明弘は、呆然とした。
今、ここのメンバーは3年生しかいない。
彼らが入学したのはまだ日本が敵の手に渡る前。
身元も確認している筈なのだ。

「まさか。そんなはずはない。」

しかし翔は緩い笑みを崩さぬまま。

「実際、情報は漏れていますよ?」

新しく入った者はいない。
全員の身元は調べてあり、怪しい所がある者はいなかった。
つまり。

「……結成前からこの学園に潜んでいた、
しかも向こうの組織に偽の個人情報に書き替えられている、という事か。」

明弘は戦慄した。
スパイがいる中、それに気付く事も無く自分達は活動していたのだ。

「そうですよ。
ま、ただの尻尾って訳じゃなさそうですし、誰だか分かれば随分役に立つでしょうけどねぇ?」

ククッ、と翔は笑った。

明弘はその笑いに言い知れない恐怖を覚えたが、顔には出さず、訊いた。

「まだ、と言ったな。
という事は、何かその内通者を炙り出すアテがあるんじゃないのか?」

「耳聡いですねぇ…。
さすがはトップになるだけありますか。
……まぁ、とりあえず貴方以外にも数人には教えられますが。」

明弘は翔が話題をずらしたのに気付いたが、言わないという事はまだ言えないのだと考え、あえて追及はしなかった。

「数人、というのは?」

「この部屋を使える人です。」

何故、という問いに、翔はさも当たり前かのように答えた。

「先程も言いましたが、この部屋には何も仕掛けられていませんでした。

そして、この部屋は貴方達の中でも数人が使用するのでは?
ここには窓もなく密閉された部屋はここと隣だけ。
他は普通教室ですしね。
…しかし隣は扉が開いていました。
この部屋は大人数が入るような広さではないですよね?
対して隣は学園の図面からするとおそらく会議室でしょう。
すると必然的に隣は大勢を集めた会議、こちらは少数での会議に使う。
そう考えたのですが?」

「…………なるほど。」

明弘は浅く長く息を吐き、そして頷いた。

「そうだ。全くもってその通りだよ。
本当に君は……俺が部長だと見抜いたことといい、随分と鋭いな。
……何者だ?」

明弘の問いに、翔は表情を崩し、ヘラッと笑った。
「いやぁ、ただの高校生ですよ?
偶然黒月の組織に残れただけの。」

しかし明弘はジッと翔の顔を見たままだった。

「……耳聡いだけじゃなくて目敏いですね。
いや、勘が良いと言うべきですか。」

「それは褒めているのか?」

「もちろんですよ?
まぁ、変に不信感抱かれても困りますし、貴方だけには教えますよ。
ただしまずはこの事をその数人に伝えてから、ですが。」

翔は携帯をヒラヒラと振って笑った。