「ショウの知り合いなのか!?」

「あ~……まあ、知人?」

なんだか曖昧というか微妙な表現というか。


「何の用ですか…?」

「久しぶりに会ったんだから少しくらい話したいではないですか。
少し時間いいですか?」

にこやかに言う男性に対して、翔は困ったような表情になった。

「え、でも…」

「俺ならいいよ、ショウ。
その辺のコンビニで時間潰してるからさ」

「悪い、陸」

陸は気にするな、と手を振って離れていった。


「さて、とりあえず乗ってくれますか、翔」

「…………」

翔は黙って車に乗り込んだ。

外車は助手席が道路側なので面倒なことこの上ない。
ちなみにこの車は2シート。

「で、何の用ですか、ノックスさん」

「今はハロルドですよ」

「……何の用ですか」

翔は見るからに不機嫌そうな表情だった。

「そんな顔しなくてもいいじゃないですか。
悲しいですねぇ、私は君の変装の師匠だっていうのに」

彼は困ったように笑った。

「…貴方はユリシアに繋がっているから苦手です。
変装を教えて貰った事は感謝しますが。
というか僕の事を何でもユリシアに話すのは止めて下さい」

翔が憮然とした表情で言うと、彼はさも当たり前のように飄々と答えた。

「仕方ないではないですか。
ユリシア様は私の主ですからね。
彼女が翔の事を訊いて来るのに、答えない訳にはいかないでしょう?」

彼はにっこりと何の悪気も無さそうに笑って言う。

車の横を、ブォォン、と轟音を立ててバイクが通り過ぎて行った。

「……そうですか。
ではユリシアに、僕の事を貴方に聞き出すな、と伝えて下さい。
で、本題は何ですか?」

「高瀬からの伝言です。
『5日後に帰る。それまでに3年生に接触しろ』
……無茶ですね。まだ1週間程でしょう?」

苦笑いの彼に対して、翔は何でもないように答えた。

「師匠の無茶はいつもの事ですから。
このくらいは予想してます」

「そうですか」

彼は微笑み、そして表情を引き締めた。

「貴方の父上は最近政府の動きに不審なものがあると言っていました。
高瀬が急げというのも分かります。
しかし、貴方の正体が露見することだけは避けて下さいね?」

「…分かっていますよ、ノックスさん」

「しかし時間が無いというのも事実。
一人で大丈夫ですか?」

翔はニッ、と笑った。

「一人じゃない。それに、秘策がありますから」