ごちゃついていた部屋が少し片付いて、煙を吸ったような白い部屋。

君の匂いに染められた。煙草と、少し甘い、BVLGARIのPourHommeの匂い。

「あの香水、枕元に置いておいたから。使いさしだけど。」雨上がりのマンションの前で、君が別れ際に言った。

「もし、会いに来てって言われたとしても、この距離だからさ。すぐに行けないやん。」

その香水の匂いが忘れられなくて、君が好きということに気付いた。そう、この前初めて話したから、会えないときはその匂いを恋う私が想像できたのだろう。

部屋がいつもと違う匂いに染まって、その中で香水の蓋を少し開けるとすぐに鮮烈に思い出す。君に惹かれる全ての理由が一瞬で分かる。

恋愛の仕組みなんて実に簡単なものだ。これがパワーの源であり、そして落とし穴でもある。

落ちるときなんてあっけないもの。心の準備ならできているから、また明日歯を立ててみるだけ。恋に順じて女という生き物も実に簡単である。

ばかばかしい思考を一度止める為にももう寝てしまおう。この匂いが、消えてしまう前に。