須藤修「複合ネットワーク社会」

一部:

個人の個性:所属しているネットワークによって決定される。

●世界秩序のシナリオ
1.三極(EU,北米、東アジア)の経済・テクノ戦争
2.三極による共同統治
3.その中間のハイブリットなもの

このシナリオを特徴づけるのは「経済力」

●フォーディズム

・製品の標準化+ベルトコンベアー → 大量生産
・研究、開発、設計、エンジニアリングなど構想部門が実行部門と分離→労働の生産性向
上。
・イノベーションは実行部門でなく構想部門から。
・生産手段のイノベーション:プロセスイノベーション
・財のイノベーション:プロダクトイノベーション

・内包的蓄積体制:生産性上昇率に比例して賃金上昇→消費投資拡大→雇用増大・規模の
経済

・フォーディズムの成立条件は、生産性向上と購買力向上の両立(←労働社会立法、社会保
障制度、大企業寡占などの制度設計)

●フォーディズムの衰退
(1970)
・石油危機あたりで限界
・テーラー的な労働管理は、度を過ぎるとうまくいかなくなる
・US,UK,FR:労働コストの削減(発展途上国に工場を、雇用不安低下)
・JP,WG,IT:品質と生産性の同時追及、産官学連携強化
(1980)
・市場が今まで以上に断片化、商品のライフサイクルの短期化
・プロセスイノベーションとしてのCAD
・FMSによるモノフローと情報フローの分離、多品種少量生産化

●情報技術が労働をいかに変化させるか?
・人間の同調性、合目的性、創造性のうち、人間は、創造性が重要になる。同調性、合目的性が要
求される作業は全部コンピュータがやってくれる。

・日本の場合、「人々は個人技能にかんする抽象的な尺度を評価されるのでなく、集団的・
半自立的問題解決能力、学習達成度、あるいは他の人とのコミュニケーション能力により
評価される。昇進は往々として他の部門への配属変更という形をとる」(青木)。US,UK
では、労働者は断片化されている。XX業務の労働者はXX業務しかできないという具合に。
これに対し、日本の場合、いろんな部署をたらいまわしにすることによって、多機能型労
働者を育てる。そのような人材が、部署間の対立を和らげるように作用した。

●情報技術とイノベーション
・技術発展=技術多様化+技術画一化 の繰り返し
・IBMのフェイズマネイジメント:各フェイズ(企画→設計→試作→量産)の独立性が極
めて高い。
・連鎖モデル:研究・知識・開発・製造・市場が複雑に相互作用
・日本は、昔からエンジニアリング部門が製造部門と同居し、プロダクトイノベーション
よりもプロセスイノベーションが得意。各フェーズが相互作用し、構想と実行が分離されたア
メリカではプロセスイノベは弱いがプロダクトイノベーションに強い。また、日本の場合、何か研究が必要なとき、社員をそのま
ま外部の研究所に派遣し、研究成果がまとまったら呼び戻したりする。日本は、異業務間
の移動がシームレス。但し日本のそれを支えたのはランクヒエラルキー(企業内部での格
付け)。
・企業={中核資産(純粋に自社だけのもの)、共有資産(他者に操作される)、結合資産(他者を操作して)、外
因性要素}。最近、共有・結合資産の割合が増加中。OEM,技術協力、合弁、戦略的提携な
ど。このような「間企業的領域」の機能を自己に有利な形で組織・拡大することが必須。
(例)メーカーどうしで協力して標準規格を作成。その標準規格の上で、各メーカーが各
製品を競わせるというモデル。つまり協力したほうが有利なところでのみ協力する関係。
部分的な提携。

●ネットワークの相互作用

・垂直性の高い組織:金融・企画・研究開発などの中枢部門を東京・NY・LONDON等に置き、
どうでもいいような販売・製造部門は世界各地に分散する組織。IBM。グローバル。但し、
環境の側面からみると、先進国では禁止されているような環境に悪影響を与える製造工程
を途上国に移転する例もあった。

・水平性の高い組織:一定の経済圏内で展開。経済圏内で巨大企業がオーガナイザーとな
り、企業群、地方自治体などが水平的に組織。先の垂直性の高い組織形態よりも、環境に
はやさしい。

・「人間活動における創造性が発揮される領域が拡大し、企業組織における共同領域が拡
大すると仮定しよう。もしそうだとうれば、働くことの中枢的機能はさまざまな情報を関
連づけ、さらに情報を関連づける様式を変化させることになる。また企業の競争力は複雑
で可変的な間形態を自社に有利になるように組織できるかどうかに依存。物質的生産物に
変わり「関係」が富の形成の問題を探求するにあたって決定的切り口に(=ネットワーク
組織論におけるネットワークのイメージとかぶる)

