担当:たひ


【1. NHK「連続テレビ小説」概要】
1-1. 「連続テレビ小説」史
NHK(日本放送協会)の連続テレビドラマシリーズ
初回放送:1961年(昭和36年)「娘と私」
※1~14作目は年1作品、15作目以降は年2作品放送
 上半期制作:NHK東京、下半期制作:NHK大阪
昭和30年代初頭『朝の口笛』朝の連続ラジオドラマ
+ 毎日連載される新聞小説
→ 同様にして「毎朝みられるテレビ番組」を考案
→ 放送する朝の時間帯は忙しい時間帯
→ 画面をみなくても音声で話の筋が分かるよう、心理や情景の描写をナレーションで説明する演出手法
(参考:アーカイブス・カフェ「連続テレビ小説座談会」)

1-2. 連続テレビ小説における主流
「逆境に負けず、たくましく生きる」人間ドラマ
(朝から放送する為、不安をあおるようなドラマは×)
a. 女性の一代記
b. ホームドラマ要素が強い
c. 原則的にフィクション(モデルの有無関係なし)
→ 女性一代記が確立したのは6作目「おはなはん」以降

1-3.「おはなはん」( 1966年 )による「朝ドラ」定着


図1. 「おはなはん」(1966年)
(出典:NHK連続テレビ小説HPより)

a. あらすじ
明治中期の愛媛県が舞台、軍人の夫とはお見合いで結婚するも他界、その後女手ひとつで息子を育てる。

⇒ 明るく力強い女性一代記(成長物語)であり、家族との絆を描いたフィクション作品(モデル有)

b. ヒットの背景
新人ヒロイン 樫山文枝人気 + 時代とのマッチ・共感
平均視聴率45.8%、最高視聴率56.4%(歴代3位)
「心に残る朝ドラヒロイン」1位を獲得 
(2010年9月25日付 朝日新聞より)

昭和40年ごろっていうのは、女性の社会進出がだんだん多くなってきた時代です。ドラマの中でも、そうした若い女性が社会に出て男性に伍して頑張る姿に、「ヒロインを応援したい」っていう気持ちで見てもらえたんじゃないかな。(NHKディレクター 齊藤暁氏)/ やっぱり日本の高度成長の時代と重なったんですよ。東京や大阪に出て、どれだけ頑張れるか。でも、そのバックには故郷がある。あのころの地方と大都会の関係がそのまま『朝ドラ』に投影されていて、シンパシーを感じてもらったんでしょうね。「あっ、うちのお父さんやお母さんも東京に出てきた人だ」とか、「自分もそうだ」とかね。(NHKディレクター 西村与志木氏)(どちらも引用:アーカイブス・カフェno.28より)

⇒ 時代は違う(昭和と明治)が、結果共感をよび、時代背景がよく似ていたことが要因
⇒ この作品にも「セレクティブ・メモリー」がみられる
★女性の社会的位置の変化(前回の発表参照)

c. 朝ドラの定着
「朝ドラ」国民的に認知されるように
⇒ 「おはなはん」以降、平均視聴率40%前後が続く

1-4. 成長を楽しめるヒロインオーディション
オーディションが主流
→ 知名度があがるため、新人発掘、スターへの登竜門の役割を果たす(「国民的ヒロイン」ともされた)
※ただしこの枠で女優デビューというのは過去3作のみで、他はプロの演技経験のある者が選抜されている
⇔2006年以降はオーディションなしの場合が増加

1-5. 放送時間帯、視聴者層
a. 放映当初
朝の本放送
⇒ 通常出勤時間は過ぎた状態が想定
⇒ 主婦や高齢者、時間に余裕のある自営業者、長期休暇中の学生と家を出る時間が遅い職業人などが視聴可能
昼の再放送
⇒ 昼休みの休憩時間なので出先でも視聴可能
b. 現在
BSでの先行放送、夜および土曜日の再放送の設置、レコーダー、ワンセグの普及
⇒ 全ての視聴者が視聴可能
(時間帯の繰り上げについては次項目にて後述)


【2. 過去10年間の作品分析】(一部2012年作品も含む)
2-1. 作品データ、比較からみた昭和舞台作品の成功
○→ 初回視聴率 < 平均視聴率
●→ 初回視聴率 > 平均視聴率

表1. 2002年~2012年 作品、舞台背景一覧
(ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」より筆者作成)

