【日本発 アイデアの文化史】40年の歴史はイノベーションの連続

 何気ない日常。周りを見渡すと「日本発」があふれる。カラオケ、インスタントラーメン、電卓…。時代の必然に背中を押され、日本人は便利な日常を次々と演出してきた。そしてそれは、当初の目的とも違った別の世界へも導いた。「日本発」は、われわれに何をもたらしたのか。

 今や世界共通語となった「KARAOKE」。日本発祥は間違いないが、実は発明者はハッキリしない。

 「発明とは普通、ハードの発明者をいいますが、カラオケの場合、ハードだけでなく、ソフト開発、商売として成り立たせるサービス、その3つが組み合わさって発展したので、発明者の特定が難しい」

 昭和50年代、松下電器産業(現パナソニック)で家庭用カラオケ第1号の開発にかかわった関西外国語大の前川洋一郎教授(66)が、“発明者”として12人の名が記されたリストを手渡してくれた。

 「カラオケ進化論」(廣済堂出版)の著書がある前川教授が、大学でカラオケを教材にするのも、「カラオケ40年の歴史は、イノベーション(技術革新)の連続だから」との理由だ。つまり日本の知恵と技術が投入された“発明者”の多さこそ、KARAOKEが世界の夜を席巻した理由だというのである。彼ら黎明期(れいめいき)の発明者が、特許を取得しなかったことも、カラオケ発展に寄与した。

 前川教授によるハード、ソフト、サービスの“発明者”計12人のうち、ハードにかかわるのは5人。いずれも昭和40年代、小型ジュークボックスにマイク入力端子を付けて改造した原型を作った人々だ。

 真の発明者を特定するのが目的ではないが、一般に“発明者”として知られているのは井上大佑(69)だ。井上は米国「タイム」誌(1999年8月23-30日号)の「今世紀最も影響力のあったアジアの20人」にカラオケの発明者として選ばれ、5年後には奇想天外な研究に贈られるイグ・ノーベル賞も受賞した。その生涯は映画「KARAOKE 人生紙一重」(平成17年、辻裕之監督)にまでなった。

 カラオケメーカーなどでつくる「全国カラオケ事業者協会」(東京都品川区)の片岡史朗専務理事(49)も「発明者は特定できないが、業務用の現在のカラオケの原型を考案したのは井上」と話す。その理由は2点。井上が作った「8JUKE(エイトジューク)」には、5分間100円のコインタイマーが付き、課金システムを確立したこと。そして素人でも歌いやすい伴奏ソフトも合わせて開発したからである。

 甲子園球場に近い兵庫県西宮市の雑居ビルで井上大佑が昭和46年に生み出した「8JUKE」を見せてくれた。一辺30センチのおもちゃ箱のような立方体に、オリジナルテープ「歌うクレセント」と書かれた8トラックテープが刺さっていた。

 「僕は夜の神戸で、店専属の流さない『流し』をしていたから、客が何を求めているかが分かっていた」

 1キロ離れた大阪では、お客が流しの「弾き語り」を聞くのが一般的だったが、神戸ではお客を歌わせる「伴奏」が求められた。「下手な歌を、いかに気持ちよく歌わせるかが勝負」と笑う井上。楽譜が読めない分、耳で覚えた曲を客の口を見てテンポを調節し、歌いやすく転調してジャズオルガンを弾いた。

 「大ちゃんは歌いやすい」。ひいきの鉄工所社長に社員旅行への同行を頼まれたが、あいにく日程が合わない。そこで社長の十八番(おはこ)、フランク永井の「羽田発7時50分」など3曲を、社長好みにアレンジして録音、テープを手渡した。

 「これがすごく喜ばれ、商売になるとピンと来た」。曲の頭出しが容易な8トラックのカーステレオデッキを知人の電気技師に持ち込み、アンプやマイク入力端子、スプリング式エコー、5分間のコインタイマーを付けた。「普通1曲3分だから、曲が途中で切れないようコインを入れ続ける仕組みです」。仲間と素人向けにアレンジした曲のテープも作り、8JUKEとセットで神戸の飲食店10軒に貸し出した。

 最初は恥ずかしそうに歌っていた客も、やがてコインを続けざまに投入していく。「2カ月で注文が山ほど来るようになり、コイン詰まりも続出した」。井上は8JUKEのメンテナンスと出荷に奔走。カラオケは、流しの伴奏で歌う文化があった神戸から花開いた。=敬称略(飯塚友子)

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