硬直した男性に、翔は冷たい目を向けて言った。

「正直に、答えろ。
答えてもお前の不利益にはならないとだけ言っておく。」

男性は、翔の目から視線を外せないまま、かなりの時間、黙考した。

そして。

「ああ…知っている。」
彼は小さく頷きながら。

「そうか。それは、敵として、か?」

「…………違う。
私は照らされし者、だ。」


それらは何かの隠語なのだろうか。

男性がそう答えた瞬間、翔の瞳が和らぎ、そして銃も下ろした。

「分かった。僕は味方だ。
ところで、詩織という人は知っているか?」

「!!……ああ。」

まだ警戒が解けない男性は、その言葉に驚き、探る様に訊いた。

「さっきのある人、というのは彼女だ。
……お前も知っているのか…?」

しかし翔はおかしそうに笑った。

そして腕を顔へと持って行きながら。
「知ってるも何も。
だってその人は………」


その腕を下ろした瞬間。
男性はこれまでにないほどの驚きを見せ、地面に片膝をついた。

そして────



=====



「あ~……ショウの奴遅いな…。
ここで合ってるんだよなぁ?」

陸が焦り始めた時、ちょうど翔が屋上に入って来た。

「お待たせ、陸。」

「遅かったな。何してたんだ?」

「え~と、試験官を誘惑?」

「はい?」

「まぁ、要するに試験官の先生を味方に付けたって事。
イロイロ縁があったからなんだけど、まぁ今回はわざわざ手加減とかごまかしとかしなくていいって訳。」

「…………マジ?」

「うん、本当だよ。」
呆然とする陸に、翔はにこやかに言った。

「てことで、どうする?
僕が1人でさっさと殺っちゃってもいいし、陸が殺ってもいいよ?」

「じゃあショウがやってくれよ。
お前が仕事してるトコ見てみたいし。」

「そう?じゃあそうするね。
……って事でセンセイ、お願いね。
落ちない程度にダメな感じの報告。」

「はい。」

どこからともなく声が聞こえて来た。

「あと、学校では知らないフリね。」

「承知しております。」



…何故に敬語!?

陸はそう思ったが、それを訊くよりも早く、翔が陸に言った。

「じゃあ行こっか。」
階段を指して。

「狙撃するんじゃないのか?」

「うん。誤魔化さなくていいならそんな面倒な事しないよ。
あんまり得意じゃないし。」

そして翔はにっこり笑って、
「さっさと終わらせて早く帰りたいしね。」
カチャリ、と。
拳銃の安全装置を外した。