<考察>
a. 昭和を舞台とする作品の増加
「ゲゲゲの女房」以降、4作中3作(「おひさま」「カーネーション」「梅ちゃん先生」)のメイン舞台が昭和
b. 昭和が舞台作品の成功率
初回視聴率 < 平均視聴率 ⇒ 期待以上
初回視聴率 > 平均視聴率 ⇒ 期待以下
現代が舞台の作品
→ 15作中3作 が期待以上(2割)
昭和が舞台の作品(「梅ちゃん先生」は含めず)
→ 5作中4作 が期待以上(8割)
c. 低迷期の存在(2-2参照)
‘03年前期~’05年後期、’07年後半~’09年後半

表2. 最高視聴率 上位10作品
(ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」より筆者作成)

<考察>
a. 昭和を舞台とする作品の成功裏付け
 昭和を舞台にした作品 10作中5作 
※「てるてる家族」(’03年)も22%で11位
b. 「ゲゲゲの女房」('10年)以降の安定感
低迷期からの盛り返し作品となった「ゲゲゲの女房」以降、作品の最高視聴率が一定レベルに達している


表3. 最高視聴率と初回視聴率の差
(ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」より筆者作成)

<考察>
最高視聴率と初回視聴率の差が大きい
⇒ 期待値を大きく上回り、かつ話題となったといえる
ランク付けすると昭和を舞台にした作品が上位に
⇒ 好評価を得た作品が多い
Cf. 「てるてる家族」(’03年)→ 1.1%
  「おひさま」(’11年)→ 4.2%

2-2. 各種データからみる視聴率の低迷→巻き返し

図2. 各種視聴率グラフ 2002年~2012年前期
(ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」より筆者作成)

a. 平均視聴率
「てるてる家族」(’03年)… 18.9%
連続テレビ小説の記録において初めて20%下回る↓
(以降、いまだ20%を超えていない)
→ '04年上~’05年下 16~17%前後
→ '06年上「純情きらり」で19.4%に上昇
→ '06年下「芋たこなんきん」16.8%まで下降
→ '07年上「どんど晴れ」18.6%に上昇
→ '07年下 「ちりとてちん」15.9%に下降、
再び低迷 ~’09年後期「ウェルかめ」13.5%
(平均視聴率ワースト作品は現在「ウェルかめ」)
→ '10年上「ゲゲゲの女房」18.6% 再び上昇傾向

b. 最高視聴率
「わかば」(’04年) … 19.9%
 連続テレビ小説の記録において初めて20%下回る↓
→ ‘05年上「ファイト」20%代回復↑
       ~’07年上「どんど晴れ」まで維持

→ ‘07下「ちりとてちん」~’09上「つばさ」10%代
→ ‘09下「ウェルかめ」で再び20%代へ(20.6%)
 以降2010年上半期「ゲゲゲの女房」20%代を維持
 (順に23.6%、23.6%、22.6%、25%)

c. 初回視聴率
 初回視聴率が低い ⇒ 期待度が低い
cf. 「朝ドラ」ブランド(前作の評価が関係する)
「天花」('04年)… 18.6%
連続テレビ小説の記録において初めて20%下回る↓
→ ‘04年上「天花」~’06年上「純情きらり」10%代
→ ’06年下「芋たこなんきん」で20.3%に上昇
(前作「純情きらり」が好評であった)
→ ‘07年上「どんと晴れ」14.9%に下降
 (前作「芋たこなんきん」は好評とはいえない結果に)
→ ‘10年上「ゲゲゲの女房」では前作「ウェルかめ」をうけて14.8%にまで下降
→ 「ゲゲゲの女房」好評を受け、以降18%前後を維持
(順に18.6%、17.2%、18.8%、19.1%)

2-3. 2010年度からの試み
a. 時間帯の繰り上げ
朝放送の時間帯
1969年~2009年 … 8:15~8:30
→ 2010年~ … 8:00~8:15(15分の繰り上げ)
理由:NHKの朝の番組枠の視聴率がふるわなかった為
 事前に繰り上げに対する視聴者アンケートを行う
→ 15分繰り上げても視聴に影響はないと判断
(参考:白石信子「NHK講義」第4回 立命館大学にて)

b. 独立したホームページの作成
2010年以前:
独立したホームページ無、一覧から概要に飛べる程度
2010年以降:
独立したホームページ有(NHKの公式ホームページ「連続テレビ小説一覧」が開設されてから、初めて)
キャスト等、徐々に細かくコンテンツを展開するように
ex. 「梅ちゃん先生」公式HP

c. アバンタイトル手法導入
アバンタイトル:前回の流れを紹介するプロローグシーン(前回までのあらすじ)
2010年から本格的な導入スタート/ 毎回60秒~2分程度
「ゲゲゲの女房」一貫して放送

