「それでは、テストの概要を説明する。

まず、各ペアのどちらか一人がクジを引く。
そこに書かれている番号の指令書を受け取り、各自任務に赴いて貰う。
必要な物資は、申請し次第用意する。

なお、今夜内に遂行出来なかった場合は、2日、つまり明後日まで延長可能だ。
休日は無くなるがな。
質問は?」

誰も手を上げなかった。


夜8時の談話室。

集まった生徒達が次々とクジを引いて行くのを見ながら、僕は他の生徒達を観察していた。


「ショウ!貰って来たぜ!」
陸が指令書を持って来た。

周りが真剣になっている中で、一人だけニコニコと楽しそうにしている。

コイツは周りの空気を読むとかしないのか。
傍から見るとただのバ……まぁいいか。
わざとやってるって可能性もあるし。


「なぁなぁ、とりあえず何使う?
早めに申請しないと、数が少ないやつは無くなっちまうぜ?」

僕は指令書をサッと読んでみた。

任務は裏の人間の暗殺だった。
名前は聞いた事が無い。
ファイルを見たら、大して大物でもない。

「なんだ。これなら……」

思わず言いかけてしまった言葉を止めた。
ここには教師も他の生徒もいる。

「う~ん……」
僕は陸の手の近くを、指でトントンと軽く叩き始めた。

そして周りに聞こえるくらいの声で。

「武器って言ってもさぁ、何を使えば効果的なのかとか…そうゆうのあんまりよく分かんないやぁ。
陸が決めてくれる?」

「…分かった。
じゃあ狙撃銃と暗視スコープと消音器、
あと拳銃と…一応ナイフも借りてくるな!」

陸はそう言うと、申請をしに行った。


前言撤回、アイツはバカじゃない。

僕が指を叩き、モールス信号で伝えようとした事を、しっかりと受け取っていた。

こういう仕事の人間にとっての常識とはいえ、何の前触れもなしに、しかも本来使われている音ではなく、指の動きでとなると、なかなか完璧に理解するのは難しい。

しかも陸はそれが信号だと気付いた素振りも見せなかった。


「おーい、ショウ、借りて来たよ!
早く行こうぜ!」

陸が、借りて来た狙撃銃やら拳銃やらを手に、こっちにキラキラとした視線を向けてきた。


やっぱり……根はアレなのか……?


半分呆れながら、僕は立ち上がって、陸と一緒に部屋を出た。

その部屋には、まだほとんどの生徒が残っていた。
出発したのは、僕らと一条悠だけ。


彼女は指令書を受け取るとすぐに、何も借りずに行ってしまった。

武器は、腰に差していた刀一本だけなのか。