痛みを主体とした体性感覚の伝導経路とアプローチ法の選別 | 次世代型フィジカルセラピスト ケンちゃん

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こんにちは。


先日、神経線維の種類と膜電位の変動のメカニズムから、鍼灸の効果を考察したことがありました。

http://ameblo.jp/ultimate-mental-physical/entry-11631987074.html

今回はその発展として、他の本で分かり易く記載されていたので、まとめたいと思います。


体性感覚は、皮膚感覚と固有感覚の2種類に分けられます。

皮膚感覚は表面感覚と同義で、触覚・痛覚・温度感覚

固有感覚は深部感覚と同義で、圧覚・位置覚・運動覚

に分類されます。


それぞれの感覚を受け取る受容器と、それを伝導する神経線維の種類および分類が下記の図となっております。


前回の記事の図にもありましたが、この図では、Aβ線維が触圧覚に関与しているため、この中では特に伝導が早い線維に分類されており、自由神経終末からの温度痛覚を伝えるC線維とAδ線維は、触圧覚を司るAβ線維と比べると中間~遅い伝導速度となっています。

また、A線維は他にαとγがあります。Aα線維は、筋紡錘・腱紡錘からの求心性情報を、γは筋紡錘への遠心性情報を伝えています。伝導速度の速い順には、α>β>γ>δなので、ここで紹介されている冷覚と熱・科学的・機械的侵害に対するAδ線維は、A線維の中でも遅い部類に入ることになります。また、神経線維そのものは、A・B・Cあり、ここに出てきていないB線維は、自律神経の節前線維であり、C線維が自律神経節後線維にあたるため、温痛覚は自律神経活動との関連性が高いと考えられます。また、神経特性として、刺激に対してゆっくりと長く作用しますので、この後に紹介するゲートコントロールセオリーの時に重要となってきます。

あと、重要そうになってきそうなのが、順応の速さです。順応がは早いということは、それだけ刺激に対して適応しやすい、つまり、閾値が変動しやすいということを表していると思われます。逆に言えば、順応しないということは、刺激に対して適応しない、つまり、閾値は変化しないということになります。特にここでは機械的刺激、侵害刺激と理解しても良いと思うのですが、自律神経終末からの疼痛の刺激は閾値が変化しないということになります。つまり、痛いものは痛い。ということになりますので、外部からの刺激にて疼痛閾値を上げて、痛みを軽減させたように感じさせようというのは、理論上成り立ちにくいということがわかると思います。


アプローチとしては、徒手療法は、やはり、接触部位が多いため、A線維へ優位に介入することになっていると考えられます。しかしながら、この触圧覚受容器を順応をさせ、刺激に適応させて、膜電位を再分極させることによって活動を抑えることでC線維なりに介入するきっかけを作る、要はC線維に介入するためのタイムラグを作るわけですが、することによって伝導速度の遅い線維に介入する余地はあります。そういう意味では、最近では多くなってきている持続圧というのが有効になってきているのではないかと考えられます。面での接触ではなく、点での接触なら尚更です。そういう意味では、鍼灸はC線維を中心に介入していると考えられます。接触面が極端に小さく、かつ、触圧覚受容器を通り過ごして介入していることになりますので。


なんにせよ、皮膚に存在する受容器からそれぞれが情報をキャッチしているわけですが、人の皮膚は無毛部と有毛部に分けられるそうです。全身のほとんどを占める有毛部は、物に接触した際の自分の皮膚の状態に注意が向かう一方、無毛部では、接触した対象へと注意が向かうので、物の形や材質など、接触した対象を探り、その特徴を知るために発達しているそうです。


体性感覚が脳に伝わる経路としては、脊髄視床路と内側毛帯路があり、

脊髄視床路は温痛覚をメインとする伝導路だそうです。おそらく、B線維に相当すると思われます。体の恒常性を乱す危機を知らせたり、快不快の判断基準になるような、生存に直接関わる情報を伝導するそうです。そのため、進化の速い段階から備わっていたと考えられるため、原始感覚系とも言われるそうです。

内側毛帯路は、筋肉や腱の運動覚や触覚を伝える伝導路だそうです。この感覚は、環境を探り、識別する働きを担うため、識別感覚系とも言われるそうです。

元々、神経と生理学は苦手なので、勉強しながら解説していきます。

痛みに対しての伝導は、上記の通り、脊髄視床路なのですが、脊髄視床路は外側と内側に分けられ、内側は粗大な触圧覚に作用しているため、ここでは省きます。

痛みは、ファーストペインとセカンドペインというものに分けられ、両者ともに外側脊髄視床路を経由するのですが、ファーストとセカンドでは、ちと経路が違うそうです。セカンドに移行するものは、網様体で別の伝導路に分けられて脳に送られるそうです。これによって辺縁系に届けられ、自律神経への影響が出るため、症状の固定化につながるそうです。




この網様体については、最近ボバースの講習会に行ってから私が気にしている部分で、特に網様体脊髄路に注目しています。主に体幹に投射し、オートマチックな姿勢制御に関与していると言われているからです。

網様体脊髄路は、橋網様体脊髄路と皮質延髄網様体脊髄路に分けられ、

橋網様体脊髄路は、同側性と交差性の線維に分けられる、姿勢コントロールに最も寄与しているシステムだそうです。腰背部の安定性(core stability)や、上下肢の近位部に大きく影響を与えているそうです。

脊髄延髄網様体脊髄路は、橋網様体脊髄路とは異なり、皮質が関与するので、より随意的な調整を行うそうです。腰背部の安定性には関わらず、上下肢の近位部にのみ大きく影響を与えているそうです。