⇒ 結果、’10年上半期「ゲゲゲの女房」は大ヒット
 作品として数々の賞を受賞
→ 以降、連続テレビ小説は比較的好調な状態

2-4. 過去11年「昭和」が舞台の作品
2-4-1. 比較一覧

表4. 昭和が舞台の連続テレビ小説2002~2012年
(筆者作成)

<考察>
a. 脚本家の生前時代を含んだ作品が
少なくとも6作中5作(全作品である可能性が高い)
⇒ 実体験をもとに < 魅力的な作品を描く
⇒ どんどん理想化(セレクティブ・メモリー)されやすい状況 ← 朝放送するドラマの性質もあり、フィクションの要素が多分に盛り込まれる傾向は元来存在
b. ヒロインオーデションの減少
少なくとも 6作中4作 はされていない
⇒ 従来の「ドラマの流れと共に成長を楽しめる素人的なヒロイン」から「イメージの良い(合う)女優を起用することによる、作りこまれたヒロイン」へ
c. モデルのいる作品 6作中3作
d. 戦後復興期が舞台に含まれる作品 6作中5作
⇒ 復興期における健気で力強いヒロイン像
 例外:「純情きらり」復興期がメインではない
e. 伝統的な「朝ドラヒロイン」との比較
共通点:力強い、健気な人物像
変化:より理想的に(オーディションの有無、昭和を舞台にした場合、昭和時代がより遠くなることから)

2-4-2. それぞれのヒロイン、作品特徴
a. てるてる家族
ヒロイン:天性の明るさと楽しさ、夢、希望
特徴:コメディータッチ、ミュージカル(歌謡曲)
b. 純情きらり
ヒロイン:夢、情熱、生きる、時代に翻弄される
特徴:太平洋戦争を描く、シリアス要素が多い、音楽
c. ゲゲゲの女房
ヒロイン:ひたむきに、貧しくとも明るく
特徴:内気なヒロイン、映像の工夫(OP等)
d. おひさま
ヒロイン:どんなときも笑顔で明るく、「太陽の“陽子”」
特徴:人生談の語り聞かせ、自然、キャッチコピー
e. カーネーション
ヒロイン:花、明るさ、わが道、岸和田気風
特徴:洋服の歴史、男まさり、映像の工夫(セピア調)
f. 梅ちゃん先生
ヒロイン:ひたむき、明るい、底力
特徴:地域密着、ジオラマ、映像の工夫(特殊効果撮影)

2-5. 今後のNHK連続テレビ小説
「純と愛」2012年下半期放送予定 脚本:遊川和彦
「てっぱん」('10年下半期)以来2年ぶりの現代ドラマ
⇒ この作品の成功 / 不成功が重要となる

【3. 今後の展望】
 連続テレビ小説のあらすじ・特徴分析部分を補完しつつ、次回は過去10年間+αの昭和を舞台とした日本映画を分析予定。その際にはネット上の映画データベースでのあらすじを利用したキーワード分析と、監督の生まれ年と舞台の時代との関係(差)の分析を行う予定。

<参考文献、論文、URL>(URL最終閲覧:2012.9.25)
松尾洋一  調査情報 (495) 2010 『連続テレビ小説のモデルチェンジ』 TBS
朝日新聞「心に残る朝ドラヒロイン」2010.9.25付
NHK連続テレビ小説公式HPより一覧
http://www9.nhk.or.jp/asadora/
ビデオリサーチ「朝ドラ視聴率一覧」
http://www.videor.co.jp/data/ratedata/program/02asa.htm
アーカイブス・カフェNO.28 ~30
「連続テレビ小説座談会 前・中・後編」
http://www.nhk.or.jp/archives/cafe/2009/no28/index.html
http://www.nhk.or.jp/archives/cafe/2009/no29/index.html
http://www.nhk.or.jp/archives/cafe/2009/no30/index.html
白石信子「NHK講座」第4回(立命館大学)
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/kouza/4kai/nhksub4.html
NHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」公式HP
http://www9.nhk.or.jp/umechan/
NHK連続テレビ小説「カーネーション」公式HP
http://www9.nhk.or.jp/carnation/index.html
「連続テレビ小説50年メモリアルグラフィティー」 ステラ 2011年4月15日号 NHKサービスセンター
中寺貴史、前田貢作「創り出される昭和の香り」放送技術 63(7) 2010 兼六巻出版
以上