つり革の瑕疵担保責任 その1 | 英文契約書と法務と特許を行ったり来たり

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 今回は、日本で取り交わされている資材取引基本契約について。


 これらの契約書において必ず入っている条項に「品質保証」という項目の条項があります。





 例えば、


  「 別途定めがない限り目的物引渡し後一年以内瑕疵発見された場合は対して代替品納入代金の減額または発生した損害の賠償請求することができる


 という条項。





  ちなみに「瑕疵」とは、ざっくりと言うと「欠陥」、つまり納入された品物が不良品だったということです。





 この「引渡し後一年」の保証の範囲ってどこまでなのでしょうか?


 (この場合「別途定めがない」場合とします)





 というわけで、「つり革」を例に考えて見ました。


 つり革と言っても、日本の場合、ビニールとプラスチックの輪でできています。


 (最近は三角形の形状をしているものも多いですが)





 プラスチック製品というのは、通常、「ペレット」という米粒状に加工されたプラスチックの粒を熱をかけて溶かし、金型に流し込み、冷やして、固めて出来上がりです。


 おそらく、つり革のプラスチックの輪もこうして出来ていると思います。





 さて、「ペレット」を納入するプラスチック・メーカーと、輪を作る成形メーカーで資材取引基本契約が締結されたとして、「引渡し後一年」の保証はどんな場合も含むのでしょうか。





 ちなみに、「ペレット」は、お米が入っている大きな紙袋ありますよね?あんな袋に入って納入されます。





パターン1


 成形メーカーに納入され、倉庫に保管されている間の1年間に瑕疵が発見された場合。





 これは当然保証の範囲に含まれそうです。


 倉庫の保管状態に問題ないことが前提ですが、納入から10ヵ月後に使用しようとして、開封したところ、異物が混入していたり、変色している場合、「瑕疵」にあたると思われます。





パターン2


 成形メーカーに納入後、13ヵ月後に輪に成形し、つり革として車両に組みつけられ、しばらくして輪がプラスチックの瑕疵により破損した場合。





 はたしてプラスチックの瑕疵で輪が割れるのか?という疑問はさておき、納入から1年を経過しているので、プラスチック・メーカーに保証責任はないように思われます。


 つり革の納入業者と車両製造メーカーとの間で保証問題となるはず。


(まぁ、通常は「1年経過後でも瑕疵が発見され場合は乙は保証責任を負う」


という条項が入っているので、この場合もプラスチック・メーカーに保証責任が追及されるのでしょうけど。)





パターン3


 成形メーカーに納入後、1ヶ月後に輪に成形し、さらに1ヵ月後に車両に組みつけられ、さらに1ヵ月後に輪が損壊した場合。


 


 これはプラスチックの納入から3ヵ月後に瑕疵が発覚した場合です。


確かに保証期間の一年の範囲内です。


 輪は、すでに成形メーカー → つり革メーカー → 車両メーカー と転々譲渡(?)


されていますが、保証責任の追及が、


車両メーカー → つり革メーカー → 成形メーカー → プラスチック・メーカー 


となされていくと思われます。





 この場合も、多数説は、プラスチックの瑕疵が明らかであるなら、成形メーカーはプラスチック・メーカーに保証責任を追及できる、ということになるのでしょうか。





 さて、では次の場合はどうでしょうか。





パターン4


 成形メーカーに納入後、1ヶ月後に輪に成形し、ビニールも取り付けた後、翌日の出荷前の検査で、プラスチックの瑕疵により、輪がつり革メーカーの要求する図面の規定が外れ、つり革メーカーに納入できなかった場合。さらに、ビニールも再利用できず、廃棄しなければならなくなった場合。





 このパターンは、パターン3と異なり、輪が転々譲渡されていないので、シンプルですね。


 やはり、多数説は、成形メーカーはプラスチック・メーカーに保証責任を追及できる、ということになるでしょうか。





 しかし、パターン3、パターン4は果たしてそうなのか?という疑問があります。


 その疑問については、また次回。