つまり、体幹そのものはオートマチックなんだけれども、上下肢の近位部はオートとマニュアルの両方を兼ね揃えているというか、移行しているという風に捉えることが出来ます。逆に言えば、四肢末梢とは神経システムが違うので、体幹の訓練をすることそのものが、この網様体脊髄路系を賦活していることになるため、効果がある・意味があるものであるものの、それだけやっていれば良いのかと言われるとそうではないのだと思われます。最近では、体幹体幹言わなくなってきた感もありますし。

網様体脊髄路が賦活され、姿勢がしっかりすると、抗重力伸展が取りやすくなり、姿勢が安定する、シャキッとするので、かなり覚醒も上がるのを実感しています。抗重力伸展が取れているということは、すなわち、脊柱・体幹の分節がそれぞれ分離して連動して動ける状態を意味しています。しっかりとインナーとアウターのバランスが取れている状態と言えます。そうなると、脊柱においては、自律神経の活動が安定することに繋がります。網様体そのものの機能としても、骨格筋の筋緊張と反射の制御、体性感覚と内臓感覚の制御、自律神経系の制御、内分泌の制御、生体内時計の確立など、多岐にわたり、生命活動に必要な要素が組み込まれているため、とても重要と思われます。


話が少し脱線しましたが、網様体は痛みと自律神経、加えて、体幹をはじめとする姿勢維持に関与しているということになり、痛みに関して言えば、ファーストペインからセカンドペインへと移行させ、情報を辺縁系へ送る基点となっています。辺縁系に関与させるということは、情動と関与することになります。情動は自律神経活動にも大きく作用させることに繋がります。


痛いところをさすったり、なでたりすることは、自律神経終末からのC線維を主体とした痛覚刺激を触覚刺激で抑制することになります。これがゲートコントロールセオリーです。マイオチューニングアプローチでも言ってる所だと思いますし、学校教育においては、物理療法の所で習った所だとは思います。C線維からの情報をキャッチしている時は、触圧覚の情報はゲートを閉じられてしまっています。しかしながら、伝導速度は触圧覚の方が速いですから、触圧覚の刺激を入れ、そちらのゲートを開かせることで、結果的に痛みのC線維のゲートを閉じることで疼痛刺激を感じにくくさせようといったものになります。

しかしながら、触圧覚の刺激は疼痛のC線維に比べて適応しやすいですから、ずっとさすっていたりしていると、適応してしまうので、触圧覚の刺激量と疼痛の刺激量を比較した際に、疼痛の刺激量の方が強ければ、一時的に疼痛は緩和できるものの、根本的な解決にはなっていないことになります。一時的に緩和した際に、疼痛の根本的な解決をしなければならないということになります。



痛みの難しい所は、やはり、個別性が高いといった所でしょうか。伝導メカニズムには違いがないものの、その人の今までの経験や意識、情動が絡んでくるといったところが難関です。

例えば、子供が転んだ時に、親が過剰に反応すると、子供は大きな怪我をしてしまったのだと判断します。そのため、非常に痛くて、悲しくて、大泣きするするのだそうです。逆に、親が動じなければ痛みも大して感じないそうです。このような経験が将来、痛みの解釈に大きな影響を与えるのだそうです。

意識に関していえば、注射をする際に、腕に針が刺さっている所を見せる場合と見せない場合、さらには拡大鏡でみせた場合を比較した実験では、拡大鏡で見せた時の方が痛みの反応が最大だったそうです。つまり、これを例に取ると、実際に刺激を受けている場所に意識を集中すると、そこからくる痛みにも敏感になってしまうと言うことです。つまり、注射されているときに目を反らすのは、理に適った方法であり、刺激部位を意識させないこと、他に気をそらせること、刺激部位を見せないことは、痛みを感じにくくする方法としては有効だということになります。

他にも面白い研究があって、『仲間からのけ者にされた時』の脳の活動をfMRIで見ると、疎外感を味わった被験者は、仲間に無視されて苦痛を感じた際に、脳の前帯状回の背中側と島の活動が最も高まったそうです。これは、体の痛みの反応と同じパターンだそうです。

つまり、人間は体の痛みと心の痛みを同じように経験しているそうです。


以上を考慮すると、痛みに対しての解釈は、

メカニカルストレスによる疼痛

神経伝導による疼痛

経験や意識などによる脳が要因の疼痛


に分けられるのではないでしょうか。

メカニカルストレスは、徒手療法にて軽減する可能性がありますし、

神経伝導に関しては、針灸がより効果が高い可能性がありますが、

経験や意識などによる疼痛に関しては、これが疼痛の増幅装置みたいなものなので、実際に末梢から入ってきている情報は小さくても、脳の中で大きな情報としてとらえてしまっています。これが厄介で、いわゆる治らない腰痛なんかが、社会的背景を孕んでいると言われる由縁はこのような所があるからだと個人的には考えています。




最近では、皮膚からの入力方法によって、学習障害や自閉症、注意欠陥多動障害などが改善することが示されてきたそうです。

皮膚は露出した脳とも言われ、様々な感覚が入力される界面であり、また、心や体の状態を反映する出力の界面でもあるとされています。その中でも触覚は、5感の中でも原始的な感覚と言われ、動物の起源をたどると、ゾウリムシやアメーバなどといった単細胞生物は、細胞膜が外の世界を知覚し、行動・判断・決定する役割を持っているとされています。人間では皮膚に相当する細胞膜が知覚や行動決定の仕組みを担当しているということになります。我々、多細胞生物においては、皮膚がその役割を担い、細胞同士がくっつきあい、それを境に様々な信号や情報を伝え合うことで、より複雑な行動をとるようになったと考えられるそうです。

心身相関。今後、この、心と体の関係性について、個人的に、より深く興味を持っていきたいと思っております。