思いやりとか人間愛とか | 馬鹿日報・弐

思いやりとか人間愛とか

先週金曜の夜は、西荻のブックカフェ
「beco cafe」にて飲んでました。
…で、参加者13人中11人が
現役書店員および経験者という。


それで色々(場を盛り上げるための自虐ネタも含めて)
話していたんですが、
「一番好きなマンガは何ですか?」と聞かれて
答えたのが、↓この作品でした。

$馬鹿日報・弐-アガペイズ

『アガペイズ』
(山田玲司/ヤングサンデーコミックス)


マンガでは『Bバージン』『絶望に効くクスリ』、
近年では新書で『非属の才能』『キラークエスチョン』
なんかで(知る人には)知られている、
山田玲司さんの作品です。
10年ちょっと前、今は亡き
ヤングサンデーで連載されていました。

……うちの本棚にはマニア垂涎ものの
レアなマンガ本も(かなり)あるので、知っている人からは
「なぜこの作品を?」なんていうツッコミも
入ろうかと思われます(自意識過剰ってか)。

しかし、理由はといえば表題に書いた通りです。

なので、そこにまつわる自分のツボなんかを
ここからだらだら書いて行くので、興味のある方は
最後までおつきあい頂ければと…。


まず、このマンガの設定・アウトラインを。
推薦しといてなんですが、かなりムチャクチャです

主人公・水樹百合は男子高校生で、

・生まれつきゲイで、
・虚弱体質。
・しかし音楽の才能があって、
・容姿端麗なので、
・ヴィジュアル系バンド「EROSS」のヴォーカルとして
 カリスマ視されている


という。そして、

・幼少期に惚れた男(プロ野球選手の息子)のために
・野球部に入部して共に甲子園を目指す


わけだけれど、
当然野球の才能・能力はゼロ。そこで

・風水の力を借りて
・5つの魔球を身に付ける


……のだけれど、

・そのたび音楽の能力を失い、
 最後は「声」を失くす


わけです。
どうですか?かなりブッ飛んでるでしょう(笑)。


しかも、作者の山田玲司さんの絵柄は
本人の哲学にもとづいて
かなり線が多くてガサガサしています。
(多摩美の油画科出身だからなのか、デッサンっぽい)

おまけに内容が説教臭くてめちゃめちゃ熱いので、
ボーイズラブを嗜好するようなマンガ読者からは
ずいぶん嫌われたんだとか(むしろ勲章でしょ)。


……それでストーリーに話を戻すと、
主人公は(相手がノーマルゆえ)
報われない思いのために、バンドも捨てて
ひたすら野球に没頭するわけです。

一見孤独な闘いのように見えますが、
そんな一途な主人公のもとに
徐々に仲間が集まり出し、メンバー全員が私欲を捨て
一丸となって甲子園を目指す……という。
(このへんは熱血モノの文脈に沿ってるのかも)

でまあここにタイトルの妙があって、
「アガペー(=無償の愛)」が
単数形じゃないわけですね。

……そして、全ての欲望から解放された
主人公が、その先に見たものは……、
というのが大雑把なアウトラインです。

まあ、アガペーっていう哲学用語のことなんか
自分もようわかるわけもなく、
無学の立場から言わせてもらえば、
この話はとどのつまり

「思いやり」とはなんぞや

っていう話なのではないかな、
と思うわけです。


…あともうひとつのキーワードで
「人間愛」っていう話なんですが、
そっちにはこの作品のヒロインの
雨野渦女(あめのうずめ)が関わって来ます。

(名前が示唆しているわけですが、
 主人公を陽の当たる場所に導く立ち位置)

長くなるので端折って言ってしまえば、
こちらは主人公に(ゲイと知りつつも)惚れてしまう
これまた不幸な役回りのヤンキー娘です。

しかしやはり主人公を諦めることも
放っておくこともできず、
いろんなお節介(死語?)やら世話を焼き、
最後には主人公との間に
性別を超えた愛情が生まれる、という。

…でまあこの作品のクライマックスに
彼女は主人公に対してとある言葉を言うわけですが、
それが「好き」とか「愛してる」とかいった類いの
ものではなく、人としての主人公の存在を
短く・端的に肯定し、必要とするものなわけです。

このラストは、これまで読んだマンガでは
やはり一番泣けるのかなあ、と……。


でまあ、エヴァ「破」のシンジとレイだったり
『3月のライオン』の零とひなたも
ある意味似たような感じだと思うんですが、
(どっちも今後カップルにはならんと予測します)
やっぱ男女のホレたハレた云々を言うよりも
どっかで恋愛・性愛を越えて「人」としての存在を
肯定してくれるようなシチュエーションに
自分は弱いみたいです。

…それを最初に認識させてくれたのが、この
『アガペイズ』という作品なんです。

まあ最後は打ち切りになったそうだし(全9巻)
世間的に評価はされなかったらしいですが、
自分にとっては一生モノの大事な物語です。

もし、これで興味のある方が
出ようものなら幸いですが…。