堂山物語 第38話
ユリムが僕の目の前から姿を消し1~2ヶ月の時間がたった。
ふぐふぐでのバイトが無ければマナベさんとの接点も無くなる。
あれだけ楽しかったバイトが無くなった。
あれだけ激しかったマナベさんとの行動も無くなった。
あれだけ楽しかったユリムとの時間も無くなった。
何か全てが本当に目の前で会ったことなのか?
もしかして全部、夢だったのでは?
そんな錯覚がアタマをよぎることもある。
ポッカリと大きなモノが空いたような日々が続く。
結局、唯一残った生活パターンのパチンコ屋さんに通う
そのパターンにどっぷり嵌まっていく。
意外にも朝10時の開店に必ず並ぶという世間から見ると自堕落な、この生活パターンは
意外にも規則正しい生活でもあってその規則正しいパチンコ屋通いの生活が
「ユリムがいなくなった」という現実から少しずつ僕を解放していったような気がする。
名前も知らないけど仲良くなった、常連のおっちゃんおばちゃん。
仲良くなった店員さん、班長さん、主任さん。
このパチンコ屋さんに行けば僕は笑っている事ができた。
そして、ある出来事がきっかけで僕のココロの中で何かが動いた。
それは本当にしょうもない出来事だったけど今のパチンコ店では
こんな光景は滅多にお目にかかれないだろう。
このパチンコ屋さんは当時イケイケの店員さんが多かった。
僕が当時、食い物にしていた機種は
ミサイル7-7-6D
この機種は超入り難い釘の間を通った玉が
3つの穴のうち手前の穴に入れば大当たり!
という超アナログな機種だった。
超アナログな機種だけに
遊技台を叩いたり引っ張ったり揺すったりと
超アナログなゴトも通用してしまう機種でもある。
だから台を叩く酔っ払いとかも多かったのである。
ある日、僕は131番台を打っていた。
というより毎日131番台を打っていた。
131番台は連動チューリップのより具合が抜群の僕のお気に入りの釘調整の台だ。
夕方頃におっちゃんが130番台に座った。
ダンダンダン!
おっちゃんが台を叩く。
この時に、この2コースにはウメダ君という店員が入っていた。
ウメダ君は、この後に班長になるくらいに活躍?したが
この時は、いまひとつパッとしない子だった。
ウメダ「あの~すいません。台を叩くのやめて下さい…」
おっちゃん「ほんなもん!全然お前んトコが出さんからやろぅに!」
ダンダンダン!
ウメダ 「あの~ホンマやめて下さい!」
おっちゃん「じゃぁーかましいぃーんじゃぁ~!」
ダンダンダン!
ダンダンダン!
ダンダンダン!
ガッシャーン!
「オッサン!こらぁ!
叩くんやったら、コレぐらいせんかーい!」
トウダ班長がハンマーで130番台のガラスを思いっきり割ったのだ!
おっちゃんは完全に縮み上がっている。
隣の131番台を打っていた僕にもガラスの破片は飛んできて
僕も正直、めちゃめちゃビビっていたので、おっちゃんは尚更だと思う。
トウダ「来い!おらぁ!」
トウダ班長がおっちゃんの襟首をつかんで
それこそ漫画のように2コース内を引きずって事務所に連れて行った。
人間が引きづられて連行されたのを見たのは後にも先にもこれが最後ではなかろうか。
130番台のガラスにはハンマーが刺さったままで…
この日の夜に僕のココロの中で何かが動いた。
何でこの日の出来事がきっかけだったのかは分からない。
トウダ班長の行動がいわゆる勤め人ではなく人間っぽく感じたのかもしれない。
ウジウジしていても始まらない。
社会でちっぽけな存在なら、その社会とぶつかってやろうじゃないか。
とりあえず何処かで働いてみよう!
ふぐふぐの社長や店長やマナベさんみたいな人間に近づいてみよう!
こうして僕は堂山町の阪急東通商店街にあった中華料理店に入ることになる。
そして僕は義兄さんと慕うヒロさんと出会う。