「……高瀬から何も聞いていない、のですか?」

「え、何かあったんですか?」

翔の真面目な問いに、ノックスは数秒呆然としたまま固まり、そして笑い出した。

「…何なんですか。」

翔は、笑う様な話などしていないのに、何故彼が笑っているのか全く分からなかった。

「いやあ、悪いですね。
実は、現在我々の宗主は貴方なのですよ……昴。」

彼は翔を本当の名前で呼んだ。
そして表情を引き締め、声のトーンを落とす。

「高瀬と貴方の父上、そして日本の主な方々の努力で、我々は日本を中心とした形態を保持しています。
そして彼女亡き後、貴方が宗主として日本と連盟を継いでいるのですよ。
実務は父上が代行されていますが、ね?」

今度は翔が呆然とする番だった。

「な……何ですかそれはっ!?聞いてませんよ!
ていうか何でそんなに大事な事をずっと黙ってたんですか!」

「当たり前過ぎて確認するような事じゃあ無かったからですね。
私も、翔は知っているものだと思っていましたし。」

彼は軽く肩をすくめた。
どうやら本当の事の様だ。冗談を言っている様には見えない。
しかし、自分の事なのに、自分以外は知っていたというのは何とも言い難い。

「…師匠のせい、ですか?」
憮然とした表情のまま、彼に訊いた。

「そうですね。高瀬から伝えてある筈でしたよ。」

「………。」

予想通りとはいえ肩を落としたくなるような返事に、翔は溜め息をついた。

「分かりました。
…師匠の事が信じられなくなりそうですけど。」

「まぁ、そう言わずに。
高瀬も何か考えあっての事でしょう。」

(本当にそうなのか……?)

半分不信に陥っている翔はそう思ったが、口には出さなかった。

本当に、本当に知らなくてはいけない事なら師匠が伝え忘れる事はないはず。
普段の態度がアレだから何とも信用出来ないが。


「はぁ……じゃあ、僕は戻ります。」

「では、気をつけて下さいね、翔。あの少年にも…」

彼は道の反対側のコンビニへと目をやった。
翔も目線を追ってそちらを見たが、陸の姿は外からは見えない。

「……大丈夫ですよ。じゃあ、また。」

「ええ。今度はユリシア様と共に。」

ノックスはからかう様に言った。
翔は苦い顔をしたが、何も言わずに車を降りた。