さっきトイレ(big)がしたくなって有楽町の巨大mujiにかけこみ、ついでにそこで買ったばかりの新書を読みはじめたら止まらなくなって、30分くらい現場で暮らしてしまったきくっちゃんです。
本当ならもっと早く帰宅するはずだったのに。
えー、突然ですが。
その昔、建築学生だったきくっちゃん。
学びはじめてすぐの頃、ある教授の言ったこんな一言にたいそう肝銘をうけました。
『床や屋根や壁や窓はルーツを自然造形に辿ることができるが、階段だけは人間のオリジナル発明だ』
おお!
なんてかっこいい!
きくっちゃん青年は、これから得られるであろう知識や技術の眩しさに目を細めたものです。
同時に、『自然のマネをしないオリジナルな美しさ』というものを知ったのです

人間、何かモノを発明しようとするとき、まずは自然にお手本を仰ぎます。
でも、それを越えて、なんだか試行錯誤を繰り返すうちにもう全く自然界ではあり得ないへんてこな造形を産み出すことも結構あります。
そんな中で僕が好きなのが自転車。

最初の自転車。1817年-木製だそうです。
素敵。
ペダルはなくて、紳士淑女は足で地面をついーついーと蹴って進むのだそうです。
つなみに今やこんななってます。

去年プジョーが車とバイクと三点セットでデザインしたonyx。

伝説の自転車競技者、クリス・ボードマンさんデザインの自転車。
さて、そんな19世紀ドイツでうまれた自転車は、世界中で大流行します。
それを受けて1893年の春、ウィルバーくんとオービルくんという20代の兄弟が、アメリカはオハイオ州のデイトンというところで自転車を修理するお店を開業します。

はやりにのっかって儲けようとする兄弟。
ちなみにこの兄弟はどちらも高校を中退していますが、持ち前の熱心さと機械製作への探究心でめきめきウデは上達。
当時アメリカでも自転車は大流行。それを受けてお店は大成功。やがて二人は自ら自転車を製作・販売するまでになります。
さて、そんな折り、何をトチ狂ったのか兄のウィルバーくん、新聞で見たオットー・リリエンタールさんのグライダーにココロを奪われます。
おい俺の弟よ。見なよ人間、飛んでるぜ!
ってなもんです。
まあ正確には「ゆっくり落ちてる」ってだけの話で、本当に人間が飛んだ!ってのにはほど遠いアレなんですが。

1895年ころのリリエンタールさん。鳥みたいだぜ。
さてそんなウィルバーお兄ちゃん。ココロを奪われただけじゃなく、なんとスミソニアン協会に「なあなあおれたちもそれやってみたいから資料一式くれよう」と手紙まで書いちゃうおっちょこちょいっぷり。
さて、凄いのはここからです。
いろいろ調べてくとどうもあれは「ゆっくり落ちてるだけやん」ってことに気づきます。
「ちゃうねん。俺が興奮するのは"自ら浮き上がって飛ぶ"ことやねん」って。
兄弟は、持ち前の探究心と機械いじりの才能と自転車工場をフル稼働し、まずはグライダーを試作。
そして、それをなんとか「自力で」飛ばせないものかと試行錯誤します。
その過程で当然、鳥みたいに飛びたいけれど鳥のマネをしててはどうやら飛べない、ってことに気づきます。
まずは徹底的な軽量化。
「とりあえず一回飛びゃあええねん」ってことで、もうむっちゃくちゃによわよわなボディを設計します。
当時はカーボンファイバーもケブラー繊維も当然ありません。
骨は木!
皮は布!
あまりに弱いので、形状を保つためにワイヤーでピンと張る!
つまり、テントみたいな構造です。
次に「自力で」飛び上がるための動力。
1885年にカールベンツによって発明されたばかりのガソリン自動車はまだまだ非力で重く、到底応用出来そうにない。
おし、ほなつくりまひょか、って、これまたエンジンまで自作しちゃいます。
耐久性無視。冷却しない。燃料噴射もしない。燃料は上からぽたぽた垂らす!
次にプロペラ。
当然木!
次に操縦席。
んー。
「それいる?」
「いらんか」
ってことで羽根の真ん中にうつぶせに寝そべる事に決定。
大事なのは軽量化。
次は操縦。
「自分で飛んだ!」って胸をはるためには、上下左右ちゃんとコントロール出来ないとだめです。
上下動は、一番先頭に上下に動くヒレみたいなのを付けました。
ワイヤーで引っ張って動かします。
左右はなんと、翼をワイヤーで引っ張ってたわませることで操縦する気みたいです。
操縦姿勢はうつぶせの寝そべり、手は上下動のヒレを動かすのに使います。
「あ、左右の操縦どうしよ?」
「あ」
「どうしよ」
「腰は?」
「おお!やるなー弟」
ってことでなんと、左右の動きは腰に付けたワイヤーの動きで操作。
さて、そうやって完成した機体を見て兄弟には一つの心配事が。
寝そべった操縦者の真後ろに置かれたエンジン。
いくら軽量化したとはいえ重さは81kg。
もし墜落したら、やわやわボディにふんわり固定のこのエンジンが人間を後ろから直撃しちゃいます。
「どうしよ?」
「どうする?」
「ずらすか?」
「うん」
てわけで、エンジンは右に設置、人間は左に寝そべることに。
「でも兄ちゃん。これだと重さで右に傾かん?」
「あ、どうしよ?」
「右の翼のばしちゃう?」
「おお!天才やなうちら」
てわけで、やっと完成。
なんと、左右で翼の長さが違うっていう、もう最悪に格好わるい機体の誕生です。

↑これが図面で、↓これが写真。

さて、このぶさいくな機械は百年以上前の1903年12月17日、無事に12秒間、距離にして36.58mの人類初動力飛行に成功します。
記録は同日中に59秒-259.69mまで延長。
翌年には5分以上の滞空、4.43kmまでに成長します。
よかったです。
ほんとうによかったです。
飛んだあと、兄弟は自分たちの苗字と「飛ぶもの」っていう意味の単語を組み合わせて、この機械をライトフライヤーと名付けました。
ヘルシーな揚げ物じゃないですよ。
話としてはこれで終わりなんですが最後に。。。
下のライトフライヤーの写真、どちらに向かって飛んでると思います?

常識的に考えたら右下、画面の向こう側ですよね?
正解は手前です。
この写真はコチラに向かって飛んで来てるシーンなのです。
かっこわりいなあ。
たぶん鳥から見たら最悪の格好だと思います。
さらに人間がみても、どっちに進むのかもわからない変なカタチ。
でも僕はこの飛行機が大好きなんです。
それまであったもののマネをせず、無茶な冒険もせず、ただただ目の前のことを解決することだけを繰り返して勝ち取った造形。
その結果が最高に不細工でも、現にライト兄弟は人類ではじめて飛んだんです。
素敵だなあ。
ってわけで、
意思の強さと人間の想像力の豊かさがぎゅっと詰まったライトフライヤーに
『2013きくっちゃん大賞』を、まだ6月ではありますが贈りたいと思います。
かしこ。