【映画】『テルマエ・ロマエ』 | 『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評―

【映画】『テルマエ・ロマエ』

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★★★☆☆

あらすじ



古代ローマ帝国でお風呂専門の設計技師を務めているシリウスは、ある浴場のデザインで悩んでいた。
そんな彼がひょんなことから、現代日本の銭湯にタイムスリップ。そこには“平たい顔族“の人々がいた。
やがてシリウスは漫画家志望の真実と出逢うが……。

感想

元々観る予定はなかったものの、諸々の事情があって映画館で鑑賞する事になった『テルマエ・ロマエ』。
原作漫画は1巻を読んだことがある程度でほとんど思い入れは無いし、「見る予定がなかった」っていうくらいだから大した期待をしてなかったんだけど、期待値のピッタリちょうどとでも言うんでしょうか。
良い意味でも悪い意味でも、まったく期待を裏切ることのない超無難な作品だった。

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と、こういう風に書くと「良いところも悪いところも同じくらいあるプラスマイナスゼロの映画」と思われるかもしれないけれど、要素を一つづつ見ていくと、はっきり言って悪いところ(不満点)の方が圧倒的に勝る映画。

そして、そんな不満点のほとんどは、原作にはない映画オリジナル展開である後半部分に集中している。

例えば、テルマエの設計技師として非常に高い評価を受けている阿部寛(ルシウス)が、自らが設計したテルマエについて「実際に自分で考えたものではなく、全部パクリ。自分には才能なんか無いんだ!」と苦悩を爆発させ、それを上戸彩が励まわけだけど、その上戸彩のセリフってのが、「悩み抜いた末にタイムスリップまでしたんだから、あなたは間違ってない!」的なあまりに意味不明なもの。
なんだ、この世界中の誰も共感しようのない励まし!!

僕は、大きく分類すると「モノをつくる」仕事をしていて、「モノづくり」特に「モノづくりの企画」に携わっているんだけど、自分が作ったものに対して、「コレは模倣なんじゃないか。。。」という迷いっていうのはかなり頻繁に生じる。
また、「ルシウスみたいに裏ワザ的に才能が手にはいらないかな~」なんて妄想したことは一度ならずあるし、「でもそういう裏ワザで名声を手に入れたとしても、“才能がない”ことへのコンプレックスは強まる一方なんだろうな~」ってことも想像に難くない。

例えばそんな時、上戸彩みたいな子が現われて、「あなたは、ちゃんとあなたなりの工夫をしてる。それはパクリじゃなくて、あなたの創造で『あなたの作品』よ!」なんてことを言われたら、そりゃあもう、その豊かな胸に顔をうずめて号泣しちゃうかもしれないし、凄まじく幸せな気持ちになれることだろう。
だから、本作の問題のシーンでも「あなたは、ちゃんと『アナタのテルマエ』を作ってるわ!」的な励ましをしていたら、少なくとも僕は、ルシウスに共感しただろうし、上戸彩のセリフに多少なりとも心が動いただろう。
でも、「悩んだ末のタイムスリップは正しい!」なんていう何の参考にもならないことを言われても・・・僕は何を思えばいいんだろう。。。何て言えばいいんだろう。。。(©イエローモンキー)

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さらに、同じく阿部寛と上戸彩のやり取りで、「やりたくない仕事をしなければいけないこともあるし、夢をあきらめなければいけないこともある。生きていくためにはしかたない!」と言う上戸彩に対し、「自分を殺してまで生きたいと思わない!」という激烈な言葉を突きつけた阿部寛は、まさに命をかけて自分の信念を貫こうとする。
この阿部寛の言葉については、まあ、「確かに仰るとおりですね」と思わなくもない。
事実、本作のエンディングでは、お見合いして旅館を立て直すことよりも自分の夢、すなわち漫画家という夢への道をもう一度歩むことを選んだ上戸彩の姿が描かれている。

しかし、そんな影響力のある発言をした当の本人である阿部寛は、逆に「自分の意見を主張しない“平たい顔族(日本人)”をバカにしていたが、己を殺して公を優先する民族性が、この民の強さなのか!!」と感動。
自分の考えをちょっと改めてしまうわけで。
阿部寛本人が「間違っていた」とすら感じている主張に影響を受けて、人生まで決してしまった上戸彩の立場に対して、僕は何を思えばいいんだろう。。。。何て言え(以下略)。


さらに、上戸彩の“その後”を描いたエンディングについては他にも言いたいことが。
実家の旅館よりも自分の夢を選んだという決断については「まあ、僕は他人なんで、どうでもいいんで、勝手にしてください。」って感じなんだけど、「経営難で旅館が潰れる」という問題を放置して終了っていうのは、どういうつもりなんだろう。
おそらく本作を観た誰しもが、「現代日本の文化が古代ローマの文化に影響を与えた前半部分に対し、ローマの文化から何かを学ぶことが、現代日本の旅館の経営立て直しにつながるんだろうな」と想像したことだろう。
そんな観客の予想に対して、「誰でも想像がつくようなストーリーにはしない!」というのはまあ良いんだけど、ただ単に“放置”っていうのは、流石にストーリーとしてダメダメなんじゃないでしょうか。


さらにもう一つ。
本作の後半は、ルシウスの“ある行動”がその後のローマ史に影響を与えてしまうことによる、「歴史が変わっちゃう!」のタイムパラドックス要素が鍵になるんだけど。。。
いやいや、「オーバーテクノロジーである日本文化の持ち帰り」を散々やってるし、タイムパラドックスを防ぐために戦争の結果を変えちゃうなんて。。。そっちの方こそ思いっきり歴史変わるやろ~い!!

