あるビルの一室。
「おい、帳簿は付けたのか?
明日には上に報告しなければならないんだぞ!」
「只今最終確認中ですので…」
少し古びた、どこにでもあるようなビル。
その外見にそぐわない、贅を尽くした部屋に、男性が4人いた。
そのうち2人はダークスーツに身を固めた、おそらくはSP。
もう1人は、しきりに頭を下げている若い男性。
そしてその若者が頭を下げている相手が、この部屋の主。
飽食の限りを尽くしているような体型で、革張りの椅子に腰掛けているのだが、彼が動く度に椅子が悲鳴を上げている。
「日付が変わるまでには持って来るように伝えろ。分かったな?」
「はい。」
彼が苛ついた口調で命令する。
若者は再び深く頭を下げ、踵を返した。
「……ふん、役立たずが。」
彼は若者に向かって声を落とす事もせずに言い、ふん反り返った。
椅子がギシギシと音をたてる。
「まぁまぁ。そう怒ってばっかりだと身体に悪いですよ?」
「!?」
突然掛けられた声に、彼は驚いてSPを見た。
しかし彼らも声の主を探している様子。
「始めまして、新井健三さん。」
「だ…誰だ!どこにいる!」
彼は立ち上がって大声を出した。
「やだなぁ、目の前にいるじゃないですか?」
その言葉と共に、扉へと向かいかけていた若者が振り返った。
「僕ですよ。
あぁ、本人は隣りの部屋で寝て貰ってますけど。」
「変装か?…誰だ。」
2人のSPが前に出てきて、詰問するように言った。
「政府の任務で来ただけですよ?
名乗るほどの者でもないんで。」
強面のSPに睨まれているのにも関わらず、彼はヘラヘラと笑っている。
「…って事なので、死んでください?」
素早く上げられた手に握られた銃が新井に向く。
しかし、SPがその若者に飛び掛かった。
「あ~、出来れば余計な人は殺したくないんだよね?」
ひょい、と彼は2人を避けると、銃のグリップで1人の後頭部を殴った。
そしてそのままの勢いで振り上げた足が、もう1人のみぞおちに綺麗に入る。
まさに瞬速。
SPがあっという間に昏倒させられるのを見て、新井は何が起こったのかを理解しきれない様な顔で銃を構えた。
しかし腕の震えを押さえられず、照準が定まらない。
若者は、ゆっくりと銃口を彼に向けた。
新井は恐怖に駆られて引き金を引いたが、パンパン、と軽い破裂音と共に壁に弾痕が出来ただけだった。
「駄目ですねぇ。
銃を撃つ時は冷静に狙わなきゃ。
手が震えてるなんて問題外ですよ?
……まぁ、もう聞こえてないだろうけど。」
にっこり笑って言う若者の向こうに、革張りの椅子に深く腰掛けた新井の姿があった。
だらりとうつむいたその額の、ちょうど真ん中から血を流して。
若者は消音器を付けた銃を懐にしまうと、振り返ることもせず、部屋から出て行った。
「おい、帳簿は付けたのか?
明日には上に報告しなければならないんだぞ!」
「只今最終確認中ですので…」
少し古びた、どこにでもあるようなビル。
その外見にそぐわない、贅を尽くした部屋に、男性が4人いた。
そのうち2人はダークスーツに身を固めた、おそらくはSP。
もう1人は、しきりに頭を下げている若い男性。
そしてその若者が頭を下げている相手が、この部屋の主。
飽食の限りを尽くしているような体型で、革張りの椅子に腰掛けているのだが、彼が動く度に椅子が悲鳴を上げている。
「日付が変わるまでには持って来るように伝えろ。分かったな?」
「はい。」
彼が苛ついた口調で命令する。
若者は再び深く頭を下げ、踵を返した。
「……ふん、役立たずが。」
彼は若者に向かって声を落とす事もせずに言い、ふん反り返った。
椅子がギシギシと音をたてる。
「まぁまぁ。そう怒ってばっかりだと身体に悪いですよ?」
「!?」
突然掛けられた声に、彼は驚いてSPを見た。
しかし彼らも声の主を探している様子。
「始めまして、新井健三さん。」
「だ…誰だ!どこにいる!」
彼は立ち上がって大声を出した。
「やだなぁ、目の前にいるじゃないですか?」
その言葉と共に、扉へと向かいかけていた若者が振り返った。
「僕ですよ。
あぁ、本人は隣りの部屋で寝て貰ってますけど。」
「変装か?…誰だ。」
2人のSPが前に出てきて、詰問するように言った。
「政府の任務で来ただけですよ?
名乗るほどの者でもないんで。」
強面のSPに睨まれているのにも関わらず、彼はヘラヘラと笑っている。
「…って事なので、死んでください?」
素早く上げられた手に握られた銃が新井に向く。
しかし、SPがその若者に飛び掛かった。
「あ~、出来れば余計な人は殺したくないんだよね?」
ひょい、と彼は2人を避けると、銃のグリップで1人の後頭部を殴った。
そしてそのままの勢いで振り上げた足が、もう1人のみぞおちに綺麗に入る。
まさに瞬速。
SPがあっという間に昏倒させられるのを見て、新井は何が起こったのかを理解しきれない様な顔で銃を構えた。
しかし腕の震えを押さえられず、照準が定まらない。
若者は、ゆっくりと銃口を彼に向けた。
新井は恐怖に駆られて引き金を引いたが、パンパン、と軽い破裂音と共に壁に弾痕が出来ただけだった。
「駄目ですねぇ。
銃を撃つ時は冷静に狙わなきゃ。
手が震えてるなんて問題外ですよ?
……まぁ、もう聞こえてないだろうけど。」
にっこり笑って言う若者の向こうに、革張りの椅子に深く腰掛けた新井の姿があった。
だらりとうつむいたその額の、ちょうど真ん中から血を流して。
若者は消音器を付けた銃を懐にしまうと、振り返ることもせず、部屋から出て行った。