時はノックスが高瀬の電話を受ける数日前に溯る。

場所は、翔の通う学園の一角。
部屋には翔と、この“クラブ”の部長である本原明弘との、2人きり。

「さて……用件を聞こうか。」
明弘が身を乗り出して言うと、翔はにっこりと笑った。

「さっき言った事、覚えてますか?」

「……入口で、か?」

はい、と翔が頷くと、彼は乗り出していた身を引いて、腕を組んだ。

「返事は出来ない…と言いたい所だが、それを知っているということは……お前も?」

翔は頷いた。

「それならいいんだが、俺達の中に入れるには信用が足りん。
それに……何故俺達がそうだと知っている?」


翔はにっこりと微笑んで背もたれに身体を預けた。

「1月くらい前、ココに手紙が来ませんでしたか?」

「ああ、部員の1人が街に出た時にいきなり渡されたものがある。
お前の関係者か?」

「まぁ一応。
というか、そんな不審な渡され方じゃ信じないのも無理ないよな。」

翔は軽く溜め息をついて苦笑した。
師匠が接触を図ったが失敗した、と言っていたが、そんなやり方では無理があるだろう。
元々自分を送り込むつもりだったのか…。

分かっていた事とはいえ、師匠のやり方を恨まずにはいられない。

この学園の3年にまだこちら側の意志を持っている集団がいて、そして孤立しているという情報を掴み、すぐに接触を図った、筈なのだが。
まさか手紙一通、しかもこれ以上ないほど怪しい渡し方とは。

「で、それは読みましたか?」

「ああ。しかし信じ難いな。
希望ではあるが、縋る事も出来ない程の夢物語だ。」

明弘のその言葉を聞くと、翔はゆっくりと立ち上がった。

明弘は一瞬身構えたが、すぐに翔が壁の方に歩き出したのを見て、僅かに体の緊張を緩めた。

「……何か?」

翔は壁伝いに歩きながら腕時計を見ている。
明弘は不審に思って問い掛けたが、答えはない。

彼はそっと懐にあるナイフへと手をやったが、翔はなお部屋を歩き続けている。

もう一度、問い掛けようとした時、部屋を一周した翔はソファへと戻った。
最後に再び腕時計を一瞥すると、彼は軽く微笑んだ。

「うん、ちゃんと管理してたみたいだね。」

「は?」

「この部屋だよ。これだけ敵のただ中にいるのにも関わらず、盗聴器一つ無い。
優秀だね。」

翔は腕時計を明弘に向けて見せた。

「探査機……?」

「そう。小型だから範囲は狭いんだけどね。
……さて、じゃあ本題に入ろうか。」