悠は翔の表情を見ても微動だにしない。

「やはりそっちが本性なんだな」

「さぁね。
ところで一つ、聞いてもいいかな?」

「何だ」

「この刀、誰に貰った?」

悠は少しだけ不審そうな表情になった。
喉元に刃があるような状況に、そんな質問をする意図も意味も、理解出来ない。

(何を、考えている……?)

翔は双眸を細め、しかし口元は笑みの形を崩さないまま、言った。

「緋焔(ヒエン)、でしょ?その刀の銘」

「……」

彼女は何も言わない。
しかしその目が僅かに見開かれているのを見ると、翔が言った事は本当らしい。

(何故それを知っている!?)


確かにその刀は特徴的だった。

一切装飾のない漆黒の鞘に、同じく黒い柄。
唯一柄紐だけが真紅の彩を放っている。

そして、最も特徴的なのが、その刃紋。
まるで炎が踊るかのような乱刃。
一目見ただけで刀匠の技巧の高さが分かる。


だからといって、見ただけで銘が分かる訳がない。

この刀は、造られて以来ずっと一つの家に伝わってきた、秘宝なのだから。


「……そうだ。それがどうした」

彼女は努めて冷静に言い放った。
しかし。

「君は、本当にその刀の正統な持ち主なの?」

その言葉に、プツッ、と何かが切れた。

「ッふざけるな!!
緋焔は私が2年前に父上から継いだものだ!
他の誰の物でもない、紛うとなき私の刀だ!!」

悠は今まで出したこともないような大声を出していた。
こんなにも声に怒りを乗せた事も、初めてかもしれない。

少なくとも、母が死んだあの日からは。


「ッ……」

ふいに聞こえた小さな声に、悠はハッとなった。

見ると、翔の首に僅かに刃が食い込んでしまい、一筋の血が流れている。


「わ……分かったな?」
悠は慌てて取り繕うように言った。

嘲りか、呆れか。
たった一つの質問で理性を飛ばすような自分に、彼がどんな反応を見せるのだろうか。

しかし、翔の反応は、彼女が予想だにしなかったものだった。