「ヒーローショー」 | 『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評―

「ヒーローショー」

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★★★★☆
あらすじ

気弱な専門学校生ユウキ(福徳秀介)が始めたアルバイトは、ヒーローショーの悪役だった。
ある日、バイト仲間のノボルが、ユウキの先輩の剛志の彼女を寝とってしまったことから、彼らは舞台上でリアルに殴り合いを始める。
それだけでは収まらず、剛志は悪友たちを招集しノボルらを強請ろうとするが、ノボルたちも自衛隊上がりの勇気(後藤淳平)を引き入れ報復にでる。
次第に彼らの暴走はエスカレートし、ついには決定的な犯罪が起きてしまう…。

感想

「今年もブルーリボン賞が発表されていたけれど、どうしてこの作品が入らないんだ!」
と、憤ってしまうほどの名作。

ジャルジャル主演ということや、宣伝方法などから、キワモノっぽい映画を想像していたけど、笑い無しの骨太な映画だった。
井筒監督は、あのナインティナインを使って、『岸和田少年愚連隊』を撮っちゃうような映画監督だったことを再確認した。



まず、ジャルジャルの二人の演技が、かなり素晴らしい。

後藤の気迫の演技。(腕立て100回、腹筋1000回をやってる「最強」の体型には見えないけど。。。)
いつものニヤけたジャルジャル後藤のイメージを思い出せないほどだ。
後戻りできない道に入ってしまったことを彼女に打ち明けるシーンも素晴らしかった。

そして、「空っぽな奴」を演じきった福徳の演技が本当に素晴らしい。
「お前の大切なモノは何だ?」と問われた時の、「命」という答えと、その答え方。
ここで誰もが「こいつはダメだ。。。」と思ってしまうだろう。
それほどまでに、この一言がユウキというキャラクターを表現している。名シーンです!


脇役たちの演技もまた素晴らしく、
中でもずば抜けているのが鬼丸兄弟の演技。
どちらも、僕は知らない役者だったけど、この二人の狂気の演技が素晴らしい。

クローズなんかで、よく出てくる兄弟ヤンキー。(放火兄弟、ゲジゲジ兄弟などなど。)
漫画ではカッコよくすら感じてしまう、あの手の兄弟ヤンキーだけど、
それが実際に存在すると、いかに怖いかってのを嫌というほど感じさせてくれる。
(特に弟がヤバい。大学にカチコミした時に、意味なく一人の脛を蹴り続けるっていう演出が秀逸。)

そして、
隠れた名脇役だと思っているのが、市長選挙活動中の拓哉の父。
「バカは官僚になる。お調子者は知事になる。市長が一番だ。」
こういう台詞を、あのテンションで言ってしまう父親。
拓哉と勉という兄弟も、ユウキと同じように「空っぽ」であることが、この父親像から容易に透けて見える。



ストーリー、というか本作におけるメッセージ性の部分も素晴らしい。

昨今のオシャレヤンキー映画に対する批判(ていうか、明確に「ドロップ」に対する批判?)なんだろうけど、
「鉄パイプやバットで人を殴る」という行為の意味を、グロテスクにも誠実に表現している点が良い。
その結果、物語は決定的な所まで転がっていってしまうけれど、それこそが「現実」なんだ。
なんせ、この事件は現実にあった事件を元に作られてるわけなんだから。
(東大阪集団暴行殺人事件@Wikipedia)


そして、思いっきりネタバレだけど、ラストシーンが強烈。
物語の最初から最後まで、見事に立ち上がらない主人公ユウキ。
成長したと思わせて、結局行って戻っての繰り返し。
最終的には、嫌がっていたはずの実家へ戻るわけだけど、
ハッピーエンド風に纏めているけれど、実は逃げ帰っただけ。

ただ、あの立場だったら自分もそうなるかもしれないと思ってしまい、見ていて鳥肌が止まらなかった。

そして、そのタイミングでかかるピンクレディーの「S.O.S」という曲の不安感。
表面上が爽やかなだけに、最凶クラスのエンディングでした。


というわけで、全体的に満足度の高い一作だったけど、不満点が2つ。

一つは後半の尺の長さ。
前半の展開に比べ、ジャルジャル二人のロードムービー化する後半は、ちょっと長い。
ま、前半で気持ちをつかまれてしまったら、それすらも愛を持って眺めることができて、
「長い」と思いながらも、その後を想像すると「この時間がもっと続け」とも思う。
絶妙なバランスではあるものの、テンポが少し悪かった。


もう一点は、「ヒーローショー」であることの必然性がないこと。
「ヒーローショー」が、物語に何の影響も持っていない気がする。

わざとなんだろうけど、「ギガレンジャー」の作りの粗さも酷い。ヒーローへの愛を一切感じない。

果たして、なぜ「ヒーローショー」を物語の舞台に選び、タイトルにまでしたのか。
単純に、僕が何かを見落としただけなんだろうか。。。
ちょっと理由がわからなかった。



ジャルジャル主演という、言うなれば「アイドル映画」的な本作。
予告編や、宣伝でも、ここまで重いテーマの映画であることは隠されていた。
軽い気持ちで見始めた観衆もまた、転がり始めた物語に巻き込まれ、飲み込まれてしまう。

「こんなはずじゃなかった。。。」

まさに、この気持ちを、物語の登場人物と観衆とで共有できる映画。
間違いなく、傑作。
オススメです!



<今日の余談>

映画公開時にも、それなりに話題になっていて、この作品を見て、「最高!」と言っている人は、僕の周りには意外と多かった。
ただ、そう言う人たちにもあえて言いたい。

この映画、DVDで見るほうが数倍怖い!

映画館の場合、映画館を出るタイミングで現実に戻ってくる感覚があるけど、、
家で見てしまうと、あの圧迫感が部屋の中にずっとこもっていて、
物語が自分の世界と地続きであることを、より意識してしまう。

その点では、家で見てしまったことは後悔している。。。

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