●環境破壊
1.外貨の不足、商品作物への特化
2.一部特権階級への土地の集中
3.急激な人口増加

・課金制(排出した分、課金)、排出権市場(排出制限)、直接規制、補助金等の対策
・エコライト制度(排出分だけ、エコライトを購入する必要性。エコライトの価格は、そ
の需要に応じて変動)
・北欧では二酸化炭素排出税
・自然保護スワップ

●技術革新による環境対策
・原子力はリスク・コストともに高い。あくまでも「過渡的な手段」と考えるべき

●情報テクノロジーと社会システム
・経済力← 技術力(研究開発力)+労働力
・情報化は、エンターティメント(マルチメディア)よりも、公共セクター(教育・行政・
医療)やビジネスへの需要がでかいのでは?(ニューメディアの失敗)

・公共部門の政策が、民間部門の需要を掘り起こすようなものでなければならない。

●生産モデルの比較
・フォーディズム:労使関係は敵対的。労働力の質は低い。テイラーの科学的管理に立脚。
階層的で部門的。っ官僚的な部門化・階層的組織構造。
・LPS:日本の自動車産業の生産モデル。労使関係は企業別組合、企業と労働者はいたっ
て協調。労働者は「企業特殊熟練」である専門技能に立脚。部署間移動による多能的な技
能を有する。協調的でチームワーク重視の組織構造。

・APS:人間重視の生産システム。欧州委員会が新たに提唱。労使関係は企業と協調的、と
いうより社会と協調的。労働者はLPSど同様に専門技能に立脚し、かつ多能的。但し、そ
の専門技能は「企業特殊熟練」ではなく、移転可能な汎用性に富む技能である点に特徴が
ある。分権的でフラットな階層性、チームわーk重視の組織構造。
(詳細は202ページ)

これらの労働形態と、情報技術、創造性重視の労働 との兼ね合いが良いのはどれか?
また、購買力向上・生産性向上というフォーディズムの価値観の実現が無理な場合、どう
いう方向にいくか?

・リピエッツの「社会的に有用な第三セクター」による失業手当の廃止と新たな社会保障
制度の構築。失業者を三セクで働かせることで、職業訓練にするとともに地域社会の自律
性を高める。

・ヴァイツゼッカー:
「今後、大量生産への需要が減少し、それに対応して裏庭での部門の外部に広がる、満足
のいく、意義のある労働への需要が増えてくるであろうと語り、そのとき技術は、産業使
用を目的としたものだけでなく、インフォーマルな部門の特性にあわせてますます発展す
るであろうと述べ、さらに経済の世紀である20世紀ではフォーマルな部門での労働が中
心であったが、やがて到来する環境の世紀では、労働とは就業することだとする支配的な
考え方は隣近所での仕事、子供の世話、地球環境問題への関与や他の無給あるいは支払い
の少ない仕事の長所を織り込んだ、もっとリベラルな考え方に取って代わられるであろい
うと語っている。」

●複合的ネットワークの構築
・自己組織化=開システムのみに起こる事象だ と主張する学者もいる。システムが環境
に影響を与える。システムはその環境に影響をうけ、自己の振る舞いを変化させるという
一連の動き。
・ネットワークが閉鎖的なものとなり、小数の主体に情報が集中し、階層的な組織に変質
してしまう傾向は絶えず存在する。ネットワークが閉鎖的になると、参加主体の自律性は
損なわれ、個性・構想力が衰えてしまう。それで、参加主体の自律性を保障する構造が必
要である。

・図7・2:今井、金子がネットワーク組織論で唱えるネットワークのイメージと似てい
る。また安田雪がネットワーク分析で取り上げた「弱い紐帯理論」ともつながる感じがす
る。

・今後の地域都市:情報を集積し、融合させる仕組みが必要。F2F情報の大切さらかも、
人と情報が集積し、交流が盛んに行われるための公共のインフラが必要。具体的には、
1.交通
2.情報交流空間の整備。国際会議場など(例)長良川国際会議場
3.研究開発空間(例)ソフトピアジャパン
4.情報通信システムの整備
産業サイドと市民サイドの歩み寄りが必要。このとき大学やNPOといった産業サイド・市
民サイドの双方に属す者がキーとなる。

・政府は、地域どうしの利害を調整する調整役(あれ・・これと同じことが、なんかの本
にかいてあったはず)。→財政をはじめとする地域自治権の強化。連邦国家化

最後に:ネットワーク組織論、モジュール化、オープンアーキテキチャ、あたりと書いて
あることが似てる気もした。

1部と3部後半がお薦め。多少、「それ理想論でしょ」みたいなところもあったが、現実
的な内容もちゃんと書いてあった。