朝から放送されるため、暗い内容は避けられる
b. 女性一代記
c. ホームドラマ要素が強い
d. 原則的にフィクション、ドラマチック

0-2. 2010年度からの新傾向
a. 低迷期からの挽回
‘03年上~’05年下、’07年下~’09年下
b. 昭和時代がメイン舞台となる作品の増加
「ゲゲゲの女房」(’10上)、「おひさま」(’11上)、「カーネーション」(’11下)、「梅ちゃん先生」(’12上)→ 計4作品
cf. 過去10年間で昭和時代を描いた他作品
「てるてる家族」(’03下)、「純情きらり」(’06上)
全作品が戦後復興期を含んでいる
c. 脚本家の生前時代を含んだ作品の増加
⇒ より理想的になる可能性
d. ヒロインオーディションの減少

0-3. 昭和モチーフ作品の成功

表1. 2003~2012年 最高視聴率、平均視聴率上位作品
(ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」より筆者作成)


【1. 追加調査】
1-1. 「梅ちゃん先生」(2012年上半期)

図1. 「梅ちゃん先生」堀北真希さん
(出典:NHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」あらすじより)

脚本:尾崎将也(1960年生)
※代表ドラマ→「結婚できない男」、「アットホームダッド」
放送期間:2012年4月2日~9月29日(全156回)
平均視聴率:20. 7%、最高視聴率:24. 9%
舞台:1945~1961年、東京蒲田
あらすじ:戦後復興と高度経済成長の時代、梅子という一人の女性が、失敗を繰り返しながらも周りの人々に支えられ、地域に根ざした町医者を目指す。

a. 9年ぶり快挙-平均視聴率20%越え
「こころ」(’03上)21. 3%
→ 同年下半期「てるてる家族」で初めて20%下回る
→ 以降「ウェルかめ」('09下)までほぼ右肩下がり
(「純情きらり」(’06上)、「どんど晴れ」(’07上)は好成績)
→ 2010年以降徐々に右肩あがりの状態

 堀北が地域医療に身をささげる医師役を好演した「梅ちゃん先生」の平均視聴率が20.7%を記録した。全回の平均視聴率が20%を超えたのは、中越典子(32)がヒロインを演じた「こころ」以来、実に9年ぶりだ。最高視聴率は8月11日放送の24.9%だった。(中略)「梅ちゃん先生」は戦後の東京・蒲田を舞台に、医師になった主人公が地域の人々との交流を通し成長する物語。初回の平均視聴率は18.5%だったが、放送3回目で20%を突破。その後も人気は衰えず、コンスタントに20%台を記録した。(2012年10月2日付 スポーツ報知より)

cf. 最高視聴率回
第19週「新しい家族」 '12/8/11(土)放送

b. OP映像で使用された昭和の風景
製作:山本高樹
東京下町のクレイアニメーション(ジオラマモデル風)
b-1. 時代ならではのものが登場
昭和時代の街並み、オート三輪
b-2. ジオラマ展
「昭和幻風景ジオラマ展」※有料
主催:NHKサービスセンター
東京都中央区、青森県八戸市、福岡県中央区、大阪府大阪市、宮城県仙台市、京都府京都市、宮崎県宮崎市、埼玉県さいたま市、島根県松江市、岡山県新見市(2013年6月23日現在)
今後、青森県、神奈川県、新潟県、岐阜県、山形県巡回予定

 昭和の街並みなどを再現したレトロな作風で注目される千葉県出身のジオラマ作家、山本高樹さんの作品を集めた「昭和幻風景ジオラマ展」が、八戸市河原木の八食センター「くりやホール」で開かれている。(中略)「梅ちゃん先生」のジオラマのほか、駄菓子や銭湯、縁日の様子など昭和30年代前後の街並みと、そこに暮らす人々を表現した30点が並ぶ。照明で照らされた作品は、どこか懐かしく幻想的な雰囲気を醸している。(2012年11月14日付 読売新聞朝刊より)

c. 続編スペシャルドラマ放送
「梅ちゃん先生~結婚できない男と女スペシャル~」
'12/10/13前編、10/20後編 21:00 – 21:55 BSプレミアムにて放送
c-1. 舞台
本編終了4ヶ月後の東京・蒲田
c-2. 内容
梅子の夫・信郎の浮気疑惑、大学病院の友人・弥生と山倉の恋の行方

◆続編として前編と後編が製作されたのは過去10年「梅ちゃん先生」のみ(「どんど晴れ」「ちりとてちん」「てっぱん」は続編及びスピンオフ作品が製作されている)。

d. 「梅ちゃん先生」成功理由と次作への影響
d-1. 視聴者の共感を得た主人公
前向き、あたたかみ、地域とのふれあい、
好評意見例:心温まるストーリーで毎朝よい気持ちで1日が始まる/自然と笑顔になる/勇気と希望をくれた
厳しい意見は時代考証への指摘が多い
(NHK「視聴者報告対応平成24年9月」より)
d-2. 連続テレビ小説では成功率の高い昭和時代が舞台
d-3. 王道的なストーリー
d-4. 次作への期待
⇒ 「梅ちゃん先生」が好評だったため、次作への期待が高まる