前半のギャグから一変してシリアス展開っていうのが長編映画化のアプローチとして間違ってるとは思わないけど、追加要素のほとんどが突っ込みどころってのはいかがなもんなんだろう。

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そんな感じで、原作にない映画オリジナル展開がなされる後半部分がダメダメなのは間違いないんだけど、じゃあ前半部分はおもしろいのかっていうと、これまた「つまらなくはないけど、取り立てておもしろくもない」としか言いようがないものだった。

同監督作品である『のだめカンタービレ』を彷彿させるようなオペラ歌手「ラッセル・ワトソン」の無駄遣い(これは褒め言葉です。)や、人形を使っあえて安っぽく表現されたタイムスリップ演出。
「ワニ」のテロップ芸や、自らを茶化すような「BILLINGUAL」表記など、“映像表現ならでは”の工夫は随所に見られ、原作には無い笑いを上乗せすることはできていると思えるところも多い。

ただ、残念なのは、そういう上乗せの小笑い部分ではなく、「初のタイムスリップ後のザバーン!「初めてのウォシュレットでの恍惚!などの、笑いとして爆発力があるほとんど全てのシーンを、予告編で見せちゃっているという点に尽きる。
結果、阿部寛の肉体作りまで含めた“演技力”によって、かなりおかしいシーンになってはいるものの、「ハイ、来た。予告編でおなじみの“あの”めっちゃおもろいシーンですよ!」的な薄ら寒さを感じてしまった。
「予告編には使われていない面白いシーン」が一つでもあればよかったんだろうけど。。。

まあそれでも、個々の演出は少なくとも「惜しい」レベルのものにはなっていたりもするんだけど、そもそも、根本的に同じ構造の笑いを4回繰り返している(しかも後半のシリアス展開も、この構造を長編シリアス化しただけ)ということが何より致命的で、「それは無いだろ!」と言わざるを得ないんですけどね。

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というわけで、やっぱり「要素ずつ」に見ていくと「全然ダメだなぁ」と思えてくるんだけど、映画を見終えた時点で「まあ、そんなに良くもなかったけど、悪くもないなぁ」というプラスマイナスゼロになっているのが、この映画の不思議なところ。

悪い点が目立たない理由は3つあって、一つは、本作が「そもそも、目くじらを立てるような類の話ではない」というところ。
原作の時点で、良くも悪くも「強い主張」のある漫画ではなく、面白いとは思うものの、「人生を変えた」とか「深く考えさせられた」なんて感想が出てくるようなお話ではなく。
すごく乱暴な言い方をすれば、割と「どうでもいい」お話なわけで。
不満な演出があったところで、まあ、どうでもいいわけです。

2点目は、何と言っても上戸彩の存在感
冒頭でのすっぴん+谷間のシーンの無防備さは、『モテキ』の長澤まさみにも匹敵するほどに、エロい
ローマ衣装を着た時の“ふっくら感”た・ま・ら・な・いドキドキ
僕は本作を今月の1日、つまり映画の日に1000円で鑑賞したわけで、1000円ならば間違いなく、上戸彩の登場シーンを観るだけで元が取れると思うわけです。

そして3点目は、エンドロールにある。
本作らしく、古代ローマと現代日本での“お風呂シーン”が使われているんだけど、このエンドロールでの擬似入浴体験のおかげで、「ああ。お風呂って気持ちいいな。細かいことはどうでもよくなっちゃったドキドキという気持ちで鑑賞を終える事ができるのだ。
これって、スゴくずるいけど、本作の終わり方として、すごく巧い締めだと思った。

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というわけで、実際は欠点だらけの映画ながら、上戸彩やらお風呂効果やら何やらの効果で、結果的に欠点が気にならなくなってしまうという不思議な映画『テルマエ・ロマエ』。
まあ、少しはあった“良かった点”までも水に流してしまったということなのか、結果的には“特に何も残らない”作品になってしまっていて、映画談義には全く花が咲かないという甚大な副作用もあるんだけども。
(実際、映画を見た三人で感想を語り合おうと試みたところ、一言づつで終わってしまった。。。)

そういうわけで、(これだけ長々と感想を書いておいて何ですが、)結果的には、「取り立てて感想は無い」というのが感想になってしまう『超無難な映画』というところに落ちついてしまうわけで。
正直、ブログにグチや文句を書きまくれる心底ダメダメな映画の方がよっぽど楽しめているんじゃないかとすら思えるほどに『無難』なのでした。


「特に感想はない」という着地点にむけて、長々と感想を綴った今日のブログ。
すごく不毛な文章ながらも、文章力向上という観点ではかなり修行になったということで、個人的には納得するしかないのでした。

今日の余談

内容的には全然ハマれなかったものの、『古代ローマ』に対する興味がわいたという点こそが、実はこの映画を観たことによる最大の効用だったかもしれない。

早速、塩野七生のローマ史本を購入し、ローマ史にどっぷりつかり始めている。
このシリーズは全43巻。なかなか果てしないけれども、1巻読了時点ですでにどっぷりハマっている感があり、果てしない道のりが楽しみでもあるのでした。

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