氾濫 | キネマの天地 ~映画雑食主義~

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(ほぼ)一日一本のペースで映画の感想を書いてます。

氾濫 [DVD]
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内容:伊藤整の同名小説を原作に、増村保造監督が人間の欲望を赤裸々に描いた問題作。出世によってもたらされた虚栄に家族が翻弄され、その果てに待ち受けるものはただただ空しい。しかし増村演出は、欲望に忠実なあまり錯乱していく人間の業を否定も肯定もせず、ひたすらエネルギッシュに描出する。それがこの稀代の名匠の他者と異なる秀逸な資質でもあるのだ。(Amazonより)


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はい!今週の若尾文子枠は、前回の「青空娘」 と同じく増村保造監督作品ですね、

1959年製作「氾濫」です!




画期的な接着剤を開発した科学技師の真田(佐分利信)は、一躍ヒラから会社の重役の座に就いた。しかし環境ががらりと変わったことで、妻(沢村貞子)は生活が派手になり、ついには不倫の道へ。同じく放蕩を繰り返すようになった娘(若尾文子)は真田にとりいって貧しい生活から抜け出そうとする学生(川崎敬三)と関係を持つに至る。そして真田はかつての恋人(左幸子)と密会を重ねるようになるが、やがて接着剤が売れなくなり、一転して彼は窮地に追い込まれていく…。(amazonより)








ぐへぇ(´Д`;) あ、あてられた。。。(x_x;) 



・・・はい、ひたすら爽やか青春路線だった「青空娘」とはうって変わって、尽きることない

人間の欲望をどぎついまでにクローズアップした爽やかさのかけらもない作品です。

いや、タイトルやジャケ写からして楽しい話じゃ無いだろうというのは予測してましたがね、

ここまで濃ゆい話だったとは・・・。覚悟してなかった私は思いっきりその毒気

あてられてしまいましたよ。。。(x_x;)



クレジットでは若尾文子さんが筆頭に来ていますが、実際は主演ではありませんね、

中心はあくまで佐分利信さん演じる科学技師・真田佐平であり、物語は彼を取り巻く人々

それぞれの“欲望”の行く末を描いた群像劇のような形となっております。

若尾さんが演じるのは真田佐平の美しく派手好きな一人娘・たか子でして、あくまで

助演の域を出ない役柄ですので念のため。




1959年と言えば、日本が驚異的な戦後復興を成し遂げやがて世界第二の経済大国へと

至る途上の年代ですよね。敗戦によりアイデンティティを失った日本人は経済に

新たな価値を求め、やがて90年代にバブル経済が崩壊するまで、やれモーレツ社員だの

エコノミック・アニマルだのと揶揄されながらもしゃにむに働き続けたワケで。

本作はそんな「さらなる“豊かさ”ばかりを求める人々」を、痛烈な皮肉をこめて

描き出している作品ですよ。



家庭を顧みない夫に不満を募らせるあまり不倫に走る妻。

親の豊かさに甘え享楽的に若さを謳歌する娘。

金と地位のために利用できるものは何でも利用する若き貧乏院生。

不倫相手との手切れ金を“竹馬の友”にせびる大学教授。

会社のさらなる発展のために部下に無理難題を吹っ掛ける社長。

子の養育費のためにかつての恋人を欺く寡婦。

ゲーム感覚で金持ちの中年女を誘惑し金をゆすりとる男。

金、地位、性・・・欲望の向かう先は様々なれど、それぞれが他人を慮らず身勝手に

己の欲望ばかりを追求する様はまさしく“氾濫”ですよ、ひとたび堰を切った様に

溢れだした以上、枯渇するまでとどまることはないのです。。。(-。-;)

しかも「盗人猛々しい」っつーかなんつーか、全員何らかの理由をつけては自己を正当化し

悪びれる様子も全くないのでね、観ているコチラとしても責める気がしないんですよねぇ。

話としては救いようがないぐらい嫌な話なんだけど、登場人物を憎めないから

ついつい引き込まれてしまう。この辺は名コンビとして数多くの作品を残している

監督・増村保造と脚本家・白坂依志夫、さすがの腕前と言ったところでしょうか。





総評。

50年前の作品ではありますが、描かれているテーマは格差拡大がしきりに叫ばれている

昨今でも十二分に通用するものです。っつーか人間が生きている限り未来永劫

変わることはないのかもね。。。(-"-;A

最後もなかなか胸クソ悪い終わり方をしてくれるのですが(苦笑)、抜けるような青空を

背景に持ってきているように、決して一方的に糾弾しようなどという意図はない所が

このどぎつい物語を憎めない物にせしめているかと。

主演の佐分利信を筆頭に、沢村貞子・川崎敬三・左幸子・船越英二そしてもちろん

われらが(笑)若尾文子さんなどなど豪華キャスト陣の演技合戦も見ごたえ十分ですよ。

ってわけで、オススメ!!