1-2. 「純と愛」(2012年下半期)

図2. 「純と愛」夏菜さん
(出典:NHK連続テレビ小説「純と愛」あらすじより)

脚本:遊川和彦(1955年生)
※代表ドラマ→「家政婦のミタ」、「女王の教室」
放送期間:2012年10月1日~2013年3月30日(全151回)
平均視聴率:17. 1%、最高視聴率:20. 2%
舞台:現代(2012年)、沖縄・大阪
あらすじ:ヒロインの純が、実家(宮古島)のホテルを、亡き祖父が経営していた頃のような“まほうのくに”(お客さんが笑顔になる)に再生しようと奮闘する。

a. 「梅ちゃん先生」までの好成績 → 今作への期待
「おひさま」「カーネーション」「梅ちゃん先生」と、好成績をあげた作品の次作として更なる期待
+ 9年ぶりの快挙を成し遂げた「梅ちゃん先生」(1-1.a)
→ 初回視聴率 19. 8%(この時点で2010年以降最高値)

b. 王道ではない朝ドラ
b-1. 脚本家:遊川和彦氏「リアルな人間ドラマ」
最高視聴率40.0%「家政婦のミタ」(NTV)の脚本家
「今のドラマは、演出方法が多様化する一方で、安易な方向に走りすぎている。だからこそ、リアルな人間を書く意思を大切にしたい。(「プロフェッショナル 仕事の流儀」2012年9月24日放送分アーカイブページより)
⇔ セレクティブメモリー、つくりこまれた過去

「純と愛」以前の連続テレビ小説の主な流れ
理想的、あたたかい、安心感、古き良き時代
→ 慣れる視聴者
⇔「純と愛」
これまでの流れとは意図的に違うものであった可能性

b-2. 「純と愛」視聴者の反応

図3. 「純と愛」視聴者反応
(NHK「視聴者対応報告 平成25年3月」より筆者作成)

「梅ちゃん先生」
好評意見1,391件/厳しい意見3,324件/総反響10,395件
→ 「純と愛」
総反響は大差なく(11,447件)、厳しい意見ほぼ2倍

好評意見例:朝ドラとしては異色の本作に引き込まれた/人間の持つ酷さや汚さを描く反面、際立つ愛しさに感動した/きれいごとだけでない部分に親しみを感じた
厳しい意見例:ヒロインの非常識な振る舞いに大きな違和感を感じる/朝はさわやかな気持ちで見たいのに不愉快になるので残念/最終回に納得がいかない
(NHK「 視聴者対応報告 平成25年3月」より)
※最終回目前で意識を失う夫・愛は最終回も目覚めないまま、純が前向きに働くという結末を迎える

⇒ 王道的ストーリーに期待した人が多かった?

◆視聴者対応報告によると、厳しい意見は60代の男女に多く、30代以下の若い世代では好評意見の割合が高い

c. 2010年以降、2回目の現代ドラマ
c-1. 前回の現代ドラマ「てっぱん」(’10下)
2010年以降の5作品のうち、期間平均視聴率が「純と愛」の次に低い値
c-2. 3作連続だった昭和モチーフの流れから一転
c-3. 扱ったテーマ
倒産、病気、死が立て続けに物語に影響
ex. 夫・愛は物語のクライマックスで倒れ、最終回も目覚めないまま物語は終了する

d. 「純と愛」は成功したのか
d-1. 新鮮と捉えるか不適切と捉えるか
d-2. 「朝ドラ」を期待する視聴者
高齢の視聴者:変化よりも安心さを求める
若い視聴者:比較的変化に柔軟、好意的
d-3. 2010年以降、平均視聴率・最高視聴率共に最低値

1-3. データ考察
a. 期待値
a-1. 「梅ちゃん先生」初回視聴率 18. 5%
2011年の2作品「カーネーション」「おひさま」の影響
a-2. 「純と愛」初回視聴率 19. 8%
2011年の2作品+「梅ちゃん先生」の影響

b. 初回視聴率と最高視聴率との差
b-1. 「梅ちゃん先生」
初回視聴率 18. 5% → 最高視聴率 24. 9% +6. 4
b-2. 「純と愛」
初回視聴率 19. 8% → 最高視聴率 20. 2% +0. 4

c. 期待に応えたのか
c-1. 「梅ちゃん先生」
初回視聴率 18. 5% < 平均視聴率 20.7%
c-2. 「純と愛」
初回視聴率 19. 8% > 平均視聴率 17. 1%

d. 舞台背景と脚本家、オーディション

表2. 「梅ちゃん」「純と愛」作品備考
(「梅ちゃん先生」、「純と愛」制作発表資料より筆者作成)

e. 視聴者層

図4. 「NHK連続テレビ小説、初回から最終回まで見る続けたことがありますか?」
(出典:リサーチパネル2012年9月29日~30日結果より)

