午後、Y崎パンに乗り込む。
工場地帯。

きつい労働のかほりがあちらこちらから漂ってくる。
とはいえ、Y崎は学生時代に経験済みなので、それほどの緊張感はなし。

入口で体温をはかられる。
34.1°

もう一回はかられる。
34.1°

これはもう半分死んでいるんだなと思う。

6回くらいはかり直して、ようやく35.9°まで上昇。
生き返る。

受付に行き手続き。
超きれいなおねいさんでテンションアップす。

しばらく経って作業場へ移動。
ヘアネット、帽子、マスク、作業着、アルバイト用の臭そうな上履きなど着用。
目だけ晒して、中近東の女性のごときファッション。



月見だんごのブース。
だんごのかたまりをちぎって機械に乗せる作業。
が、機械に乗っただんごがなかなか減っていかない。
ものすごくひま。
手持ち無沙汰なので、だんごを押してみたりして過ごす。
こんな楽チンでいいのかな、と思うやいなや、
異動を命じられる。


あっちで拾ってください、と言われる。
全く意味分からず。

聞き返すと、ベルトコンベアーで流れてくるパンのなかから不良品を見つけてはじき、ちゃんとしたものをトレーに並べる仕事とのこと。
じゃんじゃん流れてくるコロッケパン。
じゃんじゃん通り過ぎていくコロッケパン。

確認などしているひまなし。

わたしの後ろのおねいさん(別の食品担当)が、コロッケパンを押し戻している。
それを受け取っている間に、前から来たコロッケパンがわたしの前を通り過ぎようとする。
で、通り過ぎる。
押し戻すおねいさん。

これは無理だと思ったところで、コロッケパン終了。


また異動。

こんどは肉まん。
「あみだし」してください、と言われる。
なにを編み出せばいいのか。

巨大な鉄のラックに16個の肉まんが乗った網×30枚。
網を出し、ベルトコンベアーの脇のトレイに肉まんを乗っける作業。
コンベアーの先端から、ばっこんばっこん吐き出されるプラスチック容器。
その速度にあわせて肉まんを容器に乗せるおねいさん×2。
そのおねいさんたちに肉まんを供給するわたし。
これはなんなくこなす。

次、肉まんとピザまんのコンビネーション。
肉まんの網出し、ピザまんの網出しを繰り返す。
肉まんピザまん肉まんピザまん肉まんピザまん肉まんピザまん、のエンドレスストーリが展開。
ラックが終わりに近づくと、わんこそばの要領で新しいラックがやってくる。

ラックが終りそうになる、新しいラックがやってくる、のエンドレスストーリー。
まったく先が見えず。
デスクワークに慣れきった体が悲鳴をあげる。

腕にたまる乳酸。
が、機械は疲れをしらないので、ばっこんばっこん容器を吐き出しつづける。
おねいさんたちも機械の動きにくらいつく。
わたしも乳酸こらえて網を出す。
ほんとに休みなく動く。
16個の肉まんが乗った網が、どんどん重くなる。
思った以上の重労働。

ひとつ向こうのコンベアーでは、わたしと同年代の男性が、
「食べられません」のちっこい保存剤をちんたら乗っけている。
どこへ行っても格差社会である。

とか思っている間にも、肉まんピザまんのコンビネーション。
5時間近くぶっ通しで動きまくる。

高速で同じ動きを繰り返していたためか、意識混濁。
ハイテンションなのか、ローテンションなのか分らない状態。
トランス状態に突入。

作業終了後、ほうほうの体で終電に乗って帰宅。

とはいえ、そこはかとない労働のよろこびを噛みしめる。

12月となる。
冬のはじまりであり、年の終わり。


街のヴォルテージがじわじわと上昇している。


最寄の商店街も電飾のモールがきらきらしだす。



わたしもクリスマスに向けて免疫をつけなくては
きらきらにやられてしまう。



なんとなく船橋のダイソーに寄る。
飴のコーナー。


サクマのいちごみるくあり。




いちごみるく。


そういえば昔、短歌人の歌会のあとかなにかで
小池光さんにライター貸したら、サクマのいちごみるく(スティックタイプ)を
まるごともらったことがあった。


ライター貸していちごみるくをもらうというのもシュールだが、
いちごみるくを所持している小池光というのもシュール。




けっきょく、サクマ式ドロップス購入。


サクマ式ドロップスはチョコレート味が良い。
ひと缶に2粒くらいしか入ってないが、他の果物味の粉をまとったチョコレート飴。
これが独特のうまさをもたらす。




家帰って、くらい缶を覗きながらゆすってチョコレート飴を選び出す。
それっぽい色のをつまみだすとグレープ味。
このあやまちも良い。




食卓のビラのなかにヤマザキのケーキ特集あり。



ページをめくる。




どれもこれもケーキが輝いている。


学生時代、小机にヤマザキの工場があって、
そこでアルバイトをした。



ケーキに苺のかけらを乗せる仕事。


窓ひとつない倉庫みたいな工場で
つまんで乗せて、つまんで乗せる。




三角むしぱんの四角い原型を四等分して三角にするのもやった。



ヤマザキくらいの大手ならすべて機械化されているんだろうと
アルバイト前は思っていたが、
半分くらいは人力である。




クリスマス。



クリスマスのために、ヤマザキでどれくらいのケーキが作られるのか。
少なくとも数万個のケーキが作られるんだろうと思う。


そして日雇い労働の人の数万の指先がその上に苺を乗せる。



クリスマスの華やかさを享受するのは、華やかな人たちだけれども
クリスマスの華やかさを演出するのは、
たいていそれほど華やかじゃない人たちだということが
ほんのりと沁みてくる。





日雇いアルバイトの指先がひとつずつケーキに苺を置いてゆく夜