有効回答数 171,147件
「見たことがある」回答 女性34. 8%、男性26. 7%
◆高年齢の世代に連続テレビ小説をみることが習慣づいているとも捉えられる
⇒ 連続テレビ小説に影響を与えやすく、また確保されている視聴者でもある


【2. NHK連続テレビ小説で視聴者がみたいもの】
2-1. 「梅ちゃん先生」と「純と愛」
「梅ちゃん先生」:期待通り
安心して視聴できる王道の物語や主人公は多くの視聴者に受け入れられた
⇔ 「純と愛」:期待とのギャップが大きい
朝ドラとしては異例の人間のリアルさを追求した作品であり、視聴者は受け入れがたかった
cf. 理想化の強まる2010年以降の作品

表3. 2010年以降の作品
(NHK「連続テレビ小説」一覧のあらすじ、登場人物紹介、「カーネーション」「梅ちゃん」「純と愛」制作資料より筆者作成)

2-2. 現在好調の「あまちゃん」
主役:能年玲奈(オーディション)
脚本:宮藤官九郎(1970年生)
※代表ドラマ→「木更津キャッツアイ」、「池袋ウエストゲートパーク」
放送期間:2013年4月1日~9月28日(予定)
最高視聴率:22. 2%(現段階)
舞台:現代(2008年夏~)、岩手県北三陸・東京
あらすじ:岩手・北三陸の田舎町に東京からやってきた高校生アキが、海女に憧れたことをきっかけに地元アイドルにまで成長し、その後東京へ上京する。

a. 脚本家:宮藤官九郎「明るい作風」
ex. 明るい曲調のオープニング、方言「じぇ!」、コメディ要素、ご当地ネタ

b. 時事ネタが豊富
1980年代もの(YMO、松田聖子)、インターネットアイドル

c. 昭和のたくましい女性とは一転
現代のもともと自信のなかった子がアイドルになるまでを明るく描くストーリー

2-3. 次作は大正・昭和時代が舞台「ごちそうさん」
脚本:森下佳子(1971年生)
※代表ドラマ→「世界の中心で愛を叫ぶ」、「仁-JIN-」
『どんな困難にぶち当たっても絶望の淵に立たされてもごはんを食べていればなんとかなる!』連続テレビ小説第89作「ごちそうさん」はそんなシンプルだけれど力強い信念を持ち生きるパワーにあふれた女性がヒロインです。(中略)激動の大正・昭和を生きてたくましい大阪の母となり、夫への愛を貫きとおす半生をダイナミックに描き、今を生きる人々に勇気と希望を届けます。(NHK ONLINEドラマトピックス 2012年11月12日付より)

【3. 今回の総括】
a. 連続テレビ小説では昭和時代の物語が成功しやすい
人間のリアルさは求められていない(ex. 純と愛)
⇒ セレクティブメモリー、理想化
※視聴者・放送時間帯による理由も含むため特殊例

b. 前向きなストーリー展開とヒロイン
後味の良い物語、好感を持てるヒロイン

c. 昭和が舞台の物語に理想を求める傾向にある
⇒ ファンタジー化?


<参考資料>
NHK連続テレビ小説一覧
http://www9.nhk.or.jp/asadora/
ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」
http://www.videor.co.jp/data/ratedata/program/02asa.htm
「堀北『梅ちゃん先生』快挙! 朝ドラ9年ぶり平均視聴率20%超え!」スポーツ報知2012年10月2日 
http://hochi.yomiuri.co.jp/feature/entertainment/tv/news/20121002-OHT1T00009.htm
「『梅ちゃん先生』のジオラマ人気」読売新聞2012年11月14日朝刊 32頁
「山本高樹 昭和幻風景ジオラマ展」NHKサービスセンター
http://www.nhk-sc.or.jp/event/contents/diorama_okayama.html
「ぶつかりあって、愛が生まれる 脚本家:遊川和彦」NHKプロフェッショナル仕事の流儀2012年9月24日放送分
http://www.nhk.or.jp/professional/2012/0924/
「視聴者対応報告」平成24年9月 NHK
http://web.archive.org/liveweb/http://www.nhk.or.jp/css/report/pdf/1209.pdf
「視聴者対応報告」平成25年3月 NHK
http://web.archive.org/liveweb/http://www.nhk.or.jp/css/report/pdf/1303.pdf
「カーネーション」制作資料 2011年1月 NHK
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/otherpress/pdf/20110113.pdf
「梅ちゃん先生」制作資料 2011年6月 NHK
http://www9.nhk.or.jp/drama/img_ichioshi/20110629ume.pdf
「純と愛」制作資料 2012年1月 NHK
http://www.nhk.or.jp/drama/pdf/20120119jun.pdf
NHKONLINE ドラマトピックス 2012年11月12日付記事
http://www9.nhk.or.jp/dramatopics-blog/1000/137628.html

(最終閲覧日:全て2013年6月23日)

以上